生あるうちに登りたいルート

2026-09-30

Date : 2026/09/30
Author :Tom


長文です。写真は表紙用を除いてありません。ムーブの詳細記述はないですが、ヒントになりうる表現はあるかもしれません。 読まれる方は以上のことをご了承のうえ、お読みください。

 

頂の会に入ってから7年が経過し、登ったルート数はいつしか900本を超えた。5.11以上も200本以上登った。特に思い入れのあるルート、ぜひ皆さんにも登ってほしいルートを「生あるうちに登りたいルート」として紹介する。

もちろん世の中には素晴らしいルートは数多くあり、自分が登ったルートはごく限られた範囲にすぎない。加えてその中から「選ぶ」ということは、「選ばない」という不遜な行為を内在している。それゆえ大変苦しい。愛する教え子を落第させる教官の辛さに似ている。

選ばなかったルートに甚だ申し訳ないという気持ちと折り合いがついたわけではないが、ここに30余りのルートを記す。MAHO、こう、よっしー、とね、バード、ひがし、マッキーが登場する。

 

5.9

クラックジョイ(天王岩)

フットホールドも多く、落ち着いて対処すればそこまで難しくない。天王岩で一番長いルートで気持ちがいい。途中のクラックでレストすることもできる。ホールドは豊富なのでルート名にこだわりすぎず、素直に登りたい。最後が少しきついので力を温存していき、思い切りよく突っ込むが吉。

 

セレクション(小川山)、ジョイフルモーメント(瑞牆山)

どちらを挙げようか迷ったが、両方選んだ。どちらも5.9のクラックがしっかりとリードできるようになったタイミングで挑んでいただきたい。セレクションは体が暖まっていない朝イチからクラック、スラブ、と試練が続き、外岩に慣れていない人はグレード以上の緊張を味わう。ジョイフルモーメントは身体がクラックから吐き出されるように始まり、自分が壁に受け入れられていないような心細さを感じるだろう。どちらのルートも自分のこれまで培ってきた技術とシューズの性能を信じて、力を出し切るしかない。

 

5.10a

小川山物語(小川山)

小川山への入場券のようなルート。訪問者や見学客だった人がクライマーとしてこの地を訪れるための通過儀礼と言ってよい。5.10aというグレードはルートを正しく登ったときのもの。広い壁の中、違う方向へ迷い込むと、先人たちの物語(ストーリー)に新たな章を加えることになる。新章が英雄譚になるか、悲劇になるかはクライマー次第。

 

アンクルクラック(城ヶ崎海岸)

LINEやFBのTomの写真には、アンクルクラックを登っている1枚を使用している。昔、MAHOが撮ってくれた写真だ。ハンドジャムがバッチリ効くとはいえ、カムセットをしながらハングのクラックを登り続ける緊張は、5年以上経過しても忘れられない。2つのハングを超えた後のプチ核心もアクセントで面白い。自分のジャミングが信頼できない人はまずはこのルートを登り、ジャムで全体重が支えられる体験をしてほしい。

 

アボリジニー(湯河原幕岩)

本当にこれが5.10aか、とはこのルートを初トライした人がほぼ例外なく発する言葉である。初めて登ったとき、自分もこの言葉を発した。しかし決してグレードが辛すぎるわけではない。足で登ることを意識しつつカンテの形状をうまく利用できれば、登りきることができる。湯河原幕岩クラシックを堪能できる名ルート。

 

5.10b

卒業試験(小川山)

もう15年も前、初めて小川山を訪れたときに登った。ルートファインディングの妙を心ゆくまで味わえるとともに、フットワークの大切さを思い知る。ビレイをしていた花谷さんに「全身から蒼い炎がほとばしっているような登りだった」と言われたほど、気合の入った登りだった。5.10台初めてのマスターオンサイト、思い出の1本。

 

イキのいい奴(河又)

