Member : イチコ
Author : 同上
花と夕焼けのハーフドーム
概要
5月初旬。休暇取得のチャンスがにわかに舞い込んできて、
それから突貫突入、 5月末から、初の海外ロングトレイルに行ってきました。
向かったのは、アメリカ西部 シエラネバダ山脈。
今回は、山行を二つに分けて、
①トライアル山行 1泊2日(下記黄緑)
②メイン山行 7泊8日(下記ピンク)
Mammoth lakeという町から Yosemite Valley まで計10日間の山歩きになりました。
実は、このエリア、JMT(John Muir Trail)の一部でもあり、
Yosemite VallyとMt.Whitneyをつなぐ全長340kmのトレイルの北部3割程度にあたります。
標高は概ね2500m-3200m程度を上がったり下がったり、ゴールのYosemite Valleyは1200m程度のところにあるので、最後は下り基調になるルートです。
時間をたっぷり確保して、どこを歩くか、今日どこに泊まるか、
自然と自分の状態だけで決めていく。
そんな、日々の日本では実現しづらいスタイルで山歩きできたのが一番の成果でした。
記録
ここからは写真も交え、それぞれの山行を振り返りたい。
現地入り(Bishop)
5/29朝にL.Aに到着し、電車・バスで18時頃Bishopの街についた。
5/30は準備にあて、翌日からトレッキングを開始する算段だ。
もともと当初のプランでは、Bishopから山に入り、Mammoth lakeで一度町に降り、12日間でYosemiteに抜けることを考えていた。
ただ、JMTを多くの人が歩き始めるのは6月下旬以降とされており、6月頭は残雪期(融雪期)。
どちらかといえばオフシーズンだ。
実際、エリア内のRanger stationは閉業しており、リゾート(山小屋)は限定的な営業を開始していたり、いなかったり、エリア北部のTioga roadは5月末にようやく冬季閉鎖が開通するなど、シーズンイン直前の微妙な時期だった。
Bishopのアウトドアショップやホステルで、予定ルートの情報を集めるも人により見解が様々で、天気予報も得られるがそれがどの程度の精度なのか、わからない。
無理はできないので、Bishopからバスで1時間ほどの、登山口が街に近いMammoth lakeを起点にトライアル山行を実施して山域を知ることにした。
①トライアル山行(1泊2日)
■1日目(5/31)
湖からスタートして標高をあげていくと雪が出てきた。
時より踏み抜くような状態だ。
3時間ほどで周囲の険しい稜線が見え始め、半凍結の湖も現れた。
結構際どいかに見えたトラバースもツボ足で通過。
雪のないところは明瞭なトレイルがある。
JMTに合流するDuck Pass(峠)に上がる急登でレンタルアイゼンを出してみた。
コバ無しの靴にもつけられる前後両バンドタイプだが、思ったよりも固定感がある。実際は、あったらラク、くらいの雪の固さだった。
■2日目(6/1)わりと朝、初の本格的な渡渉。地形的に緩やかな場所にもかかわらず、まあまあの水量で、急な地形のところ、より川下のの渡渉が心配に。
ひとまず周回を終えた
(左手の低いところのDuck Passから見えている山の裏手を回って右から下山)


Vernal fallとMist trail
一度Bishopに戻り、翌日からの計画を再考。
さんざん悩みに悩んだ挙句、最終的に渡渉リスクを乗り越えることができず、当初のBishopからのルートは登山口まで行ってみることもせず、Mammoth lakeから入りなおすことにした。
②メイン山行(7泊8日)
■1日目(6/2)
クマ対策のため食べ物はベアキャニスターに入れなければならない。
11.5L入るこの容器だけで1.2kg近くある。
限界まで隙間を減らし、詰められるだけ詰めこんだ。
20,000kcalにも満たないように見えるが、結果的に8日間なぜか足りた。
水は、ルート上に小川が無数にあるので心配いらない。(要浄水器)
