Date : 2016/8/6-7
Member : ちえ蔵、あーさ、ken、組長
Timeline :6日 室堂0945~1024一の越1045~1110東尾根取付~1305龍王岳頂上~南壁偵察&ボルダー物色~1820雷鳥沢テント場
7日 雷鳥沢0708~0925一の越~1035南壁取付き~1244(2P目敗退点)~1335南壁取付き~登山道~浄土山~室堂
Author : 組長

久しぶりに人の多い賑やかなアルプスで岩と向き合ってきました。




前夜入りした扇沢では、昨今の日本アルプスの盛況ぶりを甘く見すぎていたか、無料駐車場は早くも満車に近かった。幸運にも縦列駐車で停めるスペースを見つけられた。見上げる夜空には天の川が煌めいていた。
 
トロリーバスも始発1時間前にはすでに行列。人ごみが嫌いなのでテンションがた落ち。ボルダラーのkenさんは、クラッシュパッドを狭苦しそうにかついでいる。その目立つ出で立ちに、それで寝るんですか?という、あくまで一般人としては正しいというか当然の質問が浴びせられていた。寝るのにもいいし、クライミングもできるんですというkenさんの答えに、その観光客のおじさんはどこまで理解できていたのかはわからない。
相変わらず扇沢の改札では数年前と同じネタで駅員さんが客から笑いを取っている。
プロジェクトXばりに、困難な「破砕帯」の突破をプッシュしまくっていた車内放送は、可愛い山ガールの出演するポップなプロモーションビデオに変わっていた。
 
せっかく山に来たのに満員電車にゆられながら室堂を目指す。室堂ももちろんたくさんの人でごった返していた。登山届を提出する机が並べられ、指導員が登山客の提出していく届に目を通している。明日、劔を目指すと言う前に並んでいた登山客に対し、渋滞で明日の最終便に間に合わなくなるかもしれないから気をつけてくださいとアドバイスしていた。そんな登山イヤだ。
龍王岳南壁Cリッジと書かれた登山届を提出すると、ロープは使えますか?というトンチンカンな確認をされたので、まあそれなりに、と軽く流した。
 
天気が良すぎて暑い。
一の越までは相変わらずの歩きづらい石段を時折渋滞にうんざりしながら進む。一の越から仰ぐ雄山の登山道には、延々と人の列が連なっていた。登山遠足だろうか、ヘルメットをかぶった中学生達が渋滞にハマりながら単調な登山道を登っていく。確かに景色は雄大だが、人ごみの中、前の人の背中ばかり見る山登りに、どれだけの少年少女が山の素晴らしさを感じてくれているのだろうか。自然を感じる、自立の精神を育てる、という教育的観点からすれば、簡単な沢登りなんかこそもっとも適しているのではないだろうかと思うのは、ただの沢キチの思い過ごしだろうか。
 
ともかくも、ここからは人ごみを離れて目の前に広がる広大なカールと青空を鋭角に切り取る美しい龍王岳のリッジに向かっていけることに心が弾む。
 
龍王岳東尾根全景

渋滞中の雄山登山道

龍王岳
 東尾根は明らかにそれとわかる明瞭なリッジで一の越から20分ほどでアプローチできるゴキゲンなバリエーションルートだ。
一の越から少し進んでガレ沢を下降し東尾根の取り付きに到着する。途中、いい感じのボルダーが転がっていて、それらを物色しながら歩いた。
東尾根は一応ロープをだそうかなとは考えていたが、取り付きから見上げてみると傾斜は緩くホールドも豊富そうなので、ロープの必要性はほとんど感じなかったため、とりあえずロープはしまったままアプローチシューズで登りだした。
予想通り、Ⅲの範疇の簡単な岩場が続く。まあ難易度どうこうよりも、底抜けに明るいリッジを立山の雄大な景色をバックに登っていくことの贅沢さに酔いしれた。
取り付きから見上げる東尾根


古のピトン
 前方に2人パーティーが丁寧にロープを出して登っている。練習ならともかく、まあロープはいらないだろう。一般登山道の岩場に鎖がないくらいの感じだ。いやむしろ、剱岳あたりの一般登山道に鎖がなかったらこれより悪い気がする。考えてみると、アルプスの登山道の岩場の鎖とかの人工物が全てなかったら、どんなに楽しいリッジクライミングができるだろうと思う。


背後に立山

岩は比較的固く快適だ

後ろの登山道には渋滞が見えるが、東尾根は我々と前の2人パーティーだけ


 久しぶりの3000m級の高山の日差しの強さを甘く見すぎていた。くらくらするほどの日差し。油断して日焼け止めを塗るのをサボっていた首筋がジリジリと焼けた。
 龍王岳の岩場は比較的マイナーな岩場であると思うが、冗談でkenさんに勧めた稜線のハングした岩場や特徴的なピナクルにはまさかのボルトが打ってあった。ボルト間隔的にはA1による人工登攀ルートだろうか。こんなところまで来て、こんなところを登る。世の中には変態がいっぱいいるのだなぁと思った。

