Date : 2015/03/08
Member :すぐりん、組長
Timeline :登山指導センター0340~0440一ノ倉沢出合~0620シンセンのコル~0649第二岩峰~0833第二岩峰~0922オキノ耳~西黒尾根~1158登山指導センター


初めて雪の一ノ倉沢に入った。




谷川東尾根は、素人サラリーマンクライマーにはチャンスが少ない。
厳冬期は、雪崩でどうしようもないし、3月の後半からは条例で入山が規制されてしまう。だから、実質2末~3月中旬くらいまでしか登れないルートである。冬型の緩む3月だからといって、ひとたび天候が悪化すれば、冬に逆戻りだし、雪の状態いかんで断念せねばならないこともある。
だから、行ける時に行っておきたいルートである。

とはいえ、我々のような経験の浅いクライマーには、雪の一ノ倉沢に入るのは、少し勇気がいる。
一ノ倉沢から一の沢に至る東尾根へのアプローチは、雪崩の危険性が少ない早朝に登りたい。そうすると真っ暗の中、確実にとりつかなければならない。雪の状態もわからずに。
僕にはそんな勇気がない。だから、少しでも不安感を払拭するため、前日に偵察に入ることにした。
連れて行ってくれる人はいない。自分で見て、経験するしかないのだ。他の会とは違い、そこが頂という会の弱いところであり、一方で大変恵まれたところだと思っている。劔の岩場も穂高の岩場も谷川の岩場も、テトラオドンさんやA子さん、もときさんやちえ蔵さん、そしてすぐりんと一緒に、未経験で初見で取り付いてきた。
危なっかしいところもあるだろうが、会の大先輩に連れてきてもらうのとは違った、緊張感と達成感を味わうことができた。
どんなことでも、初めて、というのは素晴らしいことだ。もちろん記録は読んでくるから、本当に初見とは言えない。
でも、初めて見る岩壁、雪稜はいつでも新鮮でワクワクする。
これからも初見というのを大事にしていきたいな。

まあ、そんなことで、前日昼ごろ、ゆっくりと谷川に入る。
この季節にしては、かなり雪が多く感じる。登山指導センターに翌日の計画書を提出し、早速、一ノ倉沢に向かう。天気はあまりよくない。
トレースはしっかり付いており、楽ちんだ。

マチガ沢を過ぎ、一ノ倉沢に到着。
2年前に衝立岩中央稜を登って以来だ。何なんだろう、この独特の威圧感というか、圧迫感は。それは、この山自体が放つオーラであるのか、僕自身の内面の問題なのか。ガスに隠れた衝立岩の上にはなにか得体の知れないものが棲んでいるような気がした。
アプローチとなる一の沢まで行き、しっかりと確認して戻った。ものすごいデブリだ。
雪は多いが、状態は非常にいい。

一度街に戻り、超うまいカツ丼を食べて、風呂入ってから、土合で寝る。
雨が降っている。明日はどうなるのか。

翌朝。
雨が降っている・・・。
いずれ止むだろう。そう高をくくっていた。

3時40分。登山指導センターを出発する。
気温が高く、雨よけで羽織ったシェルの中がサウナ状態になる。一ノ倉沢にたどり着いた頃には、汗と雨でびしょびしょになった。
後ろから単独で追い抜いていったクライマーがいた。声をかけると、今日は3スラをやるという。
神々の山嶺?だったか、主人公が登った鬼スラだ。山ヤの端くれとして、森田勝が粘りに粘って初登というエピソードは知っている。僕にとっては、憧れのレジェンドルートだ。
かっこいいな、さらっと「3スラ」といって過ぎ去る彼。僕だったら言いふらすなぁ笑。はち巻きつけて「打倒3スラ」とか大書して・・・。
でも彼は、今日はきっと敗退しただろう。このあと、それは確かなこととなる。

僕らは一の沢に入る。一番手と思っていたが、かなり上部にヘッドライトが見える。 2人Pだ。
一の沢に入る頃になると、降り続いていた雨は、雪に変わった。ボタボタと重い雪でどんどん降り積もる。トレースはあるので、それほど苦労はせずに高度を稼ぐ。
次第に傾斜がきつくなり、一・二の沢中間稜に伸びる右壁左方ルンゼの蒼氷を仰ぐと・・・

それは前兆なくやって来た。
いや、これだけ雪が降っているのだ。前兆はあったのだ。
サー、っという音とともに自分の右側の沢の中間部の雪面が一気に流れ出した。

雪崩だ。

緊張感が走る。すぐりんの不安そうな顔を見る。
僕の表情もこわばっていたかもしれない。
雪崩が通り過ぎたあとの風がなんとも不気味だった。
しかし、それだけでは終わらなかった。その後、シンセンのコルまでの間、幾度となく雪崩に襲われた。山では未明からの雨がずっと雪だったのだろう。5センチくらい新雪が積もっている。
新雪の表層雪崩だ。
大規模な雪崩にはならないと思ったが、時折、膝くらいまで雪が押し寄せ、足元をすくわれそうな感じになる。
とても怖かった。