ザックは、このときと同じロケット(?)スタイル。
雨蓋を取って絞るとLCCの機内持込にも対応する変幻自在ぶりだ。
Red Meadowに近づくと、33年前の大山火事の痕跡だという樹林帯が広がる。
見事な六角形の柱状節理がこれでもかと集うDevil's postpile
でも蚊がやばいのですぐ通り過ぎた。
■2日目(6/3)
ルート上の渡渉地点が、明らかに無理な水量で、しかもまもなく大滝(Minaret falls)の落口がある。
上流で渡れるところを探し、最悪戻れることを確保しつつ小渡渉を繰り返し、
最後3mくらいはこの丸太沿いで腰まで浸かった。
この後すぐ想定通りのトレイル上に戻ることができた。2時間以上経過していた。
メイン山行はバッテリーが確実に持たないので、GPSは使わずに来た。
ところが、ベースプレートコンパスがなぜか逝ってしまい、
2日目午前にして、黄色い方のおまけみたいなコンパスを補欠から一番手に大抜擢する事態に。
地図は約63,000分の1スケール。果たしてどこまでいけるか。
雪がトレイルを隠すエリアは、何度も行って戻って、完全にトレイルを見失うことがないように進む。
点在する湖は現在地特定の重要なキーなのだが、問題は全部の湖が地図に載っているわけではないことだ。
この日は山脈が眼前に迫る絶好のポイントに幕営。
エリアに指定テント場はなく、
トレイルや水場から指定の距離を離れること、草地でないこと等のルールを守ればどこで張ってもよい。
■3日目(6/4)
朝、高台からGarnet lakeを臨む。
ここは対岸にトレイルを発見し(突き出た半島状のあたり)、現在地を確信。
午後になり、暗い雲が立ち込めて雷鳴がとどろいたので樹林帯に退避。
黄色いおまけのような温度計は7℃を指している。寒いわけだ。
天気は微妙なまま、踏み抜きを避けて進む。
ルーファイのためにも小ピークに上がるが、いまいち想定と見える景色が整合しない。
今までで一番長い時間現在地をロストしている。
とはいえ場所は、もっとも街から離れたエリアに入っており、
まる2日以上誰も見かけていない。
これから何かあれば、来た道を戻るだけにしても3日以上かかる。
そんな不安な気持ちから立ち直ろうと、夕食にはベーコンを取り出すが
なぜか色が一向にピンクのままで、生なわけがないと分かっていてもぜんぜん箸が進まず。
でも、夕日は綺麗に見えた。(夕日といっても21時頃)
■4日目(6/5)
明け方、水たまりは凍っていた。
食料切れの恐れがあるので、あと2時間半現在地が分からなければGPSを見ることを決めて、
きた方向に戻りつつ、ルーファイを続けることに。
するとまもなく露出したトレイルを発見。(真ん中あたり)
トレイルに復帰すると、見事な鏡面反射に遭遇。
このあと、YosemiteからTuolumne Meadows、Donahue Pass経由のJMTハイカーの二人に遭遇し、少なくともそのルートで行けば歩いていけることが判明。
現在地も分かり、一気にリスクが減った。
標高の高いKoip Pass経由の方が踏み抜きがマシではないかと思い、
JMTから外れることにした。JMTを外れても、景色は美しい。

足の違和感を覚え、みると見たこともない深い皺(溝?)がふやけた足の裏に走っている。
200年生きた老婆の手もこうはなるまい。
思えば絶えぬ残雪歩きと渡渉で、
トライアル山行の初日以来、私の靴は、
濡れているか、
極度に濡れているか、の2つの状態しかない。
(8日目にYosemiteに入るまで続く)
強く在れ、と足に念じて(つまり何もせず)進む。
Gem Passに達するが、ここから下降ルートが見つけられない。正しい方向は急すぎるように見える。
地図にない尾根と谷を何度か往復するが、むなしく2時間ぶりに同じ場所に戻る。
また雷鳴がきて、一時フライシートをかぶってしのぐと17時になっていた。
今ここにいると今後のKoip Passの通過は厳しい。
GPSをみれば進めるだろうが、それはまだ今じゃない。JMTに戻ればいいだけだ。
