Member : テトラオドン、組長
Timeline :4日:上高地バスターミナル0645~0740養魚場~0850宮川のコル~0950ひょうたん池~1223らくだのコル幕営地
5日:らくだのコル幕営地0534~0745明神岳主峰0834~0930明神2峰~1112明神4峰5峰のコル~1140明神5峰往復~1208前明神沢下降開始~1400河童橋
最高の天気、極上の景色、そして会心のクライミング。
今シーズン最後にして最高の山行になりました。
明神岳は、上高地に入った時にまず目につく険しい岩峰だ。涸沢へのアプローチの時も徳沢の先までずっと左手に高く聳える山である。10代前半だったか、初めて河童橋から穂高連峰を眺めた時、まず印象に残ったのがこの明神岳である。以降、毎年のように上高地から穂高周辺の山登りに訪れているが、いつもこの山の存在が気になっていた。夏の穂高連峰をハイキングしていた頃は、登山道のないこの山は登山の対象にはなりえなかった。そして、こんなにも目立つ山になぜ登山道がついていないのか腑に落ちなかった。しかし、10数年前だったか、ふと見たヤマケイで明神岳に登っている特集があった。この山は登れるんだということを初めて知り、いつか絶対行ってみたいと思っていた。それからまた10数年がたって、ロープを使った山登りや岩登り、雪山を覚えた。そして、明神岳には積雪期に登る素晴らしいルートがあることを知った。
・・・つまり何が言いたいかというと、明神岳登頂は自分にとって10数年来の願いだったわけだ。憧れの山だったわけだ。
今年のGW前半戦は散々だった。白馬主稜は目の前で起こった雪崩事故のため、取り付く前に敗退、癒しを求めて転進した大雲取谷では、図らずも島崎三歩ばりにいい人を演じてしまうはめになり・・・。あーあ、おっさんじゃなくてかわいい山ガールだったらなぁなんて、不謹慎なことをつい漏らし・・・。
だからこそ、後半に予定していた明神にはあり余った気力と体力をぶつける気だった。明神の雪稜・岩稜・岩壁にカタルシスを求めていた。
しかし、今回の山行前はかなりナーバスになっていた。なぜなら、27日に降った大雪の影響で穂高周辺のルートはGW前半はほとんど人が入れなかったからだ。もしオールラッセルになったらさすがに1泊2日では抜けられない。また、雪が多く落ち着いていないと、上宮川谷の雪崩が怖い。まだルート上では、今年の正月に雪崩に巻き込まれた男性2人の行方が分かっていない。ここ1,2年は雪崩についてよく勉強したが、勉強すればするほど、雪山に入る以上、雪崩は避けられないように思えてきた。雪崩は怖い。非常に怖い。
そういうこともあって、出発1週間前から降雪状況、気温等、雪の状態に関するあらゆる情報をこまめにチェックし、直前に岳沢小屋や明神館、山のひだや、などに電話をして、雪の状態、ルートの状況についての情報収集を怠らなかった。
岳沢小屋の方は、山の事を良く分かっている方が多く、周辺のルートの状況などについてこちらが知りたい情報を適切に教えて頂いた。一方、明神橋の近くの山のひだやに電話をかけた時は、いかにも旅館の女将というような物腰が低いおばさんが出て、「明神館までは簡単に歩いてこれますよ」、という。いや自分が知りたいのはその先。とりあえず「ひょうたん池まではどうでしょう?」と聞くと、「ひょうたん池!!」、と、素っ頓狂な声をあげ、「あそこは雪があるうちは通れませんよ、雪が全部なくなった夏に来られることをお勧めします、そもそも雪山の経験はおありですか」、と、なんかもう話の次元が違う。この女将と話していても埒が明かないので、しきりに心配する女将にテキトーに、そうですか、やめときます、とか何とか言って、電話を切った。
