滝谷ドーム中央稜

2017-08-06

08_アルパインクライミング l_北アルプス

Date : 2017/8/5-6
Member : あーさ、組長
Timeline :5日:上高地バスターミナル~北穂高小屋
6日:北穂高小屋0532~0640T1懸垂下降点~0659ドーム中央稜取付き0715~1000ドームの頭~1025稜線登山道~北穂高小屋~上高地バスターミナル
Author :組長


リアルクライミング TAKIDANI



 
初登者のRCC藤木九三はその記録の中で滝谷を「北穂高の懸谷は、大きな蜘蛛が不気味な脚を拡げた形に物凄く垂れ下がってゐる」と形容した。「飛ぶ鳥も通わぬ・・・」ともよく言う。滝谷ってのは、前穂や屏風などの明るい岩場のそばにあって、どうしても陰惨な印象を与える岩場だ。谷川の一ノ倉沢に通じるものもある。おそらく・・・海外のクライマーから見ればクレイジーなジャパニーズアルパインの象徴のような岩場でもあると思う。
一応・・・ジャパニーズクレイジーアルパインクライマーの端くれとして一番クレイジーじゃないドーム中央稜を登ってみることにした。
 
沢渡始発のバスに乗り、故あって個人的に感傷的な思い出の地になってしまった河童橋に降り立つ。朝の淡い陽光に照らされてぼあっと浮かんでいる穂高連峰を見上げてテンションの上がらないアプローチを開始。小梨平には夏休みの学生のテントがずらりと並び、そろりと起き出し朝食の準備を始めきゃっきゃと青春を謳歌していた。
横尾までは比較的暑さを感じなかったが、本谷橋を過ぎて上りが急になり始めると暑くていやになった。のろのろと涸沢に到着し、さっそくジュースを買ってしまう。涸沢の雪はだいぶ後退しもうすっかり夏のそれになった。前穂にはバットマン型の雪形がクッキリ見えた。
さらにここからかんかん照りの北穂南稜をゆく。天気も心配なので急ぎたいが、久しぶりの夏らしい尾根歩きと暑さにペースが上がらず、休み休みノロノロ運転。
それにしても穂高の登山者はヘルメットをかぶっている人が増えた。10年も前は一般登山道でヘルメットをかぶっている人なんてほぼゼロで、ヘルメットとか登攀具を持って歩いているだけでどこかエキスパート感を醸しかっこよく感じたものだけど・・・(自分だけ???)、今や猫も杓子もヘルメットだ。鎖場では丁寧に安全管付きカラビナを鎖に通し、万全を期して下降している登山者もいる。最近の登山者の安全意識の高さは大変素晴らしい・・・。
若気の至りとは言え、ノーヘルで稲妻が目の前を横に走る荒天の中、30キロの荷物を背負って西穂~奥穂を縦走したことが懐かしい。まさに今で言う「無謀な登山者」だ・・・。
そういえば、北穂南稜の鎖場から転落して鎖骨骨折と足を打撲した女性を背負って涸沢小屋まで下山したのも懐かしい。あの時は無事ヘリピックアップを見送って再び南稜を登り返しザック回収してバス最終便に間に合うために上高地までトレランしたっけな。今思えば学生の頃はバカみたいに体力があった。1週間後に届いた5万円の謝礼の札束握り締めて歌舞伎町に繰り出したのも懐かしい(やっぱただのバカだったのかもしれない)。
まあまあそんなこんなで穂高の山々には数多の思い出があり、僕の山ヤとしての何かを育んでくれた気がする。
毎度お馴染み涸沢
ようやく北穂小屋に到着すると、待ってましたとばかりに雨が降り出した。今回は、懐かしき日々の頃の自分では考えられない小屋泊である。もっとも、この午後から夜にかけての雷雨予報を知っていたのと、テント場から小屋まで10分という立地を考えると(しかも途中に雪渓通過)、男子はともかく女子はトイレが厳しいので、6500円払っても素泊まりするのは大変合理的に思えた。
当たり前だが、小屋ってのはすこぶる快適だ。水、お茶、お湯が飲み放題で今日のカンカン照りですっかりふかふかになった布団。金ってのはなんでも解決してくれるなぁ。
目の前に広がる雷雲と夕日の競演を眺めながら過ごした。
夕日を見ようと多くの人たちと一緒に北穂山頂に行く。みな、槍だ、穂高だ、常念だと北アルプスの主役に歓声を上げるが、僕はみんなとは反対方向を見やっていた。そこは「岩の墓場」と称される異空間。滝谷だ。柔らかな夕日を浴びる他の山々とは明らかに異なり、冷厳な佇まいのそこは、正直なところ、どちらかと言われればテンションの上がらない感じを受けた。しかし、同時にやらねば、と思える光景だった。
相変わらずこの山が雲間から現れるとみんなが振り向く

相変わらずこの尾根はセクシーだった

翌朝。
久しぶりにアルプスの稜線で日の出を見る。一人で縦走ばっかりしていた時は、この日の出の時間が最も幸せだった。岩や草や木や山が、そして人が、みんな上がってくる太陽に焦がれ、優しいオレンジ色に染まる頃、今日一日の活力が溢れてくるその瞬間が好きだ。

