滝川・豆焼沢

2014-08-17

06_沢登り e_奥秩父・奥武蔵

Date : 2014/8/16-17
Member : ちえ蔵、フジ、まり、組長
Timeline :16日出会いの丘0942~1050ホチの滝~1332トオの滝~1420幕営地(1210m付近)
17日:幕営地0635~0827大滝~0956両門の滝~1144登山道~1201雁坂小屋~1539出会いの丘


奥秩父の名渓を遡行しました。
またひとつ、沢登りというものの難しさを感じられる遡行となりました。



今週は飯豊の沢の予定でした。
でもまさかの秋雨前線の停滞により、飯豊は大雨洪水警報発令・・・。

今年のお盆は散々・・・。日本の山関係者??のほとんどがそう思ったのでは??
でも、天気を恨んでも仕方がありません。でも、貴重な休みを無駄にもできません。
ということで、今回も保険に保険を重ねて、どうやら日本列島で唯一太平洋高気圧が優勢な関東周辺の沢に転進することになりました。
といっても、飯豊のサブプランですから、同じくらいワクワクする沢でないと代役は務まりません。

てなわけで、奥秩父の名渓が選出されたのでした。
毎週「名渓」な気がしないでもありませんが・・・。

豆焼沢は、日帰りで計画されることも多いようですが、今回は、フジ兄が釣りたい!という要望もあったので、ゆっくりのんびり焚き火をしながらの渓中1泊プランで臨みました・・・が。。。

朝。
関越を走っていても天気がまったくすぐれません。次第に雨も降り出しました。しかし、秩父方面に入ると次第に日が差し、セミも鳴き出し、真夏の暑い空気がボクらを沢へエスコートしてくれます。

出会いの丘で沢支度を整えます。出会いの丘には、数年前に付近のブドウ沢で起きた痛ましい事故、「あらかわ1」の殉職者慰霊碑が建っていました。木々の間から見える無残なヘリの残骸の映像は、まだまだ記憶に新しいものです。山の事故というものが救助する側にとってもいかに危険なことであるかが身にしみた事故でした。
翌日、事故現場付近を遡行したパーティーが言っていましたが、現在では、事故の痕跡は全くないそうです。

豆焼沢への入渓は、出会いの丘からわさび沢の左岸の斜面を下って行きます。最後だけ少し急ですが、全く問題ありません。
頭上遥か高くには、豆焼橋の赤い橋脚が綺麗なアーチを描いています。

最初は穏やかな河原。少し行くと釣り師が一人、また一人。何とも言えない緊張感と微妙な距離感を保ちながら、挨拶もせずに通り過ぎます。渓流釣をかじっていた時期もあったので、彼らの、我々に対する気持ちもわからないではありません・・・。


入渓点の豆焼橋
普段よりも水量は多いと思います。今週は雨続きでしたし、つい昨日も雨でした。
豊富な水量、深い森。入渓して早々、好感度抜群の沢です。
天気はそれほど良くありません。気温もそれほど高くはなく、釜に飛び込むようなテンションではありません。
森が深いせいか、渓は薄暗く感じます。しかし、その鬱蒼とした深い森に奥秩父の沢を感じることができました。
基本的には上越のような明るい沢が好きですが、たまにはこういう沢もいい。自分が初めて遡行した沢も、こういう緑の豊かな沢でした。自分の中では、沢登りの原風景になります。

思えば、ここ数年は沢に行きまくっています。この会は、他会のような経験豊富なベテランが連れて行ってくれる会ではありません。もちろん最初は、初級の沢に連れて行ってくれた先輩はいましたし、とても感謝していますが、中級以上の沢は、あーでもないこーでもないと試行錯誤して、会の仲間と協力してなんとか事故なくやってきました。相変わらず、難しい沢には行けていませんが、「名渓」と言われる沢の計画ができるようになったのは、少しは成長したからなのかもしれません。時間はかかりますが、憧れの大渓谷に向けて、これからもコツコツやっていこう・・・。