27日の大雪にもかかわらず、積雪は特に多いわけではなさそうだった。加えて、大雪後、上空500hPa面で-20℃前後の寒気が居座り、4日午後までその寒気の影響で低温が続くという。30日には雨が降ったようだし、その後の降雪はないようなので、この感じなら雪は固くしまっており、雪崩の危険は少ないだろうと思っていた。岳沢小屋の人も、4日あたりは雪崩は大丈夫だろうと言っていた。しかし実際に行ってみないと分からない。実際に、自分の目で見て、足で踏みしめてみないと分からない。雪の状態に自信が持てなければ、上宮川谷のトラバースは断念しなければならない、と、思っていた。
初日。
前夜入りした沢渡の駐車場は、下の方はすでに満車だった。去年のGWの槍の時同様に、岩見平の駐車場に駐車した。
朝。天気は非常に良い。5時半頃から登山者や観光客満載のバスがバンバン出ている。河童橋付近は、まだ朝早いからだろうか、意外と人は少なめ。
そして、明神岳を見上げた。10代前半で初めてこの山を見たときのように。
どうか安全に登らせて下さい、と、心の中でつぶやいた。
明神岳 |
明神館前を左折し、明神橋を渡る。目の前に、明神5峰が高く高く聳えている。何度も見た景色だ。しかし今までとは少し見え方が違った。いままでのように、ただ畏敬の念だけではない。山登りとしてとにかく面白そうな山だ、と思った。
明神橋からの明神岳5峰 |
養魚場からひょうたん池の看板に導かれて、下宮川谷に入る。最初は雪のない樹林帯を少し歩き、谷に入ると雪の上を歩くようになる。下部の樹林帯も含めて、ペンキマークや赤布が随所にあり、特に迷うようなところはない。少し硬い雪の上を時折足を滑らせながら、どんどん高度を上げていく。次第に眼下には梓川のゆらりとした流れが見え、明神館がだいぶ小さくなってくる。先行者は、単独のおじさん一人と雪童山の会という横浜の山岳会3人パーティーだけだ。宮川のコルまでには彼らに追いつき、先に行かせてもらった。
下宮川谷 |
眼下に梓川 |
前方のコルが宮川のコル |
宮川のコルからは、出発前に気をもみ続けた雪崩危険地帯である上宮川谷のトラバース。しかし、今日の雪の安定度には自信を持っていた。今後、温度が上がり、山が緩めば、ブロックの崩壊や落石の危険が増すと思ったが、少なくとも今の時間は、落石だけ注意していれば問題ないように思われた。雪崩の危険がある場合はそれどころではないが、トラバース中は明神の主稜線直下を歩くことから、明神岩壁群の景色が圧巻だ。垂直の岩壁には幾筋もの氷柱が下がり、稜線からは、アッカンベーをしたような大きな雪庇が垂れ下がっている。明日あそこを縦走するのかと思うと、気持ちが昂る。デブリの堆積する二つの谷を横断し、最後はひょうたん池のあるコルめがけて登る。
ひょうたん池はもちろん雪の下だ。ここは幕営適地で雪のブロックが積まれた幕営跡があった。ここは何張りでもいけそうだ。右手には前穂の3本槍が見える。振り返れば、霞沢やその奥の乗鞍岳の景色が素晴らしい。
明神主稜線を見上げる |
上部にデブリ。落石も多い。 |
明神主稜線 |
右上のコルがひょうたん池。デブリをよけて登る |
ひょうたん池 |
後ろに霞沢や乗鞍 |
前穂 |
真中が第一階段、左が4峰、右が前穂 |
ひょうたん池でガチャとアイゼンをつける。すぐ先には、第一階段と呼ばれる岩場が見える。少し雪稜を行くと岩場の取り付きに着いた。
第一階段へ向かう |
第一階段は、傾斜は結構あるが、特に悪いところはない。ハイマツ帯を少し進んだ後、中央に見える岩を右から回り込み、最後は急なスノーリッジに乗り上がってから50度強の雪壁をガシガシ登っていく。少し雪が不安定な所があり、また、落ちたらアウトなので少し緊張する。初心者がいる場合は迷わずロープを出した方が良いと思う。灌木で支点は取れる。
傾斜は結構ありますよ |
雪壁を登る |
背後にひょうたん池、そして徳沢が見える。テントのお花畑が見えた。今頃、GW気分に踊らされた観光客がみんなしてソフトクリームを買わされていることだろう。 |
その後も締まった雪の快適な雪稜登高が続く。
