Member : ちえ蔵、あーさ、組長
Timeline :ヌク沢橋0830~0940近丸新道~1139大滝下~1315大滝上~1445(2240)登山道~近丸新道~1648登山口
Author :組長
永遠のサブプラン・・・ヌク沢
何度計画したろう。何度延期になったろう。
ただ・・・焦がれていたわけではない。日帰り、手軽、幻の大滝、と、ちょいと天気が悪い週末の都合のいい浮気相手にはもってこいだった。。。なんて言ったら、東沢渓谷の山の神に怒られそうだ。
近場なんで朝発でゆっくりできるのはいい。ストイックで朝がチョー早いパートナーに急かされることもない。
房のしっかりしてきた葡萄棚を眺めながら、西沢渓谷へと車を走らせる。渓谷の無料駐車場は8割程車で埋まっていた。
ヌク沢橋までのんびり歩く。あいも変わらず、僕らはこれからの季節の山の話しかしない。いい大人が3人揃って、遊ぶ話しかしない。なんとも虚しい光景だが、本人たちは至ってご機嫌だ。もっと大事な話はあえてしないのかもしれないけれど。
少しの睡眠不足でボッーっとしてた僕も沢装束に身を包み、ヘルメットをかぶると急にキリリと気が引き締まったような気がした。いつもの仕事の時もこうでなくちゃな。沢靴履いて出社してみるのも僕の場合、いいかもしれない。
序盤は比較的薄暗い渓相が続き、高曇りの天気も相まって、あまりテンションが上がらないが、次第に笛吹川水系らしいナメが始まり、陽光が新緑を透かして差し込み始めると、久しぶりに大自然の懐に入り込む喜びに溢れた。大きく深呼吸して、そして大きく息を吐き出した。
今年はまだ2度目の沢。例年に比べるとスタートは遅い。2回目くらいでようやく沢の足さばきに慣れが戻ってくる気がする。足裏で沢床と握手するように、歩いてく。
昔、ウインドサーフィンをかじっていたとき、師匠からウインドの足さばきを教えてもらったことを思い出した。簡単にまとめてしまうとそれはいわゆる武道のすり足の極意。その感覚は沢での足さばきに通ずるものがあるような気がした。クライミングでも猫足が大事という。バタバタしてはダメだ、力を込めるときは力を込め、抜くときは抜く。その塩梅が上手な人が、結局上手い人なのだ。身体の使い方、ということで全ては通じていると思う。多分それは心や頭の使い方でも同じ事が言えると思う。たかが遊びでも意識すればいろいろな真実が潜んでいる。それに気付けるかどうかでその人の山ヤとしての、沢ヤとしての、クライマーとしての(たぶんそれは人としての)深みに大きく影響してくる。どんなことにも気付きを得られる人間は伸びる。
・・・なんて、全く人生伸び代ゼロの自分が言うのもおかしな話だが、久しぶりにいっぱいの酸素を吸い込んでいつもは働かない脳みそが少し活発になったんだろう・・・。
そうこうしているうちに、週末の浮気相手は、巨大堰堤という原始の自然と相反する人工物にすっかり蹂躙されてしまっていた。力自慢の人夫たちによって汗水たらして丁寧に積み上げられた石垣ならともかく、石質な重機で建造された堰堤には渓の風情も歴史も感じられない。
近丸新道を横切った先も数多くの堰堤が現れ、腹立ち紛れに堰堤越えのムーブをオブザベしてみるも4m感覚で配置された排水孔をダブルダイノでつなぐ8段はあるんじゃないか、と思われるほどの激悪ムーブが要求されること必至なので、ここは断腸の思いで高巻くことにした。
三俣でしばし休憩を取るが、お天道様は相変わらず本調子でなく、沢をそよぐ風は涼しいというよりも寒い。クソ暑かった昨日に溜め込んだ沢に飛び込んで泳ぎたい欲求は、もはや微塵も残っていなかった。
奥の二俣を分けると、次第に美しい滝とナメが始まり、大滝へと至る。
週末の女はついにその人の手に蹂躙されていない美しい秘部を晒した。
ヌク沢の大滝は、「幻の大滝」と言われる。こんなに近場でド派手な大滝に「幻」感は全く感じられないが、甲武信岳がまだまだ奥秩父の秘境だった頃に草鞋を履いて苦労してたどり着いた山人の目を通して見れば、見上げる高さの岩壁と煌く飛沫についつい詩情をかられたのも無理はない気がした。
かの平山ユージ大先生は、岩からはパワーを、森からは癒しをもらえると宣っておられたが、大きな岩の圧倒的な質量感を前にすると、僕もなんだかいつもパワーをもらえる気がする。
大滝登攀、といえばかっこいいが、まあそれほど困難はない。傾斜は緩くどこでも登れるだろう。ただ、ところによりヌメリがひどく注意が必要だ。ロープを出して、真ん中から右の方に上がっていった。
2p目はそのままつるべでちえ蔵さん。もう少し流心に寄りたかったそうだが、プロテクションの点も踏まえたよくマネジメントされた良い選択とよいラインであると思った。
3p目はさらに傾斜のゆるくなった右岸をもうロープ要らんなと思いつつ伸ばす。大滝途中で小雨が降り始め、一層寒さが増す。ガスって先の見えない感じは、昨年の黄蓮谷を彷彿とさせるが、プレッシャーは天と地ほど差があった。。。
大滝上はしばらくナメ滝が続き、やがて右岸に伸びてくる尾根に乗ってヌク沢を後にする。登山道まで地図を見ながら進んでく。歩きやすい、と感じるところは、おそらく動物も同じで、そういうところには必ず鹿のフンが転がる獣道となっていた。この山の住民たちと同じ気分になって山をたどることもひとつまた楽しい。
下山は近丸新道へ。
かつて珪石を運び出したトロッコの軌道をスタンド・バイ・ミーみたいに歩いてく。この軌道、しっかりメンテされてインディージョーンズみたいに駐車場までひとっ走りできたら、ハイカーはともかく下山の沢ヤなんかには大人気になるんじゃないかと思うた。
今年もいい沢に行こう。
満天の星空の下で、焚き火を囲み、いい酒を飲もう。
そうすれば幸せだと、ごく単純にそう思うた。