石灰岩のルートで1、2位を争うくらい登りやすい。とはいいつつ、登っていると傾斜がキツくなり指の力が吸われていく。だんだんホールドが厳しくなってきたその先に終了支点がクライマーを待っている。持ちやすいホールドが多いとはいえ、長ルートを登攀するためにはレスト技術が必須であることに否が応でも気づくだろう。最後までパワーを温存すれば、ゴールのガバホールドが優しく迎えてくれる。

 

ピーターパン(城ヶ崎海岸)

10mほど続くガバを登っていくとツルツルの壁が行方を阻む。岩の亀裂に足先を引っかけ、スメアでなんとかクリアして次のテラスにたどり着くと、レンガ状のデコボコとした前傾壁がラスボスのような風貌で待っている。終了点で振り返ると眼下に大海原が彼方まで広がっており、潮風が気持ちいい。充実のルート。

 

あもんブライダル(湯河原幕岩)

何かの間違いか、と思いたいぐらい途中から手足ホールドがなくなる。フリクションの摩訶不思議な正体を強制的に知らされる……知ることのできない人は、カラビナを残置して敗退を選択せざるを得ない。あもんとはエジプトルクソールの守護神の名前。あもんブライダルはアモン神と太陽神ラーとの一体化を意味しており、なかなかに意味深なネーミングだ。

 

シンドバッド(湯河原幕岩)

シンドバッドがロック鳥に降ろされた深山幽谷の谷間のような場所を、立体的に登っていくワクワクするルート。コーナーからハング、スラブと短いのに多様な展開。上部の核心も刺激的で秀逸。このルートのためだけに最奥のピーターパンロックを訪れる価値は十分にある。一緒に登ったこうとは、相当な物好きしか行かなさそうな奥深いエリアも攻める。外すことも多いが、たまにこのような大当たりを引き当てると嬉しい。

 

5.10c

ちちくりマンボ(瑞牆山)

ネーミングはイマイチだがクライミングの面白さが凝縮しているルート。登りやすいスタート直後、空中に露出している心細さ、逡巡と決断、すぐに押し寄せる後悔、「テンション!」と声を上げたい欲求とここまで登ってきたのにまた最初から登るのは嫌だ、という気持ちの葛藤。己の感情の起伏を実感し、安堵と緊張の往復運動を味わいたいクライマーは瑞牆山オランジュ岩へ!

 

ピクニクラ(小川山)

カムがしっかりとセットできる。ハンドジャムも効く。ホールドは明瞭で持ちやすい。ペース配分さえ誤らなければ、最高のオンサイトがクライマーを待っているであろう。カムセットに自信がついたならば、ぜひとも挑みたい。その名のとおり、ピクニックのような軽快さで気持ちよく高みへと誘って(いざなって)くれるだろう。

 

ほんにゃらごっこ(小川山)

スラブなのに最初のトラバースでカムセットを求められる。下をのぞくと4、5mはあるか。最初のボルトまで緊張が続く。ようやくクリップができたと思いきや、次のクリップまでも遠く緊張する。この絶妙なランナウト具合、足先を固めて一歩一歩踏み出してゆく過程に緊・緩を行き来する心が打ち震える。

 

秘密の岩園(甲府幕岩)

まずネーミングからして秀逸。少し奥まったところに潜んでいるこの岩壁を訪れる人は少ない。クリップ、クリップ、そしてまた次のクリップ。何度も何度もクリップが続いて、最後のボルトにクリップをしても安心は禁物。登攀が終わったときに達成感に満ち溢れるルートで、これまで何人もの頂メンバーに紹介している。もっと評価されてもいいと思うのだが、注目を集めすぎない方が嬉しいという屈折した想いもある。

追伸:甲府幕岩の新トポでは☆☆☆☆扱いだったので、注目を集めるなといっても無理な話になってしまった。

 

エキスカーション(城山)