 ノーロープでゴキゲンに東尾根を登りきり山頂にたった。少し短いが、素晴らしいリッジだった。
前夜の睡眠不足でポカポカ陽気の山頂で昼寝タイムに突入しかけるが、なんとか頑張って重い腰を上げ、明日のために南壁の偵察に行く。鬼岳とのコルから御前谷方向に下り南壁を観察する。狙いは主峰南稜だが、龍王岳南面の岩場は非常に複雑な地形をしており、いまいちどこがどこだかわからない。その上、手元の情報は登山体系に書かれた一つの大雑把な概念図だけだった。

今回のクライミングは僕にとっては一つ新しい領域への挑戦でもあった。アルパインというとガイドブックにたくさん載っているようなクラシックルートしか登ったことがなかったが、龍王岳南面の岩場はそれに比べるとかなりマイナーな岩場で、登山体系の僅かな記述以外、ガイドブック等に記載はなく、ネット上の記録もほとんどない。
ガイドブックやルート図に描かれる特徴的な岩峰だったり、既存のビレイ点を探すのではない。どこが登れそうか、ほぼまっさらな状態で岩場を眺め、自分の選択でラインを決める。
そういうルートへのアプローチは初めての経験であった。そういった意味で新しい一歩であるように感じたのだった。
それにしてもやはり岩場の形状が複雑で、結局、取り付けそうなところは見つかったが、その先のラインは明確にならないまま偵察を終えた。
龍王岳南面

テント村となった雷鳥沢

生米を炊いた。尾西がどんなに頑張ってもやはり生米にはかなわない
翌日。
kenさんは、龍王岳の下に転がっているボルダーを目指し、マットを背負って向かっていった。
大きな山にも小さなボルダーにもドラマがある
 ジリジリ照りつける太陽の下、登りづらいガレ場を昨日見ておいた取り付きまで這い上がる。
最初のピッチは、草付きの凹角を登る。思っていたよりも傾斜があり、上部は滑りそうな草付きを避けて左のリッジに乗り、ロープを出して小尾根に乗り上げた。
あらためて目の前のラインを探る。リッジは傾斜がかなりきつく、おそらく5.8位はあるように思われた。トラバースしてうまいこと稜を回り込むルートを探した。

常に敗退戦略を考えていた。ピトンやカム・ナッツはあるが、ボルトなどは持ってきていないから、より確実に敗退出来そうなハイマツ帯を一つのポイントとしてルートを探った。
不確実性に果敢に挑んでいくことができず、どこまでなら確実に敗退できるかを常に考えて登ることはアルパインクライマーとしていかがなものかとは思うが、僕は正直怖かったのだ。
取り付きの凹角
 次のピッチは、時折岩を交えながら傾斜のある草付きをトラバースし、フェースを登って再びハイマツ帯へ。クライミングシューズで草付きを登るのはひどく滑ってなかなか一歩が踏み出せなかった。それでもなんとか一歩を踏み出し、岩角にスリングを引っ掛けて最初のプロテクションを取り、気持ちを落ち着かせるようにわざと大げさに息をついた。
再びの草付きを息を止めて通過し、小さなクラックに小さなナッツを決めて、フェースに移った。草付きと違って岩場は安心感があった。カムを決めて慎重に登りきり、目標としていたハイマツのあるリッジに乗り上げた。喉がカラカラになっていた。

次のルートを探った。右手のフェースを登れば稜上に上がれるかも知れない。取付きから見た感じ行けそうに思えた側壁のトラバースは、傾斜もキツイ上に脆そうなので却下。そうするとやはり直上しかないか。
でもその一歩を決断することはできなかった。もちろん時間的な制約もあった。ここまでも既に結構時間がかかっている。室堂からの最終のバスの時間もある。でもそんなことより、僕には、目の前の不確実性に突っ込む勇気がなかった。

「敗退しましょう」
下にいるちえ蔵さんとあーさに申し出た。僕の判断を信じてくれる二人をありがたく、かけがえなく思った。
そこからヤワなハイマツを支点にして懸垂下降2発でグズグズのガレ場に降り立った。相変わらず、空は極めて青かった。
クライムダウン懸垂


懸垂2発目


どうやら我々が取り付いたのは、主峰南稜ではなく、3峰のリッジだったようだ。残置は皆無でもしかしたら初登に近かったのかもしれない。
今回の挑戦を通じて、谷川とか劔とか数多くの岩場の初登攀者の偉大さを感じた。先がどうなっているかわからない岩場に果敢に挑んでいった先人たちの凄さ。いや今だって、未踏の岩壁に挑んでいるクライマーはいる。
ああいった場面で、勇気を持って不確実性に突っ込んでいけるやつが、アルパインクライマーとして上にいけるやつなのかもしれない。でも僕にはできなかった。
ガイドブック片手に登るクライミングなんてアルパインじゃないと嘯いてみたところで、じゃあ本気でよくわからないルートに突っ込んでいけるのか。
何を目指すのか、何が楽しいのか、この程度のルートで深く自問自答する僕はなんて小さな人間なんだろうと思うと同時に、どんなことにも真剣にやることには意味があると信じてる。遊びであっても仕事であっても。

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