さっそくガチャを身に付け、縦走路を歩き出す。昨夜からの雨は上がったものの、岩は濡れて滑りやすく、登山道でも気を遣う。
ドームを回り込み、奥穂に向かう縦走路が最初の鎖場を降りるところで右側の沢型を下る。明瞭ではないがところどころ踏み跡みたいのがあるのと、少しわかりづらいがケルンが積まれていた。
少し下ったところで凹状の岩場をクライムダウン。難しくはないが、濡れているので怖かった。そのまま右方向に下っていくが、草付きや岩場は濡れているので怖い。3尾根の上に乗り、懸垂下降点を探すためドームを方向を覗き込む。眼下に広がる荒々しい岩の塊に思わずビビった。近年の群発地震で多くの岩場が崩壊し多くのルートが消失したらしい。草木も少ないその光景は、陰惨な印象を与えた。

3尾根のすぐ左側を下降していくと、少しガレたピナクル状のところの上の3尾根上に回り込んだところの岩に懸垂下降点があった。ハンガーボルトとラッペルリングがある。そこから50m折り返しの懸垂一発でT2へ。そこから草付きの広いバンドを辿ってドーム中央稜基部に到達した。ここまでのアプローチは、ある程度尾根と谷の概念を掴んでないとオンサイトするのは少し難しい。山のカンも必要だ。実際、昨日小屋であったおっちゃんは以前行った時にたどり着けなかったらしい。
ドーム。右の切れ落ちたリッジが中央稜だ。

T1からの懸垂下降
時間もないのでさっそく1P目に取り付く。最初は階段状のフェイスを登り、右奥のチムニーに入っていく。しかし、チムニー内はびしょびしょで、しかもザックがあるとかなり厳しい。仕方がないのでそのままフェイスを直上するが、こちらもびしょびしょであることは変わりない上に、ホールド・スタンスともに細かいために迷わずA0した。小川山とかのマルチならフリーにこだわるが、3000mの岩場で、帰りに5時間も6時間も自分の脚で帰らなければならない場所で、しかもびしょびしょの状態で、無理はできない。そこらへんがアルパインクライミングの難しさだ。
1P目。右上のチムニーに入っていく。
チムニーの上のCSの上であーさをビレイする。2Pはあーさが出撃。露出感があるが簡単なリッジを登ってテラスに到着。その後、スラビーなフェイスを岩の摂理に沿って左上してからテラスにのっこす。こちらもテラスにのっこす部分が結構難しい。リードのあーさの成長を感じた。
2P目の最初の部分
3P目はほぼ歩き。ここらでガスが周囲を包み始め、雲も沸き立ってきたので天気が崩れてきたような感じがして焦ってきた。ガスに間にボワッと浮かぶ岩壁は滝谷らしいといえば滝谷らしいが、ボクには恐怖心しか与えなかった。
4P目は、凹角からスタートしたが、少し上に行くと右側にもっとちゃんとしたビレイ点があった。そちらの本来のルートっぽい方に合流してから凹状を上がり細かいスラブを上がって最後は、かぶったCSを直上する。左右の岩は濡れている上、しっかりしたスタンスはないので、ステミングしている足がいつスリップするかヒヤヒヤする。かなり厳しい態勢になり少し混乱しかけたが、冷静に目の目のクラックにカムをセットし震える足を落ち着かせながらCSの上に這い上がった。誰も見ていないけどカッコ悪く泥臭いリアルなクライミングだった。
目の前には抜けなくなった残置のカムがある。ガイドブックには書いてないが、個人的には4P目が一番の核心だった。

5P目は核心と書いてある本もあるが、だいぶ岩も乾いている部分が多く、順調にロープを伸ばす。最後の少しハングした部分は、左右どちらからでも行けるそうだが、プロテクションのしっかり取れる左からのっこした。そこがドームの頭だった。
5P目

達成感というよりも無事に終わった安堵感のほうが強かった。岩の状態が悪かったのもあったが、正直結構厳しかった。昨日、夕闇に冷厳に佇む滝谷の姿にすでに気圧されていたのかもしれない。単純に、自分のクライミングスキルと山の経験が足りなかったのかもしれない。
花谷さんとかが冬の滝谷で「リアルクライミング滝谷」という映像作品を撮っていたけど、その作品とは全く関係なく「リアルクライミング」という言葉がなんかぴったりとはまった。

一般登山道に合流する手前のルンゼを下る
ドームの頭からは、踏み跡を辿ってコル状にたどり着き岩峰を目の前にして左手の登山道のペンキマークが見える方に向かってルンゼを下って行き無事登山道に合流した。目の前には、まだまだ修行が足りん!とばかりに威圧する北穂南峰の岩峰がガスの合間に屹立していた。
北穂南峰
 
下山は毎度お馴染みの道をたどる。明日から台風だというのに登山者が絶えない。子供連れも多い。翌日の風雨の中、夏休みの苦い思い出にならなければいいけれど・・・。
 
 
横尾に続く登山道からはいつものように屏風の大岩壁が見渡せた。
冬。この大岩壁から滝谷へと継続してパチンコする。いつしか思っていたそのクライマー像への憧れは少し変遷しつつある。少し年を取ったのだろうか。守りに入り始めたんだろうか。はたまた社会人としての責任感みたいのを感じだしたんだろうか。でもどこかで、僕みたいな全く才能もないクライマーは、いずれどこかのレベルを境に、この危険の輪廻から降りなくちゃいけないと思っているところもあったような気がする。まあ、本物から比べればそんな危険なとこ行ってねーじゃんって言われるのがオチだが。
「上」を目指さなくても、山は「横」にも「斜め?」にもいくらでも広がりはある。山でできることの裾野は限りなく広い。
楽しんでいこう、山を。







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