仲間


豆焼沢は、ぬめりがひどく、フェルトソールでもツルッと行くところが多々あります。ラバーソールだとかなり危険な感じがしました。

深緑の森の中に流れる豊かな流れをしばらく進むと、次第に両岸が険しくなり、頭上に雁坂大橋の黄色い橋脚を仰ぐと、幅広の6m滝が白い飛沫を上げて迎えてくれます。周囲の切り立ったゴルジュ地形と相まって、素晴らしい渓谷美。水量は豊富で滝の作り出す風に夏の暑さも吹き飛びます。
この滝は、少し滑りますが、左側を容易に登れます。
6m幅広滝を過ぎると、少しのゴルジュを過ぎ、次に渓が左に屈曲するあたりで、名瀑と言われるホチの滝が現れます。
水流をストンと滝壺に落とす端正な滝です。頭上には相変わらず雁坂大橋の黄色い橋脚がみえています。渓の雰囲気を壊すと皆さんよく言いますが、自分はむしろなんとなく、こんなところにこんなにでかい橋を立てた人間ってすごいなと、ちょっぴり思いました。こういう橋ってどうやって作るんでしょうね。
沢ヤとしては、自然への冒涜を非難すべきなんでしょうが・・・。

ホチの滝
ホチの滝を登るには、どう考えても、13,14レベルのムーブが必要そうです。
右岸を巻きます。少し傾斜がありボロいですが、特に問題ありません。
滝上には、雁坂トンネルの水抜きなのでしょうか。太いパイプから大量の水が吹き出していました。前半部の豊富な水量の正体を知りました・・・。

・・・と、
ホチの滝を通過した時点でアクシデント発生。
まり姉さんが左腕を痛めてしまいました。まだまだ沢はこれからなので心配ですが、これでどつかれずに済みます笑。

ホチの滝を過ぎると、次第に両岸が迫り、ゴルジュ地形に突入します。豊富な水量をその狭い廊下に押し込み、水はしぶきを上げてうねっています。
ゴルジュの最初の5mはどうやら水線沿いを行かなければいけないようですが、激流に足をすくわれるかどうかは、イチかバチな感じがしました。たとえ自分が突破できても、後続が突破できなければどうしようもありません。ロープの出し方も難しい。。

そこで次に、右壁を検討します。
万全を期して空身で取り付きます。
上部のホールドがかなり甘く、プロテクションも取れそうにありません。しかもびしょびしょの上、足回りはフェルト。途中まで行き、ドロドロクラックに申し訳程度のナッツを決めて上をうかがいましたが、どうやらⅤ以上のムーブが必要そうです。無理すればいけそうですが、ゴールイメージの鮮明でないチャレンジは、山ではできません。あえなくクライムダウン。

「自分の能力以上の山は選ばない。他のスポーツなら自分の限界を超えて挑戦することもあるだろう。しかし、山はそんなに簡単な世界じゃない。無茶は死に直結する」(山野井泰史)

いつまでもこんなとこで遊んでいても仕方がないので、少し戻って巻くことにしました。巻きは一見困難そうですが、釣り師が残置したとみられるトラロープをたどれば、それほど困難なく巻けます。残置することの善し悪しはともかく、ここの巻きのルーファイは見事だと感じました。オンサイトではなかなかできない。

「私に言わせれば、高巻きこそが沢登り技術の神髄だと思うのです」(手嶋享、沢ヤ)

「高巻きは、鼻でする」(成瀬陽一、沢ヤ)

続く5mの美瀑
この先、トオの滝までは、非常に倒木が多いです。多すぎます。他の記録ではここまで倒木に苦しんだという記録はありませんでした。
どうやら今年の大雪の影響で沢が多いに荒れてしまったようです。今年遡行した丹沢などの沢でも以前にもまして倒木が多かったように思います。倒木によって沢が荒れることは、沢登りにとってはもちろん残念なことです。しかし、沢登りというものがただ単に山岳でのスポーツ的なアクティビティであるのではなく、諸行無常の自然に触れ、単なる楽しさ気持ちよさを超えたものを感じることができる行為だと考えていたならば、倒木もまた自然の所業であって、沢登りの一要素なのかもしれません。
一体僕は何を言っているのでしょう・・・笑。
要するに、倒木の鬱陶しさになにか価値を見出そうとする努力です。

ちなみに、今季の豆焼沢は、全体的に倒木がかなりひどく、上部の両門の滝の手前あたりもひどい倒木でかなり難儀します。一部のナメは「台無し」の状態です。また、日帰りを計画する場合は、倒木によって以前よりも遡行時間が長くなることを考慮すべきです。雁坂小屋のオヤジも言っていましたが、今年は多くのパーティーが倒木で苦労しているとのことでした。
トオの滝
続いて現れる名瀑トオの滝。
森の中から吐き出される豊富な水量と深い釜。

