Date : 2009/11/21-22
Member : もとき
Timeline : day1: (11:19)渋の湯(11:45)-(14:00)黒百合平
day2: 黒百合平(7:15)-中山峠-(8:15)東天狗-(8:45)西天狗(9:15)-天狗の奥庭-(10:30)黒百合平(11:30)-渋の湯(13:30)
不意に休みが取れた3連休、当初は槍か甲斐駒に、雪山山行の偵察も若干兼ねて行くつもりだった。だが、調べてみるとどの山域も30センチ前後の積雪があり、僕のレベルでは2泊3日の単独行は難しい。シーズン最初ということもあり、1泊2日のまったり雪山ハイクに切り替えた。比較的天気のよさそうな八ヶ岳の、雪山入門コースと言われる天狗岳を目指した。
あずさの窓から見る里山には雪などひとつもなく、空は晴れ渡り日も照っている。外張りまで持って来たのはおおげさではないかと不安がよぎるが、茅野駅に下りるとピッケルをザックに引っ掛けた登山者であふれていてホッとした。登山口へのバスも、雪山装備の人々で満員である。無雪期にも訪れたことのない渋の湯に着いたのは、11時20分。気温は−2℃。体を動かし、スパッツを付け、ストックを手に入山した。
最初は土も見えた樹林帯の道も、標高を上げるにつれ真っ白になる。シラビソの葉や枝にも雪が積もり、立ち止まると、雪の粒がたてるパチパチという音が聞こえ、雪山に来た実感でいっぱいになる。トレースはしっかりしていて、不自由はない。登山者は20人程度か。単独行は僕の他にも3人ほど。今日はテン場に着いたらのんびりするだけだ。誰に気を使うでもなく、適当なペースで歩いた。
さして変化のないルートが延々と続き、21キロのザックの重さが堪え始めた頃、黒百合ヒュッテに着いた。幕営のスペースを確保し荷を降ろし、いつもなら喜び合う同行者がいないのを寂しく感じながら、ヒュッテに申し込みを済ませる。テントの紐を小枝に結び、ショベルで雪を堀り枝を埋め、また雪で踏み固める。外張りも張った。
とりあえず1時間ほど横になったが、起きてもまだ明るい。ヘッドライトの予備電池を忘れたことに気付き小屋に買いに行くと、一本200円と言われ思いとどまった。相変わらず人恋しく、小屋の暖炉でくつろぐ人々が羨ましい。テントに戻りレトルトの牛丼を雪で作った湯で暖め、夕食にする。小説を読みだすと集中し、暗くなるのにまかせた。
18時50分、小屋にNHKの天気予報を見に行く。この時ばかりは、小屋泊まりもテント泊も一緒である。あすの長野県中部は、晴れのち曇り。週間予報も安定している。南に縦走する人も多いのだろう、小さな歓声とともに安堵の空気が広がる。ともかく、午前の早い時間に行動を終えれば問題なさそうだ。テントでさらに読書を続け、夜外に出ると、満天の星空が広がっていた。
シュラフの中で携帯を見ると、22時半だった。寒さで、全く眠れない。テント内の気温は−8℃前後。オーバーヤッケもオーバーズボンも着ずに潜り込んだのが失敗だった。いまさら起きるのも面倒で、我慢する。しばらくして、テントの外、頭のすぐそばから聞こえるザラザラという音が気になり始めた。人間の足音にしては弱いが、何かがいるような気配に思えて、血の気が引く。気配はトイレに行くでもなく、テントを叩くでもなく、居座り続けた。カズさんがテントを飛出していたずら者を捕まえた話を思い出したが、とてもそんな勇気はない。そのうち、枯れ草が風で揺れる音と隣のテントの男性が寝返りを打つ音が重なっただけだと分り落ち着くが、今度は雪の重みでテントがつぶれた夢をみた。もがいていると目が覚め、寒さのあまりシュラフの口を締め過ぎ息が苦しかったのだと気付く。思い返すと笑えるが、初めての雪山一人テント泊で不安だったのかもしれない。
結局ほとんど寝ずに朝を迎える。放射冷却もあって冷え込んでおり、外は−13℃。寒さでシュラフから出られずに起きたのは6時半頃だった。遅いが7時に発てば、10時前後には戻れる。棒ラーメンを朝食にし、テルモスにお湯を入れ、テントは置いて出発した。アイゼンはまだ付けない。トレースは細く、所々岩も露出しているため、ひっかけて転ぶ方が恐かった。他パーティは、ベテランらしい人もほぼアイゼンを付けている。
すぐりんから聞いた通り滑落するような箇所もなく、順調に登った。快晴で、気温は−5℃前後まで上がっている。寒さは感じない。天狗の鼻の前後で、やや強い風が南から吹き付けてきた。風速15mくらいだろうか、去年の硫黄岳を思い出し、八ヶ岳に来ていることを実感する。東天狗の山頂は、風がなかった。北方に北八の山々と、浅間山を望む。黒斑山には、まだ雪がないように見えた。南は硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳、遠くには南アルプスまで見渡せた。
後続の登山者が多く、山頂も狭いので早々に西天狗に向う。縦走組はパスするのだろう、トレースは2つ程しかない。鞍部でまたも強烈な風に吹かれ、たまらず目出し帽をかぶった。南方に遮る山や尾根がないと、風が抜けてくるのだろうか?
山頂に着いてやったーと一人喜んだ時も、無風だった。カップに粉末のカフェラテを入れテルモスからお湯を注ぎ、口をつける。誰もいない。やり遂げて、危険もない。極楽である。後続の登山者が携帯が使えると教えてくれたので電源を入れると、メールがいくつも入って来た。アンテナは3本立っている。家に電話し無事を伝え、東天狗を撮って写メを送った。
だが、後から考えると、この状況で電話はよくなかったかもしれない。もし向こうが電話に出ずに、着信だけ残っていたら心配しただろう。留守電が入ったりメールが届けば問題ないが…。
ぼーっとしていると、いつの間にか四方から黒くて厚い雲が湧いていた。崩れる前に、下山する。天狗の鼻のあたりで振り向くと、西天狗はガスに覆われていた。ほんの数十分で、こうも違う。
標高が下がれば問題はなく、厳冬期は雪崩の危険があるため通れない天狗の奥庭ルートのトレースを辿る。岩をぴょんぴょん飛び越え歩くような道で、中途半端に雪があるため苦労する。中山峠の方に下りるべきだったと後悔した。それにしても、もう10時を過ぎようというのに、多くの登山者とすれ違った。ガスってますねえ、と一応声をかける。結局、アイゼンは使わなかった。
テン場に戻り、時間があるのでテントを裏返して乾かし、ヒュッテを後にする。八方台との分岐点でたっぷり休憩。棒ラーメンを食べ、カフェラテを飲んだ。雪の樹林帯は、どれだけいても飽きないように思える。渋の湯に着いたのはバスが出る1時間以上前で、のんびりと温泉に浸かった。渋の湯では携帯が通じない。下山連絡を入れたのは茅野駅に着いた16時だった。
もとき
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