Member : ちえ蔵、フジ、組長
Timeline :5日 土樽駅1222~荒沢尾根~1646荒沢山山頂~BP
6日 BP0645~0740ホソドのコル~0943足拍子岳山頂~1250m付近岩稜1135~1405土樽駅
Author :組長
ジャパニーズアルパイン!!!
泥沼の関越大渋滞の中、暇を持て余した我々は、登山においての目標設定の話やトレーニングの話、さらには人間関係の話まで真面目に議論したり、少しスキャンダラスな秘密を打ち明けてみたり・・・。服部文祥DVDを見ながらの議論は、彼のように結局何をやりたいのか定まることなく、のらりくらりと続くのでした。
でもこういうことを真面目に本気で話し合えることはとても素晴らしいことだし、そういう山仲間がいることに感謝したいと思うのです。僕は友達少ないし。。。
長い関越トンネルを抜けるとそこは雪国・・・ではありませんでした。。。
いつもなら道路脇に堆く積もった雪はどこに行ってしまったのでしょう。周囲の低い山の中間部あたりまではもはや雪すらありません。荒沢山も下部は雪がほとんどなく、ヤブ漕ぎ必至な感じに少々げんなりします。
冬の週末売上日本一(勝手な予想)の田中のセブンでいつものようにレジに並んで行動食と気分爽快ニシテを買いだし、雪壁のない道路をいつもの土樽駅に向かいます。
駅には撮り鉄少年三人組。目の前のヤブからのボロボロ雪稜を攀じろうとしている我々と彼らが世間的にどちらがマイノリティでオタクなのかはよく分かりません・・・。荒沢~足拍子は有名課題といっても所詮狭き山ヤの世界の話・・・。
準備をしていると汗が出るほどに気温が高い。
橋を渡り林道を進みカドナミ尾根を越え北カドナミ沢の流れ込みを通り過ぎた先の小尾根状に乗り上げます。今回のアプローチは、荒沢尾根。カドナミ尾根はこの前登っているので2回目はつまらないということで取り付きましたが、カドナミ尾根よりもかなりワイルドで、楽しいか楽しくないかとかもうそういう議論はよしときましょうよ、ってな感じの尾根でした。川越パイセンは、ヤブにサングラスとストックのスノーバスケットを掠め取られていました。
一つ言えることは、山の総合力は鍛えられるということです・・・。 |
目星をつけていたテン場には既に先客がいて大きな6テンが張ってありました。我々はその手前に4テンが張れるスペースを作り、風も強くなってきたので立派な壁をこしらえました。
夕日に染まる足拍子への稜線を眺めていると、少しプレッシャーを感じました。怖いなと思いました。でも美しいなと思いました。
駅前雪稜荒沢~足拍子は土樽の裏山というロケーションながら、僕がよく参考にする岳人100ルートにもそうそうたえるクラシックルートの中の片隅に?実は選ばれていたりする有名課題です。
個人的に最初に狙ったのは2012年ころだったでしょうか。モトキ先生とカズさんで下降路となる足拍子南尾根をトレースしました。その時もひどく悪い雪質で、まだまだ雪稜の経験の浅かった僕は、大変恐ろしい思いをして、アルパインの厳しさを噛み締めた山行となりました。
それから毎年のように計画しましたが、雨だったり雪だったりで何度となく計画は潰れてからのようやくの決行。1月末にもカドナミを登り、テン場を確認し、稜線のうねりをつぶさに観察しました。
まさに満を持しての縦走・・・笑。
まあここまで遠回りすることはないでしょう。本当にヤバいルートならともかく、我々のような初級者が行けるところというのは、結局のところまあ何とかなってしまうし、短い人生、下降路の偵察なんて暢気なことやっている暇があったらさっさと登ってしまったほうがいいかもしれません。
そうやってガンガン登ってどんどん実力を付ける方が楽しいし効率的かもしれません。