シンセンのコルまで雪崩が頻発
先行Pに追いつき、ハラハラしながら、ようやくシンセンのコルに到着した。日の出の時間だというのに、しんしんと雪が降り続けかなり暗い。陰鬱といったほうがいいかもしれない。汗と湿雪で全身日ビチョビチョだ。風がないだけ良かった。体を濡らして、稜線の風にあたり、疲労凍死するということは谷川ではよくあるそうだ。
この山の難しさの一端を見る思いだった。

シンセンのコルでガチャを付ける。少しだけ迷っていた。雪の状態が悪い。雪崩が頻発している。確保のしづらい頂上直下の雪壁で先程みたいな雪崩に足元をすくわれたらどうなるだろう。
しかし、撤退するとしてもこの一の沢をまた下るのか??
雪よ、止んでくれ。
何とも言えぬ気持ちのまま登り始める。


出だしから急登となる。シャフトをぶっさし、雪壁を攀じる。
先行していた神奈川Pが岩峰の手前で立ち止まっている。どうやらこれが第2岩峰のようだ。ラインはすぐに読める。正面の岩と雪のルンゼを直登する。すぐりんにロープはいいかと聞いたら「大丈夫だ」というので、ロープはつけずに登る。 左の雪壁と右の岩場の間の非常に窮屈な場所を登る。岩が外傾している上、新たに積もった雪でホールドスタンスともによくわからない。落ちたら、多分死ぬだろう。ピックを岩に引っ掛け、微妙なバランスでじわじわ登る。かなり怖い。そして、思ったよりも悪かった。
それよりも・・・、汗かきすぎて脱水気味になったのか、ステミングした際に足が激しくつった・・・。ナイフリッジの上でしばらく悶絶・・・。
すぐりんは大丈夫だろうか。結構時間がかかっている。彼のクライミング技術の高さは知っている。そして、その慎重すぎるほどの登りを知っている。彼なら時間をかけても安全に這い上がるだろう。
足のつりがようやくひと段落した頃、ナイフリッジの上にすぐりんがひょっこり顔を出した。本人曰く、
かなりやばかったらしい。

本日の核心となった。

ビレイ点は、スノーバー等で作るか、少し先の岩にピトンを打つしかないだろう。どこかに残置があるのかもしれないがわからない。初心者は絶対にロープを出したほうがいい。



第2岩峰のルンゼ
下の方が随分と騒がしい。
一の沢を見ると、2、3Pが上がってきている。彼らは必死で何かを叫んでいる。耳を澄ますと、「雪崩だ」と言っているようだ。悲鳴のような声も聞こえる。大丈夫だったろうか。

第2岩峰を過ぎると、雪壁登りが続く。50~60度の傾斜だ。落ちるとマチガ沢にプレートをこしらえることとなる。
雪壁の最後は、かなり立っており、シャフトをしっかり雪に刺し、足場を固めて慎重にリッジ上に復帰する。なかなか痺れる。
雪壁の最後の立ったところ
 しばし、平らなリッジを進むと再び雪壁。ところどころ大きなクラックが走っている。
相変わらず雪は降り続き視界は悪いが、少しずつ明るくなり、頂上も見えるようになった。頂上直下はすごい雪庇が張り出している。越えられるのだろうか・・・。

怖いと言いつつも、すぐりんは確実に登ってくる。彼は、ある意味、独特??な人間だが、山や安全に対する自分自身の考えをしっかり持っていて、尊敬できるクライマーだ。山は自分で考えることが大事だ。人に言われるままではいけない。自立した登山者でなくてはならない。だからこそ、こうやって対等に、安心してロープを結ぶのだ。
余計なことを喋らない。そこも彼のいいところだ。

頂上が見える
ここからが、東尾根のハイライトとなる、うねる雪稜のトラバースだ。反対側のマチガ沢側には
大きく雪庇が張り出している。下を見れば、一ノ倉の奈落の底が垣間見える。落ちたらおしまいだ。
慎重にカニさん歩きで通過する。
背後が青空であって欲しかった
ナイフリッジを越えると、第一岩峰に行く手を塞がれる。基部は平らになっていて、ビバークできそうだ。ここは、岩峰を直登こともできるそうだが、若干かぶり気味で悪そうだ。
一服していたら、神奈川Pが追い抜いていった。
ここは定石通り、右を巻く。思ったよりも悪くなかったが、崩れやすい雪の微妙なトラバースになる。その後、沢状をリッジまで復帰する。沢状で再び雪崩が起きる。フォールラインにはいなかったが、ここで巻き込まれればバランスを崩して奈落の底に落ちる。
一ノ倉沢の下の方では、雷のような恐ろしい音を立てて、雪崩が発生している。3スラに向かった彼は大丈夫だったろうか。3スラは雪崩の巣窟だと聞く。無事であってくれればいいが。
第1岩峰のトラバース