ラクダのコル手前のピークからは、正面に明神の本峰がドーンと現れ、その左に鋭くとがった明神槍(2峰)が望めた。そしてなんと、ラクダのコルには、すっかり整地が済んだ快適そうなテント場があるではないか。昨日、この最高のテント場をこしらえてくれたパーティーに感謝しながら、労せず安住の地を得た。
テントで落ち着いたのが13時前。外は断続的に雪やみぞれが降り続いている。なんつーか、やることがない。水作りを終えた後は、ゴロゴロしながらラジオから流れる綾戸智恵のジャズライブをなんとなく聴いて過ごす。明神東稜に大阪おばちゃんの喧しいMCトークが響く。やることはなかったが、なんとなく優雅な時間だった。ちなみに東稜上はラジオの感度抜群でドコモケータイもバッチリ入ります。もちろんソフトバンクは入りません笑。最近、「つながるつながる」ってCMで言ってんのになぁ。。
テントの外では、時折、ライチョウが啼いている。今日の晩飯の焼き鳥にしようとあたりを見渡すが、姿は見えなかった笑。夕陽が赤く染まるのを待っていたが、雪は一向にやむ気配はなく、ガスは濃いままだった。時折、横尾の灯が見えた。
明神本峰。赤が翌日登ったライン |
明神槍(2峰) |
コル手前の小ピーク |
ホテル・ラクダのコル |
今日のホテル・ラクダのコルには、我々含めて3パーティー。途中で抜いた単独のおじさんと雪童山の会の3人さんだ。下のひょうたん池には3パーティーほど入っていたらしい。さすが人気の明神東稜だ。
白馬で飲み損ねた「大雪渓」で乾杯してから就寝。夜は結構寒かった。朝起きた時テント内で-8℃だったから、外はもっと冷え込んでいただろう。冬山と考えれば寒くはないが、GWにしては寒い。
2日目。
日の出前に起床。テントから顔を出すと、素晴らしい天気だった。満点の星空に三日月がとても綺麗だった。目の前には、昨日辿った雪稜が白くおぼろげに光っている。次第に東の空が明るくなり、蝶ヶ岳の上から太陽が顔を出した。まるで徳沢のソフトクリームのようになめらかな雪稜と、一転、荒々しい圧倒的な岩稜、岩壁が朱に染まってくる。なんて素晴らしいところにいるんだろう、と思った。本当に、山をやってて良かったと思った。
昨日登ってきたスノーリッジ |
岩も雪も山も人も、全てが日の出を待つ時 |
前穂 |
蝶ヶ岳の上にあがる日 |
空が青すぎた |
太陽がすっかり顔を出し、日差しのぬくもりを感じながら出発。今日も先頭を行かせていただいた。
目の前には、青い空を劈くように明神本峰が突き上げている。頂上までルートが見渡せるので、しっかり登攀ラインを読む。バットレスと呼ばれる岩場の上の雪壁には、頂上を左に回り込むようにトレースがついている。しかし、トレースはないものの、岩場を右左とかわしながら、頂上に直接出られると思われる雪壁を登るラインがカッコいいと思った。その素直な感覚に従おうと思った。
最初の岩峰は左から回り込んで雪壁を登り、リッジに出る。リッジ上の岩にはビレイ点があったから、パーティーの実力次第でロープを出すのかもしれない。早朝の冷え込みで雪は良くしまっており、アックスが気持ちよく刺さり、まるでダンスを踊るようにサクッサクッザッザッ、と、リズミカルに手足を動かして登っていく。
最初の雪壁 |
後ろのコルが昨日の寝床 |
すぐ先に、バットレスといわれる1枚岩が立ちふさがる。バットレスといっても15mほどしかない。
真正面のクラックも5.7くらいのハンドクラックになっていて、カムがいっぱいあって、フラットソールなら登れそう。しかしここはセオリー通り、正面すぐ右の凹角を登ることにする。
バットレス。中央の凹角がルート。 |
ここはロープを出す。傾斜の緩い典型的なスラブ。広沢寺の岩場みたいだ。左壁と右壁に残置ピトン・スリングがいくつかある。しかしここがなかなか痺れた。出発してまだ10分ほどで体が硬かったから・・・なんて言い訳をしてもしょうがないが、スタンスが細かく、あまり思いきったムーブはできない。1㎝ほどのエッジに慎重に前ツメを乗せ、細かいホールドをカチって登る。明らかに正解ムーブではなさそう・・・。ここは過去に滑落死亡事故も起きたらしい。なかなか緊張した。Ⅳはある。厳冬期などでオーバー手袋をつけての登攀はちょっと厳しいと感じた。ただ、最悪、残置スリングでA0できる。テトラオドンさんも少々苦戦。フォローならではの??かなりきわどいムーブでどうにかこうにか登ってきた。
