稲子岳南壁左カンテ

2017-06-18

01_無雪期 08_アルパインクライミング i_八ヶ岳

Date : 2017/6/18
Member : ちえ蔵、あーさ、組長
Timeline :みどり池入口ゲート0650~0751しらびそ小屋0805~0930左カンテ取付き~1217左カンテ終了点~1345しらびそ小屋~1438みどり池ゲート
Author :組長


北八ヶ岳のコケの森で静かに癒し系クライミング


前日は瑞牆カサメリで登る。奥の方には人がいたので、手前のモツランドへ。ちえ蔵さんがミルクミルクを粘ってRP。RP戦略が甘いと指摘を受けたとかで、よく考えよく見てしっかり落としていた。オンサイトトライももちろん面白いが、あーだこーだと考えて、自分の中のシナリオがしっかりできてそれが決まったときの迷いなく淀みない動きと、終了点に到達する前に感じる(時として半分も行かなうちに)、もらった!という感覚。RPならではの面白さだと思う。
ミルクミルクは久しぶりに登ったけど最終クリップちょっと悪い・・・。

新潟大学の探検部の3人と一緒にプラチナムあたりをトライ。大学生ともなるとやっぱ随分若いなぁ。自分もまだまだ若いつもりでいるけど、ちえ蔵さんなんかもう彼らの2倍くらい生きてんだから愕然としてまう・・・。残念ながら、三つ子の魂百までというが、いい大人になっても、なんかそんな変わってないなぁ。まあ変わったといえば、若者の登りを、その頑張りを心から応援し、ガンバ!と声援を送り、完登後に暖かい拍手を送ったことくらいかなぁ。内心は少年のままでも行動は確実に老けている・・・。

下山後、お馴染み「ラソバ」で変わり蕎麦を食し、小淵沢で仕事終わりのあーさを拾い、道の駅小淵沢で湯に浸かって寝た。

翌朝。
稲子湯に向かう。みどり池のゲート前にはすでに7~8台の車が駐車していた。早速、苔むした静かな森を歩き出す。あたりにはシダ植物が繁茂し、ジュラ紀みたいだとちえ蔵さん。確かに今にもシダを蹴散らして木々の間からTレックスが姿を現しそうな原始的な雰囲気たっぷりだ。Tレックスは白亜紀だっけ!?まぁそんなことはいいとして、ここの森はコケの観察会なるものが開かれるほど、癒しに満ちた美しい森なのだ。
トレールの途中には古の軌道がところどころ姿を見せる。在りし日に、今でこそ静かなこの森にも木をなぎ倒す男たちのかけ声とトロッコ列車が軌道を軋ませながら駆け下りる「音」に溢れていたんだろう。今でこそその喧騒は去り、森は静かで豊かであるが、森が復活したとか自然保護とかより、むしろその一昔前の人間の活気というかパワーというか、そういうものに強く惹かれた。最近、クマ問題を考える本なんかがヤマケイから出ていたが、つまるところ自然と人間活動にはバランスが必要なんだ。このレールはどこまで続いているのだろうか。そんなことを考えながら思った。
 コケの森をしばしで快適なキャンプ場のあるしらびそ小屋へ。名物のトーストは最近は予約制だそうだ。レトロでウッディーな非常に雰囲気のある小屋の前には小鳥が集い、リスが餌を食んでいた。作業をして帰ってきた小屋の親父が、岩登りとわかると山頂付近の鹿柵のくぐり方なんかを丁寧に教えてくれた。こういう人たちが、人の手の入らなくなった山を守っているのだなぁと感じた。自然はほっておいても守られない。誰かが汗水たらして守っているのだ。そう思うと、なんだかトイレのコインもいつもより多めに入れて行きたくなる。あぁ、僕も老けたなぁ・・・。

鳥の餌を横取りするリス
 しらびそ小屋から平らなトレールを進んでいくと、次第に右手に大きな岩壁が見えてくる。目指す稲子岳南壁だ。声が聞こえた方に目を見やると、3人組のパーティーが岩に張り付いているのが見えた。
稲子岳南壁に出会ったのは4、5年前だろうか。たまたま雪山はじめのハイキングか何かで天狗岳を歩いていた際に、何気なく東面に目をやったらそこに大きな岩があった。凍てついた岩壁はアルパインクライミングに焦がれていた僕の目を魅了した。そうやって「発見」した岩場を登るのもなんだが面白い。あー僕は今あそこの大きな岩のただ中にいるんだと、その映像とともに実感が湧く。まあ「発見」といってもそもそもここ稲子岳南壁は昔から登られているクラシックな岩場で、最近は手頃な「商材」に目をつけたガイドによって支点の整備や浮石の除去などが行われ、雑誌にも紹介されるなど、長らく顧みられなかった岩場にあっても、唯一毎週多くのクライマーにトレースされているルートとなっている。

