Member :ミノ、バード、くま
Timeline :
10/7 7:00上高地 13:00水俣乗越 15:30北鎌沢出会
10/8 4:20北鎌沢出会 7:00北鎌のコル南 10:00独標ピーク 13:20北鎌平 14:30槍ヶ岳穂先 16:00殺生ヒュッテ
10/9 05:20殺生ヒュッテ 11:30上高地
Author :くま
槍ヶ岳を意識したのは、いつのころだったでしょうか。もはや記憶は曖昧です。関西時代の山の師匠が「尾根が四方に伸びる様が美しく、あんな山は他にない」と言っていたからのような気もしますし、2年前に燕岳に登って、印象的な穂先の形を見たからのような気もします。あるいは昨夏、裏銀座を縦走(但し槍には至らず下山)している間中、ずっと遠くに眺めていたからだったからかもしれません。
とにかく、あの穂先に登るときには、良い形で至りたい、と漠然とそんなことを考えていました。
フジ兄から北鎌尾根の話を聞いたのは、1年ほど前の総会の頃だったでしょうか。はじめは、自分にはできるだろうか、いや難しそうだな、といった印象でした。きちんと行きたいと言葉に出したのは、5月くらいだったように思います。思った以上に「自分も行きたい」というメンバーが居て、驚いた、というよりは「これ大丈夫か!?」とビビったことを覚えています(結局一緒に行けなかったみなさんごめんなさい)
トレーニングとして狙いを定めていたジャンダルムは、1度は私的な都合であきらめざるをえず。ジャンダルムはなんとか別日程でこなすも、本番と狙いを定めていた9月の連休も台風で潰れ。最後のチャンスと見ていた10月の連休。前週には初雪や初氷の情報も入り、出発前から随分やきもきしました。
直前の予報によると、金曜の夜から土曜にかけては雨。しかし、肝心の2日目、3日目は晴れる、気温もあがり、風もない、という予報に望みをかけての出発となりました。
10/7
初日。案の定雨です。昼頃にかけてやむ、という予報があり、慌てる必要もないからと、沢渡で車での待機時間をとり、当初予定より2時間ほど遅らせて行動スタート。
なんとバードは初の上高地。「ここ『岳』で見た!」などなど。これからバリエーションルートに行く雰囲気はあまり感じさせない初々しさでダラダラ歩きをこなします。
横尾あたりで一度止んだ雨は、結局、大曲から水俣乗越に向かう登りで再度降りはじめ。その後も結局止むことはありませんでした。
水俣乗越からは、いよいよバリエーション。いきなりザレがいやらしい急坂をくだったあとは、止まない雨となかなか標高が下がらない長い河原歩きに思っていた以上に消耗させられましたが、15時半には無事目的の北鎌沢出会に到着。さすがにこの天気のせいというべきか、それとも我々と同じく9月のリベンジを果たすべく、というべきか、5パーティほど入っていました。
夜は、翌日に備えてアルコール一切無し。バードはちょっと物足りなそうでしたが、早々に寝ました。
10/8
0420 北鎌沢出合を出発。私の体力不足、パーティの経験不足を考慮して、参考にしていたフジ兄達の記録より、1時間ほど早く出発です。途中で立ち往生した場合に備え、ビバークしても問題ない水の量を確保しました。
まずはすぐに二股。暗がりの中ですが、特に迷うこともなく右俣を遡行します。昨日の雨で水を蓄えた右俣はさっぱり枯れる様子を見せず、ほとんど沢登りのような状態で登っていきます。途中一箇所、通常なら問題ないであろう箇所が水で阻まれ、ちょっと嫌らしいボルダリングを強いられ緊張しました。
その後は分岐らしい分岐もなくまっすぐに遡行してコルを目指します。コルまでの最後の詰め、というところで、コルよりも左手に向かう道が良さそうに見えました。またしてもフジ兄の記録でも、コルより南に出ていたことを思い出し、こっちで問題なかろうと判断。最後の詰めをこなします(前後してコルを目指していった人も居ましたが、結局こちらのルートに戻ってきたので、こちらのほうが歩きやすかったようです)
7時頃に、北鎌沢のコル南部に至ります。ここにもちょっとしたスペースがあり、しばし休憩。後続のパーティも続々と登ってきて、前後しながらハイマツ帯から明瞭な踏み跡をたどります。
P8?をのぼる途中で、ついに槍が視界に入りました。んー、まだまだ遠い。
天狗の腰掛けに至るちょっとした岩場で、先行のガイド登山パーティに引っかかりましたが、ガイドがここでロープを出しながら「ここで以前、人が落ちて亡くなってねー」なんて話が聞こえてきて軽く凹むと同時に、今日一発目のそれらしい岩場に緊張感が出ます。が、とはいえフィックスロープもあり、ここは難なくクリア。
昨日の雨で一眼レフをやられたミノさん。道中でちょいちょいバッテリーを挿して復活を確認するも、願いは届かず。天狗の腰掛けあたりから左右に広がってくる素晴らしい眺めもにもシャッターを切れず、悔しそうです。
ドーンと独標 |
そうこうするうちに、独標の取り付き地点。直登する先行パーティも見えましたが、こちらは一般的と言われ、DVDでも予習してきたトラバースルートを選択します。一度、ザレの踏み跡たどって大きく降りるも、どうやら違う、ということに気づいて登り返すなどしながら進みます。ザレは踏み跡が残りやすいが、岩には残りにくく騙されやすい、というのはその後の良い教訓となりました。
ザレを行くみのさん |
