野呂川シレイ沢

2018-09-26

06_沢登り j_南アルプス

Date : 2018/9/23-24
Member : 組長、あーさ、ちえ蔵、バード
Timeline :23日:白井沢橋0830~1245白い大滝~1355二俣~1440奥の二俣BP
24日:BP0700~0841稜線登山道~薬師岳~夜叉神峠
Author :組長


サブプランの意地・・・


雨多すぎ・・・
日本中の山ヤが天気図とにらめっこし、ヤマテン予報にため息をつく秋の連休。
多分に漏れず、北ア、台高、志賀高原の大渓流の本命に振られ、サブサブサブプランのシレイ沢へ。
前日は、まあいろいろあって、甲府兜岩に行ってみたり、信玄餅テーマパークで製造工程を社会科見学したり、ピラニアでヒモとボルダーに興じたり、挙句の果てには、石和温泉の堕落の館、薬石の湯かいせんで、温泉→ゴロ寝→マンガ→寝落ち、という典型的な堕落ロードを突き進み、連休初日を終える。

翌日。
怠けた目に飛び込んだのは、芦安村を占拠する登山者たちのクルマ。ある程度予想はしていたものの、夜叉神に1台おいて下山は楽チン!計画は敢え無く崩れ去り、芦安村の団地の片隅の臨時駐車場になんとか駐車、準備万端のハイカーの皆さんを既に満載したジャンボタクシーを待たせてしまっているからと、取るものも取り敢えず、急いでザックにいろいろ詰めて乗り込む。

ふー、と一息ついたところで、車窓からは威風堂々、ジャパン第2の高峰が屹立しているのが眺望できた。
途中、先に言っておいた白井橋で降りていくボクらをポカーンとした顔で見ているみなさんを気にせず、思いのほか水量が多く、そしてなによりも寒いシレイ沢に着いた。
白井沢橋から見下ろす最初の多段の連瀑
 西向きのシレイ沢は、朝方はまだまだ陽が当たらず、寒々しい。気温もあって15℃程度だろうか。
眼下には、元気よく飛沫を上げまくっている渓が続いているが、さすがに今日は濡れずに行こうと皆で決意して、橋の欄干から懸垂下降して渓に降り立つ。
歩いてもいけるけど、安全第一
 先ほどの決意は早くも活きのいいF1の中で取り下げざるを得なくなる。ドバドバ浴びながら進んでいくが、思った以上に水温が低く、声を上げずにはいられない。赤黒い岩肌は、想像以上にヌメリが強く、テンションが上がる(??)。
はい!さっそくずぶ濡れ~
 最初の多段滝と渓中唯一の赤い堰堤を乗っこすと、一旦渓は穏やかさを取り戻すが、水平距離2.4kmの中で一気に1220mも標高を上げるこの渓は(黄連谷とほぼ同じ)、そりゃ当然のごとく滝、滝、滝の連続となる。とあるガイドブックにはF32まで振られていたが、もはや数えるのも馬鹿らしい。

前半の滝は比較的高さはないが、水量も結構あるのとあまり濡れたくないのと、結構ヌメるのとで、
次第に巻きが多くなる。
鳳凰山の稜線付近は花崗岩であるが、シレイ沢の下部は、黒い岩肌。ブラタモリでタモさんから吸収した豆知識くらいしかないボクの頭では、それが何岩なのかは判別がつかない。上流から流れてくるのか、沢床は白い花崗岩の砂利が敷き詰められ、そのコントラストが美しい。
最初は5mクラスが連続

なるべく濡れないラインで
 シレイ沢は、2014年の関東の大雪の影響で渓全体が倒木で埋め尽くされ、沢ヤの間では「死んだ」と言われていた。確かに、倒木は多く、それによりその美しさは削がれているとも言えるが、それもこれも生きた渓の歴史の一つ。バットレス崩壊が北岳の生涯のほんの刹那に過ぎないのと同様に、今、シレイ沢の刹那の歴史を辿っているに過ぎない。
これから南ア林道の工事で、シレイ沢へのアプローチが困難になるという噂も耳にする。諸行無常の一つ一つを大事にしたいとなんか思うた。
時には倒木に助けられる

手がしびれるほどに水が冷たい
もし泳ぎポイントがあったら、確実に死ぬと思った

直登したらまた滝、巻いたらまた滝

近づくとデカイ!!
中盤以降は、滝が一回り大きくなってくる。
ガイドブックには10m程度と書かれている滝も、近づくと思った以上にでかい。たぶん15~20mはあるだろうと思われる滝が、相変わらず間断なく立ちはだかる。
実力のあるパーティーなら、どんどん直登していくのいいだろう。ただ、大概シャワーになるのと、両岸は比較的なだらかなので、どうにも巻きたくなってしまう。
巻きは比較的簡単という評判だが、最初から踏み跡明瞭というほどのものでもなく、しっかりルーファイしてここだ!と思って進んでいくと、実は踏み跡があった的なことが多く、高巻きの練習帳のような渓である。

先輩風吹かせて、バードくんに高巻きにおけるルーファイの基本を教え、そして最後は下山後の温泉でこう宣う。
「高巻きは鼻でするもんだよ、ちみ!」
出た、沢ヤの決め台詞。意味不明だ!