左のヌメった壁を登ります。全体が濡れておりヌメっていますがそれほど難しくはありません。念の為に、フィックスを張りました。
上段は、左のバンドを簡単に登れます。

トオの滝上段
ここまできて、どうやらだいぶまり姉さんの左腕の調子が悪くなってきたようです。今日はそろそろ幕営地を探してもいいかな、と思い始めた矢先、右岸にきちんと整地された場所がありました。
少し沢床に近いことに不安を感じましたが、右岸はもっと上まで登れないこともないので、最悪の事態は避けられると思いました。

早速、時間もあるので快適な我が家作りです。
タープをちょうどいい塩梅に調節して張って、完成。
そして、フジ兄は釣りに出かけます。
しかし、しっかりと我が家を完成させたあとに、小雨だった雨次第に本降りとなってきました。タープ張っておいてよかった。
まあじきに止むだろうと、テントの中でゴロゴロと過ごします。フジ兄は、雨の中しばらく釣りに励んでいました。そして、人生初の天然のイワナを釣り上げていました。小さなイワナでした。でもフジ兄はかなり嬉しそうでした。フジ兄はその小さなイワナを宝物のように眺め続けたあと、沢に戻してやりました。

その間も雨は降り続きます。
雨足はかなり強まり、雷が鳴り始めました。それもかなり近い位置にあるようです。
次第に水量が増えてきました。

雨はますます強まります。
沢を見ます。
急でした。急に、沢の水が茶色く濁り始めました。ぶなの深い森がその包容力の限界を迎えたかのごとく、突如として沢の水が茶色い濁流と化しました。
まだ平和な頃
不安がよぎります。
ちえ蔵さんが、トオの滝を降りたところにある作業道までどのくらいで降れるか、聞いてきました。。
このままここにいたら、もしかして・・・。

無情にも雨はますます勢いを増します。水はますます茶色く濁り、だんだんとテントの付近まで水流が迫ってきました。
寒気の流入のせいで随分気温も低いです。

そろそろ何かを決断しなければならないようです。
山にあっては、進退窮まる、という事態だけは避けなければなりません。幸い、右岸は、登れなくはない斜面が続いてあり、状況がさらに悪化しても直ちに最悪の事態を招くことはなさそうです。
もちろん、早めの撤退、下山も考えました。ちえ蔵さんは、そうした方がいいのでは、と思っていたようですし、翌日フジ兄さんも聞きましたが、そう思っていたそうです。

でも、これまでたどった沢を下降することを頭の中でシュミレーションしてみて、そして改めて目の前の茶色い奔流を眺めてみて、今、ここを下降することは得策ではないと感じました。
少なくとも朝には雨は止むでしょう。そうすれば、どんなに長くても半日もすれば、水は少しは落ち着くでしょう。
今、焦った気持ちで、あの茶色い濁流のなかに踏み込むことはとても危険です。
一段高いところにテントを張り直して、様子を見ることにしました。引越し先は、少なくとも水が上がった形跡はなく、ひと晩降り続くくらいだったらなんとか持ちそうです。

不安の雨音は、結局、夜を通してテントを叩いていました。

「相手(自然)が本気を出せば絶対にかなうはずがない」(佐藤裕介、アルパインクライマー)


翌朝。
山は最後の最後でちょっと手加減してくれました。
水は、穏やかな色を取り戻していました。もちろん水量はかなり多いですが、昨日の茶色い濁流に比べれば別人のように穏やかです。
残された行程はまだ長いので、はや立ちします。
ここからは3,4mの滝が連続します。高さはないのでそれほど困難はありませんが、まり姉さんの腕の調子が悪いので、基本的にロープやお助けを出し続けます。
水量は相変わらず凄まじく、すべての滝がグレードアップ。一方で、大滝の景観に期待が高まります。


大水量
ここに来て、久しぶりに陽光が差してきました。とても暖かく、気分もほっとさせてくれます。太陽に光が心から嬉しい。沢は自然との交感だとよく言いますが、たぶんこういうことなんじゃないかと思います。
沢には、シカの亡骸がたくさんありました。ほとんど白骨化しています。沢でシカの死骸を見ることはあまり多くありません。もしかしたら、今年の大雪の影響なのかもしれません。

「我々が死んで、死骸が水に解け、やがて海に入り、魚を肥やし、また人の身を作る。個人は仮の姿。グルグルまわる」(松濤明、登山家)

最近、街では、夏も終わりに近づくと、セミたちがそこいらに転がっています。アスファルトに転がっている彼らを、なるべく土の上に戻してやっています。
マリ姉さんの腕の調子がますます悪化。
荷物を分担し、フジ兄がダブルザックで頑張ります。さすがトライアスロンパパ。一般人とは馬力が違います。