ザレのトラバースルートを超えた後。DVDではロープを出して確保していた地点に到達。そこから、すぐにピークに向かって直登を開始しました。おそらく、組長のとったルートに近く、フジ兄のとったルートよりも手前の地点から直登を開始したと思われます。手足はそれなりにあるが、4-5手は気が抜けない、というような場所が次々現れます。なかなかひやひやとさせられます。あっちかな、こっちのほうがいきやすいかも、とルートを探しながらのクライミングをしばし。大槍が見えた!気づいたらだいぶ近いぞ!と思ったあたりで、独標ピークに至りました。
1000 独標ピーク。一気に大槍が大きく見えて、ほっと一息をつきます。目安としていたフジ兄の記録よりかなり早い到着で、フジ兄の記録が1時間ずれているのでは?という疑惑を覚えましたが、とにかく前倒しできていた安心しました。
独標ピークでは、直登してくるパーティもいれば、かなり下をトラバースしている単独者、我々と似ていける微妙に違うルートをとるパーティがいたりと、随分いろいろでした。
次なるチェックポイント、北鎌平を目指す道中も、独標までのクライミングに比べると若干ながらマシとはいえ、厳しい道が続きます。
私にとって、最大のピンチだったのが(おそらく)P12。右に巻道はあるけどかなり下がる、イマイチ。左を見るも、これもかなり厳しい。じゃあ直登、といってもほんの数メートル。ここからちょっとハング気味の壁をクライムダウンをしようとしたところ、目測を誤って、足がかからずしばしジタバタ。なんとか足をかけて安定させ、もう一手下げようとしたところで、いい位置にあった岩が2箇所連続でボロボロと岩が崩れました。この時はなんとか体をいれかえて事なきを得ましたが、思い返すだけで冷や汗が出ます。
「極力直登で、巻きは小さく」という事前情報があったことや。独標取り付き時のトラバースルートのミスで、なんとなくざれたトラバースルートを嫌がってしまったことで、判断のミスを起こしたように思います。冷静に考えれば、あそこはクライムダウンよりも巻道を選ぶことは、自然な選択だったように思います。
「北鎌平ってあれですかねー」 |
北鎌平までの道中は、ルートがはっきりしない箇所が多く、パーティで分担して右を見て、左を見て、上を見て。こっちがいけそう、と声をかけあいながら進みました。本当に3人で良かったな、随分楽ができている、と度々感じました。
ピークを超えるたびに大槍が近づき。西鎌、東鎌がずっとよく見えています。特に西鎌方面は紅葉の色合いも素晴らしく、疲労感を忘れさせてくれます。
こんな景色が左右にずっと見えてます |
そんなこんなで北鎌平に13:20頃に至ります。ここでフジ兄達の記録とほぼ時間が一致。これなら今日中に尾根を突破できそう、ビバークはなさそう、とホッとしました。
北鎌平からの大槍 |
ここまでくればあとは、最後の登りを残すのみ、ということで20分ほどの長めの休憩。最後の登りに備えます。
カニのハサミまでは比較的安定した大岩をよじのぼり。ハサミあたりから最後のクライミングです。ルートが無数にとれるように見え、頭を悩ませながらも、「あー!ここが例のチムニーか」などとやりながらのぼっていきます。先行するミノさん、バードを追いかける私が、本当に頂上まだあと一歩、というところでクライミングにザックを引っ掛けて体を引き上げられずしばし立ち往生。なんとか横に体をずらして、先に登頂を果たした二人と山頂で合流しました。
大槍の山頂にて |
山頂に登りきって感想は、とにかく無事に登れたことへの安心感と、高揚感があったように思います。あとは疲労で、あまり感慨に浸ったりする余裕もありませんでした。周囲の状況も狭い山頂は慌ただしく、とにかく写真をとって、苦労の割にあっさりと下山しました。今思えば、もうちょっとゆっくりすればよかったかなぁ。
行列に巻き込まれつつも、順調に槍の穂先からは降り。1600くらいには殺生ヒュッテに到着と相成りました。
10/9
昨日に引き続いて、この日も快晴となりました。3連休帰りの渋滞を警戒して、早々にテントを畳みます。
すばらしい紅葉を眺めながら、余韻に浸るように下山しました。大曲では、「もう一周いく?」なんて言いながら。
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槍ヶ岳北鎌尾根。ここに至るまで、随分いろいろ悩まされました。そして当日も、随分辛かったし怖かったです。正直、私にはまだ時期尚早だったんじゃないか。十分な余力があったとは言い難かったのではないのか、と振り返って思います。
と同時に、大きな挑戦だったからこそ、ここ数ヶ月は、山への取り組み方、向き合い方が随分かわったな、と感じています。フジ兄が「誰かに連れて行ってもらうのではなく、自分の力で行く」ことにこだわるのも、わかってきたように思います。
これで十分だろうか、本当に自分にはいけるのだろうか、という不安があるから、リードしてもらう山行でも判断や選択の1つ1つに注意を払うようになり、自分はどうするだろうと考えるようになりました。もっと知識・技術・経験を蓄えなければならないことも、明確にイメージできるようになってきました。
憧れ、準備をし、何度も不安になり、思いを馳せるから、面白い。そんな山の楽しみ方を経験できました。
今回の山行には、特にフジ兄、ゼロさん、組長から、多大なるアドバイスをいただきました。先輩方のご協力なしには成り立たない挑戦だったと、つくづく思います。本当にありがとうございました。
また今回の山行を共にした、ミノさん、バードにも、心から感謝しています。実力が不足しがちな私でしたが、2人のおかげで、安全に、楽しく挑戦を終えることができました。また次の目標を見つけて、山に登りましょう。