Date : 2023/11/18
Member :バード、くま
Author :くま

マンガ「岳」の話の間ページに「心の山」という作者の思い入れのある山が紹介されるページがいくつかあります。きっと私にとってのそんなずっと思い出すであろう山の話。

まだ登れなくてもいいから目標として獅子岩を一度目に焼き付けようと、子持山を訪れたのが2年半前(その時の様子はこちら

登るぞと心に決めてみたものの。およそ2年、ほとんど何もできないまま過ごしました。

この春、バードに会った際に「今年こそやりましょう。カレンダにいれときますね」
といって、9月頃に日程を書き入れました。

その後私は講習に通ったり。ジム通いを再開させ。ストレッチも日課にするなど。
ちょっとづつ準備を進めてきました。

とはいえ、予定していた肝心のバードとの事前の練習は、雨に降られまくりでなかなか思っていたようにはいかず。最後にようやく、日曜は雨で実質半日しか練習できないとわかっていながらも小川山にはいってなんとかシステムの練習をこなし、不安を残しながらもこの日を迎えました。

当日はもはや晩秋というか初冬。晴れはするものの、午後からは強風、夕方からは雪も予想されていました。独立した岩峰であることからも、風の影響は強く受けそうで、かなりやきもきしながらも。せっかく晴れてるのに、現場に行かずにはやめられない、と意を決して出発しました。


尾根にあがると、思いの外風は吹いておらず。これならいけるかもという気になってきました。そして、尾根道から見えるこの獅子岩の全貌の美しさというか。勇壮な姿はやはりテンション上がる。行くしかない。




駐車場にはそこそこ車が停まっていたが、幸い獅子岩には先行パーティーはなく貸し切り。
初マルチの私がモタモタしそうだったので、先行パーティーや後続のパーティーで気を煩わせたくないと思っていたのでちょっとだけ胸をなでおろしました。


 1P目と2P目はリンクさせ、バード氏がリード。
1P目は斜度の緩いスラブ上フェースでそれほど難しさは感じなかったが、2P目は壁が立ってきて、フォローとはいえそこそこ気を使いながら登ることしばし。




3P目。初のマルチのリード。
まずは、(当然だけど)フォローから続けて登ることに当惑。こんなに登り続けるのか、休ませてくれよと苦笑いです。




右手に大フレークが見えてくるあたりで、徐々に足がかりが小さくなってきます。
しばしどうしたものかと考えたあと、動き出したところでまさかの激落ち。その瞬間は何が起きたかよくわからずでしたが、バードによる落石の証言とあわせて考えると、足を置いていた岩が剥がれたっぽかったです。

1-2mほどはランナウトしていた状態での落下だったため、そこそこの衝撃でした。ボルトルートでほんと良かった。

振り返るとここで動揺していてもおかしくなかったと思うのですが、自分でも驚くほど冷静でいられました。
気を取り直して、落下したポイントまで戻り。直上すると苦しそうだが、大フレークはちょっと遠く、足がかりも小さいなぁ、としばし見比べて。大フレークを選択。慎重に足を乗せ、少しづつ体重を右にずらし、右手が大フレークのガバにかかった瞬間は、とてもよく覚えてます。

なんとかテラスにあがってピッチを切って。でもセカンドのビレイも本番ではお初。あんまり緊張を緩められず、ややあたふたしながらバードを待ちました。

核心と言われる、5P目5.8は、バード氏にお任せ。
このピッチは特に足がかりが逆層で、うまくレストできず手足ともに疲れさせてしまったように記憶しています(手を置きたいところにピトン打たんでくれ)

6P目、ちょっと上がるとそれまでとうってかわっていきなりスラブ。手がかりはないもののここは小川山での事前練習が生きて「アレよりはマシ、行ける」と自分に言い聞かせてパス。6P目と7P目を繋げるかどうかは、その場で判断、ということにしていたのですが、ここで調子にのって、継続を選択(後に後悔)

7P目。一旦角度が寝た壁が、終盤でまたググッとせり上がり。そしてまたここが悪い。ホールドあるけどみんな逆層、だった印象で、疲労がたまり、しばしテンションをかけて休憩。なんとか最後のハング気味を超えて、終了点がそこに見えたものの、そこからマントルを返す元気はなく、左の土のついたテラスに逃げて、立木で終了点をつくりました。後に、もうちょっとそのテラスをあがるとボルトの終了点があることがわかり。疲労で周りを見渡す冷静さを欠いていた、と反省。

8P目は短いながらテクニカル。バード氏がボルダリーなムーブでリード。
疲労困憊の私、無理やりハイステップと最後のマントル返しは右に逃げて。ちょっと逃げ腰のフィニッシュと相成りました。




2年半前は、あえて登山道からは岩峰のトップに立たずに取っておいた場所から景色は、ただひたすらに最高でした。

帰路に、改めてこの岩の全貌をしばし眺めました。
何度見ても素晴らしく切り立った、カッコいい岩だ。獅子だ。
そりゃ登ってみたいって思うよ。

これまで、会の中でたくさんの人がマルチピッチに挑戦するようになる姿を見ましたし、その多くの方のスタートは、このルートでなかったことには気づいていました。きっとこれはマルチピッチ初心者に最適とは言い難い選択だったのだろうと思います。

でも、自分はこの美しい岩に登りたかったのです。
この美しく大きな岩だから、2年半にもわたってモチベーションが保てたのだと思います。

名前は忘れてしまいましたが、ある登山家が「厳しい登山にはその山の全貌を捉えた写真をもっていく。一歩一歩が辛いときには、挑戦している山の美しさをその写真を見て思い出す」といっていました(曖昧な記憶です)

私もそんな気分で。「目に焼き付いたこの岩、これが登りたいのよ」ってことなんだと思います。

私の入会が2016年。あれから7年たちました。実質的にこの5年はブランクに近い期間でした。入会時は、マルチピッチを自分がやるイメージなんて、少しもありませんでした。

バードを誘って、獅子岩を眺め、麓で焚き火をして過ごしてから2年半。
やっとやっと、憧れた岩を登りきりました。

これまで、しつこいくらい「獅子岩やりましょう」と声をかけてくれ。
自身もなかなか時間がとれない中、練習に付き合ってくれたバードにはひたすら感謝です。

槍ヶ岳北鎌尾根と、今回の獅子岩はこれまでの私の登山経験におけるハイライトとも言える2つです。憧れ、目標にし、時間をかけて練習を経てやっと達成した対象ですが、その2つとも、バードが共に居てくれました。ありがとう。

ポケットに忍ばせていたトポは額に入れて保管しています

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