と敗退を決めてフライシートを出ると、気分まで晴れるような山並みがみえていた。
この日は樹林帯で幕。

■5日目(6/6)
JMTにもどると、雪で隠れたトレイルと踏み抜きで苦労したが、
ある程度近づくと、Donahue Passは地形的にはっきりしてきた。
上がりきるとライチョウがいた。
だからか分からないが、このあと雹に見舞われた。
一気にLyell川方面に下り、19時頃分岐に着く。
残食料を確認すると、Tuolumne Meadowsに寄らずともYosemiteに抜けられそうだ。
JMTから外れて、西側の山中からYosemiteを目指すことにした。
■6日目(6/7)
ゴールまで見通しもかなり立ってきたので、
地図上で明瞭な3つのピークに囲まれたIreland lakeに立ち寄り。なかなかの迫力。
元のトレイルに戻り、進むと、(多分)Fletcher Peak。こちらも迫力がある。
この日は前日より激しい雹が降り、フライシートをかぶっているとこのたまり方。
Vogelsang Pass目指して進む。
トレイルはほぼ隠れていて、なんとか貧弱コンパスでルーファイしてPassを超えるが、
これまた下降するはずの方面が急すぎる。
ここでも地図にない尾根・谷を行き来して、今回はなんとかトレイルにいったん復帰。
ただ、下る方面の景色がいまいち整合せず。
入るべきMerced川の谷筋は見えているが緩やかに下れそうな感じがしない。
所詮歩きの範囲のトレイルが少なくとも雪の下にはあると分かっているのに、翌日のプレッシャーを感じながら就寝。
(これがアルパインの範囲だったらと思うと...)
■7日目(6/8)
翌朝、ひとまずGPSは封じたまま、進む方向にルーファイを開始。
すると、割とすぐトレイルを発見。
今回歩いたエリアの中は、基本的にトレイルの周辺はどこでも歩けるような緩やかな地形で、少しトレイルを外したくらいで進退窮まるような傾斜に入ることはない。
ただし、思えば、敗退したGem Passにしろ、Donahue Passにしろ、Vogelsang Passにしろ、Passの前後は地形は急で、トレイルを見つけることが通過の決め手になっていた。
トレイルは融雪で沢になっていた。
Merced川沿いを一気に下ると、もはや残雪はない世界だ。
ただし、蚊がありえないほどいて、テントを張る場所を求め一度標高を挙げてYosemiteに向かうことに。
これが正解。
最終日の宿はハーフドームを臨む花崗岩の台地に構えることができた。
■8日目(6/9)
Yosemiteからのデイハイクのエリアに入れば、JMTといえども、もはや観光地の雰囲気だ。
たぶんLiberty CapとNevada fall
Vernal fallとMist trail
そして、17時過ぎ、ついにYosemieteに下山。
結果的に、7泊8日無補給、GPS不使用。
あんな黄色のおまけコンパスも貧弱などと侮れないものだ。
■予備日(6/10)
予備日はYosemite観光に使った。
両足対称に7か所ずつできたマメが、不思議なもので急に下山後から痛さが気になる。
夕暮れ時、El Capitanを見学。900mの壁らしい。
草原にピクニックセットを広げ双眼鏡片手に岩を見張る、クライマー探しおばさんがいた。
(自分はクライミングはしないし、家も全然近くないが、しょっちゅう来ているとのこと。)
自力では絶対みつけられないサイズだが、彼女の助言でクライマーを発見。
帰国へ
6/11、YosemiteからL.Aまで、バスと電車を乗り継いて10時間。
来たときは何ともなかったL.Aだが、それから移民系のデモや暴徒化が起こり、この日は夜間外出禁止令が出ていた。
発令時刻が2時間後に迫る中、上空をたくさんのヘリが飛んで異様な雰囲気だ。
そんな中、大量のパトカーと通行止めをかいくぐり、昨年度までの会員 みん が迎えに来てくれた。
Big wallの登竜門ルートの完登めざし、夏の週末はYosemiteに通う充実の日々だそう。
搭乗前の前泊をさせてもらい大感謝。