ふと、振り返ると紅葉した池山吊り尾根とバットレスを従えた北岳が大きく羽を広げていた。
北岳さん

結局また濡れる

15mクラスの連瀑

中盤以降はかなり明るくなる

登れそう。
進めば進むほど花崗岩色が強くなってくる。
ガイドブックで「王様のような滝」と形容される20mの美瀑を左から越えると、空は大きく開け、緑の裂け目から一筋の美しい羽衣のような滝がさらさらと流れ落ちていた。


20m滝


左から巻く

白い滝30m
清々しい気分になる素晴らしい空間だ。両岸、とりわけ左岸には天まで伸びる白いスラブ帯が続き、森の間から落ちる白い水流は、どこか上品で優雅な雰囲気を醸している。まさに「白い沢」と名付けられる所以がそこにあった。
バードくんに水線直登による白い滝の初登でレジェンドになれと勧めたが、まだ死にたくはないといっていた。
しばし滝の下でのんびりする。
巻きはどちらからでもいけそうだ。少し古いガイドブックには左岸の草付きスラブを直登してワンポイントⅣと書いてあったが、まあ普通は巻きだろう。左岸のスラブと樹林帯の淵あたりを辿り、落ち口に向かってトラバースをしていく。よく踏まれていて危険なところはない。


バードくんにスライダーを決めてレジェンドになれと勧めたが、ロックスタじゃないからレジェンドにならなくていいと言っていた。

振り返ればいつも白峰三山

白い滝、巻き中

落ちたら犬死するトラバースは、安全第一でフィックス

ビレイがなっていないと再び先輩風吹かせる
白い滝の後のナメ滝を越えていくと、二俣。本流は右から5mくらいの滝となって出合う。左俣は、大きなボルダーの先に6~7mほどの滝をかけているのが見える。
白い滝の上のナメ滝

二俣。右に入る。
右俣の最初の滝をシャワーで越えていくと、劇場のような空間の15m滝。段々になっていて、マントルの練習にもってこいに見えたが、入口の小滝で濡れたカラダは、水を明らかに拒絶していたので、ここは大人しく右岸を巻く。
劇場のような滝
水はどんどん少なくなっていき、左岸にはいたるところから水が湧き出している。奥の二俣と思しきところからすぐ先の5m滝を越えると、すぐ左に絶好のテン場。付近の樹木が素行不良の沢ヤどもにノコギリで伐採されているのが気になったが、薪も豊富にあり、何より目の前に白峰三山が広がっている素晴らしいロケーションだ。渓の中で、山懐に抱かれて酒を呑むのもいいが、こうやって開放感に溢れた渓の夜もまた素晴らしい。
4テンだと少し狭い

酔っ払って下に落ちないように。
イワナもいないので、釣りはできない。まだまだ15時くらいで時間はいくらでもある。何もすることはなく、ただ山を見て陽がかげってきたら火を熾して、ハラが減ってきたら飯を食った。
日も暮れると、うっすら空を覆っていた雲が取れ、星が瞬き出し、背後にいるであろう中秋の名月は、ここからでも分かるほどに北岳バットレスの岩肌に明暗をつけていた。
真っ暗になっても、バットレス4尾根の終了点付近には、まだまだ頑張っているクライマーのヘッドライトの明かりがチラチラ見えた。その灯は、その日のうちに黒い山の一番上までたどり着くことはなく、次第に消えた。時間切れで寒さに震えながらお座りビバークでもしているんだろうか。彼らの疲れた視線の先には、僕らの暖かい一点の火がちらちらと見えていたかもしれない。
渓はいい、やっぱいい

350のビールはあっという間になくなり、「本当は350も入ってないんじゃねーか?」
「そうだ、本当は250なんだ」と意味不明の議論に興じる人たち。
僕はいつものように、地べたにマットを敷き、焚き火にあたりながら、片手に白峰三山、片手に日本酒。
翌朝。
再び火を熾し、朝の優しい光を浴びる北岳を眺めながら、のんびりと朝飯を食す。昨日に引き続き快晴。 

遡行を開始すると、まもなく水は涸れ、急峻な岩の墓場のようなルンゼとなる。岩はかなりもろく、時折、手ごわい棚が現れるが、うまいこと左に右にかわしていく。かわした先であざみに刺さりまくり、悪態つきながら進んでいくと、次第に両岸の紅葉した樹林帯が迫って来る。
歩きづらいザレた沢床を離れ、樹林帯を進んでいくと、次第に前方の空が大きく広がっていき、樹林を抜けると、花崗岩の砂礫地の先に観音岳の白いピークが見えた。山頂にはたくさんのハイカーがはしゃいでいる。右手を見ると薬師岳だ。
そして振り返れば、昨日からずっと一緒だった白峰三山と、仙丈、さらに塩見、荒川三山、そして聖や光など南アの主役たちがエンディングに華を添えるように連なっていた。

脆い急峻なルンゼ。
弱点をつかないと結構手ごわい。

岩の墓場のような場所

秋深し


左に観音岳

右に薬師岳

白峰三山と池山吊り尾根


そしてこの山
下山は、なだらかな稜線を夜叉神まで下るが、魅惑のボルダーがいっぱいで、いちいち立ち止まってラインとムーブの確認をしているもんだから、なかなか前を行くハイカーのあんちゃんに追いつかない。
割れ目に吸い込まれていくいい大人たち。カラダを右向きで行くのか左向きでいくのか、真面目に議論するいい大人たち。
なにはともあれ、とにかく気分爽快な渓だった。
サブサブサブプランといえども、そこは日本百名谷にも選ばれている南アの銘渓。黒い岩と白い沢床のコントラストが美しい下流部、明るい渓相の中、大きな滝をいくつも越え、そして現れる一筋の美しい白い滝、そして最高のロケーションのテン場と岩の墓場からの開放的な天空闊歩の稜線へ。清々しい、いい渓であった。

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