抜けたところにビレイ点がある。すぐ後ろから、単独のおじさんがソロデバイスを使って登ってくる。凹角をそのまま上がるのではなく、左壁の方に探せばよいホールドがあるよと言っていた。このおじさん、かなり強いベテランクライマーだった。頂上でもいろいろ話を聞いたが、穂高周辺の冬壁はほとんどやっていて、屏風東壁・前穂東壁・滝谷の冬季継続登攀という(通称パチンコというらしい)意味の分からないことも(笑)やったらしい。自分のような初級者には想像すらできないが、とにかくこのおっさんはすげークライマーだということは良く分かった。また、そういう話を別に自慢げに言っているわけではない。とっても謙虚でフレンドリーなおっさんだった。おっさんの実力的には、明神東稜などはお散歩程度で、もたつく我々なんかさっさと抜かして先に行けるはずだけど、終始、ぺーぺーの我々に先を譲ってくれた。こういう山ヤになりたいと思った。安易に先行者のトレースを辿らなかった我々に「自分の信じたラインを登るということは大事なことだ」とテトラオドンさんに言ったそうだ。それを聞いた時、とてもうれしかった。
2P目はテトラオドンさんがリード。背後に広がる景色を時折振り返りながら、50度くらいの雪壁をダブルアックスでガシガシ登る。雪上でスノーバーを使って確保支点を取る。簡単。
後ろが登ってきた東稜 |
続いて、3P目は自分がリード。取り付きで考えた通り、先行者のトレースを外れ、岩壁下まで右上する。覆いかぶさるような岩の下でクラックにカムで確保支点を取る。ここも50度くらいの雪壁で特に難しいところはない。背後の乗鞍岳や御嶽が非常に綺麗だ。
3P目リード中 |
3P目をフォローするテトラオドンさん。向かって左上に先行者のトレースが続く。 |
最後の4P目は、少し右にトラバースしてから、頂上めがけて暖かい陽光に少し腐り出した雪壁を直上する。最後の浮石だらけの岩場を乗り越すと、果たしてそこは明神岳頂上だった。左から回り込んで頂上に先に着いていたおじさんとともに写真を取り合う。明神の頂には、それを示す標は何もない。
頂上直下、最後の雪壁。おじさんが写真撮ってくれました。 |
金メダリストっぽくバイルをかじってみました。特に意味はありません。。 |
ついに明神の頂上に立てた。いつもはガッチリ握手をするが、この時は興奮していたのか、握手とかはすっかり忘れていた(2峰頂上ではがっちり握手)。おじさんとほぼ同時だが、2013年5月5日の明神岳初登!!笑
目の前には、前穂の美しい三角錐が蒼天を裂いている。良く見ると、前穂のダイレクトルンゼには岳沢からの登山者が30人くらい列をなして登っている。前穂から奥穂、そして西穂へ。美しい岩と雪の稜線が続いていた。背後には北穂や笠なども見える。これ以上は望めない最高の景色だった。しかも快晴無風。後から上がってきた雪童の3人組とともに、しばし極上の時間を過ごす。
単独おじさんは、この後下山してミズガキにクライミングに行くと言って、主稜は縦走せずに前穂方面、奥明神沢の方に向かって下りて行った。かっけーぜ、おっさん。
前穂。真中のダイレクトルンゼには行列ができていた。 |
奥穂。次に狙うコブ尾根や南稜をじっくり観察。 |
ここからが、明神主稜縦走の始まりだ。
縦走するかどうか悩んでいた雪童の方に、今日ほどの登山日和を逃していつ縦走するんですか、みたいな生意気で余計なお世話なことを言ったら、雪童パーティーもやっぱり縦走することにしたようだ。