めぼしいホールドが見当たらず、集中力も途切れてくる。しかし疲れすぎない。難しい箇所が長い、しかし難しすぎない。程よいレベルがずっと続くのが心憎い。心が折れない限りは登り続けることができる、己の弱さと真摯に向き合えるルート。城山南壁はこのルートのために存在すると言っても過言ではない。

 

カマクラ(湯河原幕岩)

なんとも悩ましく難しく面白いルート。傾斜はあまりないがホールドは手も足も限られており、人間はこんな壁も登ることができるものだ、という事実に感動する。秋の夕暮れ時に「これで5.10cかよ」とよっしーとぼやき合いながら、再登を楽しんでいた。

 

5.10d

ピリカ(甲府幕岩)

1つの壁に1ルートという設定が好きだ。パワー勝負ではなく、ムーブを工夫すれば登ることができる課題も好きだ。ピリカはそのどちらの条件も兼ね備える。何度もハーサルを繰り返せば1日で登れるかもしれないが、この岩にはそのようなスタイルは似合わない。登攀自体に価値をおくのではなく、1トライ1トライの岩とのやりとりを大切にしてほしい。何回でも登りたくなる不思議なルート。

 

冥土の土産(天王岩)

フェーススラブを代表するルートとしてこのルートを推奨したい。最初から最後まで難しさが続く、岩質はツルツルのチャートでデリケートな足置きが要求される、使えるホールドは限られておりムーブも正しくないとすぐにバランスを崩してフォールする、というルートである。しかしながらボルト間隔は絶妙で怪我の危険はなく、リードで何度落ちても挑み続けられる(それは精神力の強いとねだから?)。

 

5.11a

真実の口(瑞牆山)

初めてこの場所を訪れたときの衝撃は忘れられない。カサメリ沢の奥の奥、ひたすら奥まで進んだところにロダンの「地獄の門」のような1枚の壁が聳え立っている。これだけ大きな壁にもかかわらずルートがこの1本しかない潔さ、ラインの素晴らしさ、そして途中に現れる「真実の口」。クライミングを総合的に考えさせられる、名ルート中の名ルートである。

 

マンズマグナム(小川山)

自分のクライミング世界が広がったと感じたルート。煩悩が消えて研ぎ澄まされた感覚に入り込み、心を静めて足裏コントロールに集中する。雑念の多かったOSトライとは打って変わって2撃目は無心に登ることができた。このルートを登りきったとき、クライミングという営みをより遠くまで見渡すことができる視座を与えられたと感じた。彩花の後ろにひっそりと佇む(たたずむ)名ルート。

 

ロングロング小川山(小川山)

終了点まで一気に登攀すると45m、途中のテラスで区切っても核心が25mも続く、大変登りごたえのある課題。次のボルトまで右からも左からも行けそうで、どちらかを決断して進むとまた新たな選択を迫られ、、、と果てしない探検の旅に出たような想いにおちいる。これだけ長いのに途中緩んだり気を抜いたりできる箇所もなく、最後まで緊張が続く好ルート。

 

風に吹かれて(城ヶ崎海岸)

自分が登ったときの感慨も得難いものだった。それ以上にバードの登りを見て、このようなクライミングをさせてくれるなんて、なんて素晴らしいルートだろう、と思った。彼はマスターオンサイトトライを遂げた。核心部は痺れるハング、ボルトが足元のはるか下にある状況で、腕がどんどんパンプするルーフを登り込んでいく。フットホールドも確認しにくい被った岩を、相当なランナウトでひたすら高みを目指す。

 

5.11b

心の愛(城山)

思い出に残るルート。5.14台が何本もある壁の一番右側にあり、傾斜がありすぎて垂直感覚が麻痺してくる。うまく説明できないが、岩と対話するようなムーブの連続からか、「心の愛」という名前はこのルートにピッタリ当てはまると登攀後に感じた。

 

ダーティークライマーズ(甲府幕岩)