いくつも滝が現れます。
ガイドブックではなんとなく割愛されている10m程の滝を左の大雨の降るルンゼから攀じり、水流の作り出すダイナミズムを感じながら進んでいくと、左手に、急に白竜が姿を現します。
大滝
豆焼沢の大滝です。
4段50メートルの大滝は、ものすごい水量で迫力満点。この滝を登っている記録もあり、Ⅳ程度で登れるそうですが、今日はどうやら登らせてくれなさそうです。
巻きは少し戻った右岸の斜面を登ります。上部の岩を左から回り込み、尾根をひとつまたぐと、大滝上の右岸小ルンゼから沢に戻れます。

その後も滝場が連続します。今日の水量では、どの滝も直登は考えづらく、左岸を巻きます。巻きは比較的容易です。

小滝とナメが連続するパートに入りましたが、とにかく倒木が多い。
跨いだり、乗っかったり、巻いたり、と、とにかく鬱陶しい。

だからこそ、目の前に美しい両門の滝が広がったときは感動しました。東沢の釜の沢の両門の滝よりもスケールが大きく美しいです。
ちょうど陽も差してきて、水が輝いています。
両門の滝
空気をたっぷり含んだスダレ上の滝を気持ちよく登ります。このハイライトに合わせて顔を出してくれたお日様に感謝。

まだまだ3,4メートル程の滝とナメが続きます。
途中、水量豊富な支流に少し迷います。気圧の急激な変化に高度計があまり信用できない状態になっていたこともあって、本流と見紛う水量の支流に誘われますが、沢の方向を信じて右に進みます。しばしで、5m滝の左壁に残置ロープ。なんとなく、それで道があっていたことが分かりホッとしてしまったのは、山ヤとしての弱さかそれとも人情か。。。

次第に、沢は小さくなり、水量も落ちてくると、前方の本流はだいぶガレてきます。予定通り
左の水のある支流から登山道を目指します。落石注意の急な沢を登って行き、最後は、斜面の木々の間を縫って行くと、雁坂小屋からひかれている取水ホースが見えました。そのすぐ上に登山道。

「道のありがたみを知っているものは、道のないところを歩いたものだけだ」(大島亮吉、登山家)

歩きやすい登山道を雁坂小屋に向かって進みます。
まり姉さん、ちえ蔵さん、フジ兄。みなさんの顔が少しほっとしたように感じました。大げさかもしれませんが、安全地帯に無事にたどり着いたことに、素直にほっとしたのかもしれません。
雁坂小屋に着いてから、健闘を讃え合いました。
腕が上がらないながらも、増水してグレードアップした豆焼沢を遡行したまり姉さん、強いなぁ。
フジ兄もさすがの体力。ちえ蔵さんもいつもの通り全く余裕。
雁坂小屋には初めてきましたが、とても雰囲気のある場所でとても気に入りました。
小屋のオヤジもとても気さくな方でした。
「今日は沢から上がってくるやつはいないと思っていた」オヤジはそう言っていました。やはり、昨夜のゲリラ豪雨は相当なものだったようで、普段水のないところに水が出たと言っていました。

「自分には、沢なんて怖くてできない」。
黒岩尾根の登山道を作ったそのオヤジは自分たちよりも何百倍も山を知っています。
だからこそ、そういう真摯な言葉が出てくるんだと思いました。
登山道を作った時は、おやじに騙されて無理やりやらされたそうです。数メートル進むのに何時間もかかったそうです。
そうやって、嫌々始まった山との付き合いも、いまだに山小屋の主というかなりディープな立場で継続しています。
人生とはそんなもん??
・・・みたいな、「分かった」ようなことを言う気はサラサラありませんが、忙しそうにでも楽しそうに笑顔で小屋の整備に精を出すオヤジの姿に、なんか、血の通った人間味みたいなものを感じました。

「機会があったらまた来てねー」
山での人との出会いが心底楽しいんだなーと思いました。

ということで、盛り沢山だった豆焼沢。
ただ、楽しいだけの沢もいい。でも、楽しいだけではなくて、不安や困難があって、単純に楽しいだけじゃない何かを感じられる山は、充実感が違う。これからも、五感に響く山に行きたい。

「目の前の山に登りたまえ。山は君のすべての疑問に答えてくれるだろう」(ラインホルト・メスナー、登山家)

「山はいつも、自分が完全でないということを教えてくれる。だから僕は何度でも山を登る。少しずつ成長するために。そして生きるために」(栗城史多、登山家?)

最後の大トリの言葉がやけに軽く感じるのは、気のせいか・・・笑。

(組長)




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