壁への取り付きは、中山峠に向かう途中の看板があるところから踏み跡をたどると雑誌やなんかで書いてあったが、随分と峠方面に登り出してしまって、なんか違うんじゃないかと思い、少し戻った南壁が見える平坦なところから取付き方向にコンパスを合わせ、樹林内を進むことにした。樹林内に入ると壁は見えなくなるが、藪こぎというほど厄介なものはなく、方角さえあっていれば直に壁には到達する。壁に近づいていくと最後は少し傾斜が出てきてから無事に基部にたどり着いた。さて、左カンテはどこかなと探し始めたところに真上から声がして、まさに取り付きで2人組が登攀準備をしているところだった。スタートは壁の基部からかと思っていたが、一段上がったところが左カンテの1P目だ。少しわかりづらいが取り付きの木にはテープがあり、見上げる1P目には他の人の記録にも散見される赤いピトンがあった。
1P目
1P目は傾斜の寝たフェースを登り、少しの歩きの後、ピナクル状の乗っこしの先の岩にビレイ点がある。ピトンが散見されるが、クラックに支点は十分取れるので、使う必然性はないだろう。15mにも終了点があるが先まで行くのが自然だ。
赤いピトン

1P終了点直下。すぐに視界が開ける。しらびそ小屋も見える。

1P目終了点
3人なのでリードはジャンケンで交代。核心と言われているとか言われていないとかの2Pを勝ち取ったのはちえ蔵さん。すっきりとしたコーナーだ。ここは中間支点にもハンガーボルトがあるが、目の前にクラックがあるので、こちらも不要。するすると淀みなくロープを伸ばして次のテラスへ。
2P目のコーナー。右壁に2発ボルトがあるが要らない
3P目はあーさが出撃。
正面のチムニーか、その少し左のワイドハンドのクラックか、どちらでもOKだが、チムニーはすぐに左に逃げないと、上部にやばい落石爆弾が滞留している。ルートとしては左のワイドハンドに進んだほうがすっきりして面白い。ボルトもあるが、4番あたりを決めて上腕をクラックにロックさせてリップを取ればもう安心だ(5.7)。
右の垂直のフェースには、A1用とみられるリングボルトのラダーが見える。ここ稲子岳南壁はほかにも多くのルートがあるようだが、見渡す限りどこも脆そうだ。こんなところをボルトを手打ちしながら、這い上がっていたんだと想像すると、なかなか特殊な遊びだなぁと思うとともに、なんか昔のクライマーのパワーとかバイタリティーとか未知のものに挑む情熱とか、なんかそういう熱いものを感じた。ガイドブック片手に、ネットの記録を読みあさっていくアルパインとは違う。根性入ってんなぁと思う。明らかに不自然なそのライン取りという点は置いておいて・・・。
3P目。チムニーの上部はかなりやばい


ボルトは複数有り

この左がチムニー上部。たぶん震度4くらいで落ちる
4P目はただのガレた尾根歩き。そのまま右手の岩峰を巻くように左のルンゼから稜線に歩いていちゃいそうだが、右手の岩峰に上がれそうなルンゼ状の基部にハンガーボルトが打ってあって、ここから上がることが分かる。一度ピッチを切って、ルンゼ状か右手のフェースを登って岩稜上へ。大きな岩にメインロープを回してビレイ点とした。
4P目のガレの尾根歩き

5P目のルンゼ状のフェース
岩稜上に上がると稜線までは目と鼻の先。すぐ右から歩いて稜線にたどり着けるが、最後は取ってつけたような3~4mの壁を上がり終了。終了点からは硫黄岳や天狗岳、中山峠などが見渡せ、眼下には辿ってきた緑の森が広がっていた。静かで気持ちのいい場所だ。

あたりの砂礫にはコマクサが群生しているらしいが、まだシーズンじゃないのか見当たらない。小屋のオヤジに教えてもらった鹿柵の出口に向かった。

全体的に難しいところはほとんどなく、アプローチのコケの森のハイキングやしらびそ小屋の雰囲気なども楽しみながら、癒しを求めてやってくるくらいの気分がちょうどいいルートだった。ビレイ点以外はもう少しボルトなしでもいいかなと思う。
左カンテのような整備されたルートを登れば登るほど、過去のクライマーの軌跡に目が行く。コンペクライマーのニュースがテレビを賑わせば賑わすほど、池田功のトークショーに惹かれる。クライミングの真髄はカウンターカルチャーだと思ってる。僕もその魂のカスくらいは引き継いでいきたいな。
最終P

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