ここまでガバホールドが多く、気持ちよく登れるルートは珍しい。江戸川橋T Wall時代の5.11cという感じで、ダイナミックな動きが楽しめる。ラストの被っている箇所までは難しくないので、ムーブをしっかりとイメージして思い切りよく挑みたい。

 

ブラッキー(甲府幕岩)

見た目はカンテ沿いの垂壁で単調そうに見えるが、なかなか手ごわく、そして面白いルート。左右のホールドをうまく活用する技量が求められる。ムーブを見いだすのは困難なのでオンサイトは相当難しいだろう。

 

5.11c

プラチナム(瑞牆山)

わずかな手がかり足がかりを頼りに、磨き上げられた大理石のような白壁を登ってゆく。美しいより麗しい(うるわしい)という表現が、この壁にはふさわしい。左側のクラックを使いたいという誘惑に打ち勝ち、カンテ沿いに進む。

 

ジゴロ(城山)

魅惑の存在、ジゴロ。城山詣でのクライマーに、ジゴロという響きは特別なものを持つ。昭和生まれのクライマーの中には、ユーロビートの甘美な旋律を思い起こした人もいるだろう。コイツにひがしも自分も虜(とりこ)になり、その魅力に抗えず毎週のように通い詰めてしまった。

魅力に抗えず、毎週通い詰めてしまう。たとえ土曜日午後から雨予報でも、よし、午前中は登れる、とレンタカーで片道2時間以上かけて峠の駐車場まで行き、決して近くはないワイルドボアゴージュへ詣でる。取り憑かれたように二人して毎週末登っていた。とらまえて人の心を離さない、まさにジゴロという名称にふさわしい。

 

百獣の王(瑞牆山)

初代瑞牆本下巻の表紙で平山ユージが登攀しているのがこの課題。屏風岩という巨大な一枚壁をキャンバスに縦横無尽にラインを引いた。まだ室内のクライミング施設が整っていない1987年、第一回ジャパンカップでも使われている。薄かぶりのフェースが25m延々と続き、徐々に難しくなる。自分は最後のクリップをしてから10回以上落ちている。持久力、レスト技術、省エネ技術といった総合力が試される秀逸なルート。

 

5.11d

オーバードライブ(城山)

完登しそうになったときに「わざとここで落ちれば、またこのルートを登ることができる」という思いが心をよぎった。登り終えてしまうのが淋しい、いつまでもかかわっていたい、と感じさせられた思い入れのあるルート。「城山5.11の卒業課題」とされているが、ワイルドボアゴージュには他にも手強い5.11が数多く潜む。そう簡単に5.11卒業はさせてもらえない。

 

小川山庭園(小川山)

「小川山5.11の卒業課題」とされている小川山庭園。他に小川山○○と銘打たれたルートは小川山レイバックと小川山物語しかない。何か月も卒業させてもらえなかった思い出深いルート。これを2撃したバードやマッキーはさすがといえよう。ボルト4本とそれほど長くなく、ホールドも豊富に見えた。傾斜も緩く、なぜ5.11dもあるのだろうか、と最初は甘く見ていた。

手順足順を1つ間違えるだけで動きが止まる。次が出せない、続かない。そして戻せない。やり直しが効かない。自分にとって割とギリギリだった。こうと2人で5峰まで何度も遠征した。落とせそうになると平日も日帰りした。凍てつく霜を踏みしめながら5峰まで通い続け、とうとう落とせたのが金峰山荘の閉まる直前。感無量だった。

 

5.12a

オンリーワン(甲府幕岩)

これまで一番トライ数の多かったルート。30回近く挑んだ。甲府幕岩に到着して他のルートには見向きもせず、帰るまでこのルートだけを5回トライして終わり、という日もあった。登り終えたときは数年ぶりに咆哮した。それにしても5.11dというこのグレード、本当だろうか。これまで登ったどの5.12よりずっと便数を出しているのだが、と長年疑問に思っていたら、甲府幕岩の新トポでは5.12aにグレードアップされていた。

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