でも実はけっこう遠回りが好きだったりします。楽しかったりします。
何度も目標とするルートを見る、その積み重ねは、実際にルート上に立ったときに特別な昂ぶりを与えてくれます。思いのある登山は必ず最高の時間となります。だからこそコツコツと遠回りしながらやるのかもしれません。
もちろん、山の実力をつけるという意味においても遠回りすることや一歩ずつ進むことが一番大事なことだと個人的には思っています。
ちえ蔵さん、ありがとう |
夜は非常に風が強くなりました。時々ブロックが飛ばされてテントに落っこちてきました。
でもやはり気温は低くありません。軽量化に特化した今回のシュラフは3シーズンよりも薄い盛夏の沢用のファイントラックの化繊のペラペラのシュラフです。シュラフカバーに毛が生えた程度のそのシュラフは、ダウンパーカよりもコンパクトで軽量。でも夜も寒さは感じず全く問題ありませんでした。
ちえ蔵さんも同じシュラフ。今回はバランス命の雪稜ということで軽量化を徹底しました。ワカンも持たなかったし、削れるところは削りました。ちえ蔵さんもわざわざカムに付けていた軽量のビナを外して取り替えてきたそうです。
そうやって削り出した何100gの差が結局のところ、どれだけ歩行や登攀の助けとなるかはわかりません。
でもそうやって装備を吟味する、コレ要らなくね、とか、なくてもいいよね、みたいな検討を重ねる中で、本当に必要なもの、妥協したらいけないもの、が見えてきます。
足るを知る、ということは道具の本質的な部分を理解する上でとても大事なことだと感じます。
そしてまたその過程が楽しかったりします。思っていたよりも小さいザックに収まってしまったときの小さな喜び。ホームセンターで買ってみた山用じゃない安い道具が意外と使えることを発見した時の小さな喜び。
まあその結果の防寒テムレス!!!足るを知ってしまった日本の山道具の最高傑作。越後の山になんて似合うことでしょう。たぶんスマートなフランス人クライマーなんかは絶対使わないでしょう。グリンデルワルトでは恥ずかしくて使えないでしょう、、、、という島国小日本人の偏見。
俺はニッポン人だ! |
朝。
まだ風が強く吹いています。日の出を待って出発します。
風は強くても気温は高く、天気も上々です。少し緊張して、雪とヤブのリッジを進んでいくと細い岩稜のクライムダウンとなります。雪が多ければ雪のナイフリッジになるところだと思います。脆い岩と跨がれるくらいの細いリッジ。朝一なので少し緊張しますが、慎重に行けば問題ありません。
出発 |
ホソドのコルの懸垂下降ポイントまではヤブをつかみながらのクライムダウン。
懸垂支点は太い木でトラのフィックスがかかっていました。しかし、このトラのフィックスでごぼうで下降するのは(登るのも)かなりエクストリームなので、定石通り懸垂下降。傾斜の強い岩の部分は7、8mであとは細い雪壁をクライムダウンできるので、ロープは30mで足りるかもしれません。
土樽側に巻いたと思しきトレースがついていましたが、かなり悪そうに思いました。
狭いコルの先は傾斜50~60度くらいの雪壁になります。傾斜はそれほどでもなく登ること自体はそれほど難しくはありませんが、所々に口を開けたグライドクラックを覗き込むと、いかにもヤブの上にかろうじて乗っかっているだけです、という感じのやばそうな状態の雪壁でした。今にも自分の周囲の雪ごとごっそり剥がれ落ちそうな恐怖感と戦いながら素早く登ります。フジ兄とちえ蔵さんは、スノーバー登攀で切り抜けます。
ホソドのコルへのクライムダウン |
土樽側にはいかにもやばそうな雪庇が張り出し、引き続き足元から崩れ落ちるような恐怖感と戦いながら進んでいきます。
やがてこれまでで最も大きい雪庇が張り出した雪稜に乗り上げます。氣志團もびっくりサイズのリーゼントみたいな雪庇にはトレースが続いていました。昨日のものでしょうか。