トラバース後にリッジに復帰する。この右側を雪崩が通過する。
リッジのに復帰すると、最後は頂上までの雪壁登りとなる。傾斜は60度ほど。しっかりとアックスを決め、足を決め、確実に登る。下を見ると、素晴らしい高度感でテンションが上がる。すぐりんに、「下見てみろよ」というと「怖いから見ないようにしている」と。「早く傾斜の緩いところまで行ってください」。はいよ。

こうやって必死で雪壁を登っていても、天神平のスキー場からは、ノーテンキなDJのMCが響いている。ひどく耳障りだが、この感じもまた谷川らしい。

頂上直下の5mほど張り出した雪庇には一部弱点があった。岩場になっているところが、少し雪庇が低くなっているのだ。雪庇下をトラバースして、左の方の雪庇が切れたところからも上がれそうだが、いつ崩れるかもわからない雪庇下のロシアンルーレット的トラバースになる。
神奈川Pは、案の定、その弱点をついて登っていった。雪庇下で一息入れたあと、最後の気合を入れて、雪庇に取り付く。少しの岩場を越えると、最後は、頭の上の高さの壁が立ちふさがる。
とにかくできる限り深く、アックスのシャフトをぶっ刺し、最後は微妙なバランスでマントルを返すと、果たしてそこは頂上であった。
神奈川Pが笑っている。
素晴らしいフィナーレだった。
すぐりんは、怖い怖いと言って時間をかけて上がってくる。ボルダーだと僕よりよっぽどマントルうまいのに・・・笑。

唯一の弱点

雪庇を乗っ越す

お疲れさん。左のが頂上標。

今日の武器

景色ゼロ
あたりは真っ白で何も見えない。まだ雪が降り続いている。しかし風はなかった。
神奈川Pと一言二言言葉を交わし、下山を開始する。トマの耳に着くと、天神尾根からの登山者がいた。まだまだ、下の方にも登ってくる人が見える。
下山は西黒尾根だ。
残念ながらトレースがない。しかも天気はますます悪化して、風も出てきた上に、ホワイトアウト気味になって尾根の形状が定かではない。慎重に下降を続けると、ようやく尾根全体のラインが見え、順調に高度を下げる。とにかくアホみたいに雪団子がつく。何度、アイゼンをアックスで叩いたことだろう。

西黒尾根
どんどん高度を下げていくと、ようやくガスが切れ始め、天気も幾分良くなってきた。西黒を登ってきたお二人に挨拶して、どんどん下る。樹林帯に入るとどこの山岳会が雪洞訓練でもやったのか、お金が取れる位の立派な雪洞がいくつもできていた。
最後は、ぐずぐずの雪にはまりまくってイライラしたが、無事に登山指導センターに到着した。お昼の12時。予定通りの素晴らしい登山だった。


雪山を始めて、ガイドブックを広げて、まずここに行きたいと思ったのが白馬主稜である。白くうねる白馬のたてがみにノミのように張り付くクライマー。これぞ、雪山だ!とその写真に釘づけになった。
今年は、そこに行きたいと思っている。谷川東尾根は、白馬主稜と構成がよく似ていると感じる。うねる雪稜の登攀と最後の雪壁直登からの雪庇乗っこし。プレ白馬主稜として最適だと考えている。しかし、スケールはともかく、技術的には同程度と見たほうがいいかも知れない。むしろ、谷川独特の天候、雪崩、陰鬱な雰囲気??・・・プレッシャーはこちらのほうが大きいかも知れない。

谷川東面の初級ルートといっても、易しくはない。岩でもそうだが、谷川はワングレード高く感じる。雪の状態にもよるが、技術的に厳しいところは少ないものの、確保のしようがなく危険度が高いパートが終始続くので、八ヶ岳のアルパインルートよりは気合が必要に感じた。実力がわかっていて安心のできるパートナー以外とは行きたくないルートだ。
今回は結局ロープは使わなかった。スノーアンカー以外には確実な支点はとりづらい。どこからロープを出すかは難しい判断だ。いずれにしてもリードが落ちたら止められない感じがする。

谷川は関東のクライマーにとっては素晴らしエリアである。今回東尾根を登りながら、頭に入っている様々なルートを目で追ってみた。どこも難しいそうだ。僕の実力でどれくらいやれるのだろう。これからどんな冒険がここで待っているのだろう。
得体の知れない谷川の魔物にすっかりとり憑かれてしまったようだ。

(組長)

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