感覚的にそのラインは嫌な感じがしたので、そのトレースよりもさらに左側1m位のラインをたどることにしました。
少し安定したところまでたどり着き、フジ兄を振り返って手を目の前の雪面につけました。
ボコっ。
鈍い音がしました。
と、同時に急に目の前の景色が一気に開け、雪庇で見えないはずの土樽駅と関越道の景色が眼下に広がりました。その急激な世界の変化に一瞬何が起こったのかポカンとしてしまいました。フジ兄と目を見合わせます。口が開いたままでした。
目の前の20mほど続いていた雪庇は、一瞬のうちに崩れ去りました。先行者のトレースもろとも・・・。
自分のトレースが生と死の分岐点。
安易に先行者のトレースをたどっていたら、今頃は上越の土となっていたことでしょう。いまさらですが、山の中では、死ぬってことは思っているよりももっと近くにあるのかもしれません。
雪稜のどこを登るかは、もはや感覚と経験の世界です。雪庇の反対側であればあるほど雪庇崩壊の危険性は低くなりますが、反対側の斜面の雪崩の危険性が高まります。そのあいだを探らなければならない。
経験的に見ると、結構、雪庇から遠目のラインを辿る方がいいように思います。思っているよりもさらに2,3歩下を歩くイメージです。
これまでもトレースを振り返ってみて、だいぶ雪庇から遠ざかっていたつもりでも意外と雪庇の上だったということがあります。先行者のトレースを覗くと、空いた穴から100m下の雪面が見えていたこともありました。
不確実な雪との戦いの中では「運」の部分もあるかもしれませんが、なるべく安全マージンを取って登りたいものです。
あとは他人を信用しないこと笑。自分の頭で考えることの重要性を再認識しました。
ひとしきりびびった後も消化不良を起こしてしまうほどに悪相の雪ヤブナイフリッジが続きます。
先ほどの雪庇崩壊でビビリが入り、雪庇の大きいところは念のためロープを出して歩きました。
はやく平で安定した場所にたどり着きたい気持ちになりました。
やっとの思いで一連のナイフリッジをクリアーして、足拍子への最後のリッジと雪壁を登ります。アックスを深く差し込み、右足左足と確実に決めて登高します。
360度に広がる越後の山並みを眺めながら息を切らして登っていき、無事、足拍子岳頂上にたどり着きました。
背後に関越 |
一瞬の喜びのあと、早くも下降路のことを考え始めました。
陽もだいぶ高くなり、気温はますます上昇しています。それとともにますます雪の状態は悪くなってきています。はやく下ろう。
南尾根に向かうコルに出るには雪崩の危険性が非常に高い雪の斜面をトラバースしなければいけません。あたりにはグライドクラックが走り、今に全層で雪崩そうな感じがします。あまりドタバタしないように、かつ、素早く通過してコルに到着して一息つきます。
コル |
久しぶりにかなり痺れました。
核心の先は次第に傾斜も穏やかになり始めます。前回来た時に全層で雪崩ていた斜面が気がかりでしたが、今回はそれほど危険そうな状況ではありませんでした。
そしてようやく安全地帯へ。
緊張してこわばった体を少しほぐす必要がありました。フジ兄も今回はヤバかった、と。終始緊張を強いられた縦走でした。
あとは安心の緩やかな尾根を下るだけです。
土樽駅の周辺の雪はさらに少なくなったように感じられ、春の気配が漂っていました。
帰りの関越からもう一度辿ったボロ雪稜を見上げます。ヤブ、雪庇崩壊、全層雪崩の恐怖、ボロボロの岩のトラバース。なかなか濃厚で渋い山行でした。ヤバかった、怖かった、と思いつつも、こうやってまた見上げてみると、いい経験をさせていただいたという感謝の念が湧きました。
ちえ蔵さん、フジ兄、ありがとうございました。
(組長)