1・2のコルにクライムダウンすると、コルには幕営跡があった。見上げる明神2峰はやけに険しい。正面の垂壁に2本のフィックスが垂れ下がっている。フィックスといってもいわゆるトラロープで、登攀に使える代物ではない。クライミングシューズで空身ならこの正面の壁を登れるだろうが、アイゼンの全荷登攀だとちょっと厳しい。見た感じだと少なくともⅤはありそうだ。
ここはじっくり岩の弱点を探す。といっても事前の下調べである程度ルートは分かっているんだけど。
2峰は左側の階段状の凹角が弱点になっている。終了点の岩角にスリングが幾重にも巻かれているのが下からも見える。コルから少しトラバースした先のテラスから1P、20mくらいロープを伸ばしておしまいだ。鳥のさえずりを聞きながら、Ⅲでガバ万歳の快適なクライミング。そこから少し登ったところが2峰頂上。明神槍といわれる鋭い岩峰だ。ちょうどその頃、反対側から明神を縦走してきた4人組が2峰を懸垂下降し始めていた。2峰からは、河童橋や帝国ホテルの赤い屋根が良く見える。ここから見下ろすと、もはや上高地は「下」高地。帝国ホテルのスウィートよりもこっちの方が断然いい。ま、帝国ホテルには行ったことないけんどね。
2峰、明神槍 |
雪のついたところを左にトラバースし、左の凹角へ |
テラスまでのトラバース。ちょっといやらしい。コルからロープを出した方がいいかも。 |
ガバ万歳のエンジョイクライミング!! |
2峰から河童橋方面を望む。空撮みたい。 |
すぐ先は3峰。稜伝いにトレースが伸びているが、かなり急峻なリッジに不安定そうな雪が張り付いている。無理して稜伝いに行く必要はない。岳沢側を少しトラバースしてから、簡単な岩場を稜上まで上がって3峰に出る。2・3のコルに上がる中明神沢にもトレースがついていた。つづら折りのトレースだったから、ここから登ってきたパーティーのものだろう。中明神沢は縦走のエスケープとしても使えそうだ。
相変わらずの快晴無風で雲もほとんどない。紫外線もものすごく強そうだ。肌が弱いテトラオドンさんは、アラサーOLか!!ってくらいに日焼け止めを重ね重ね塗りたくって、なんか白くなっている。
3峰 |
右が本峰、左が2峰。槍みたい。 |
明神東稜。右下にクライマーがいる |
その後、3峰からの下りは岩場をクライムダウンする。特に難しいというわけではないが、浮石も多く、緊張する。4峰の尾根歩きは、雪があまりついてなく、アイゼンでは歩きにくいガレをだらだらと歩く。ぽかぽか陽気の中、いかにも残雪期という感じの稜線歩きだ。
3峰クライムダウン。左が4峰、右が5峰だ |
後ろから、今日ひょうたん池から上がってきたと思われるフランス人ガイドパーティーが驚異的なスピードで追い上げてきた。ヨーロッパのガイドは、とにかくスピード重視でロープワークもとにかく速い、ということを聞いたことがある。逆に日本人クライマーは、もたもたしすぎて海外の山では煙たがられるとか。。彼らはガチャ類も最少、というかほとんど持っていない。これこそが本場のアルパインスタイルか!!と、なんか感心した。どーでもいいが、ガイジンはサングラスが良く似合うなぁ。ま、日本語ペラペラでしたが・・・。
明神5峰 |
5峰へ向かう。気持ちーねー |
4・5のコルにはまたまた幕営跡。予定通り、ここにザックを置いて、5峰をピストンする。明神縦走もいよいよクライマックス。そして、上高地からいつも見上げていたのはこの5峰だ。気持ちが昂った。
空身でいざ5峰へ!! |
そして5峰頂上。河童橋が良く見えた。ソフトクリーム片手にイチャ付いているカップルが見えた。なんていう冗談は抜きにして、頂上に立った時、心底、感動したのだ。今も河童橋からは多くの人がこの鋭鋒を見上げていることだろう。その人ごみの中に、この山に憧れていた過去の自分がいたのだ。長く憧れていた槍の北鎌に初めて登った時と同じような感覚だった。北鎌のような拍手喝采はなかったけど。…なんて感傷に浸っていたが、相変わらずのテトラオドンさんのシャッター音で我に帰る。
ドヤッ!!! |
5峰から河童橋を見下ろす |
下降は前明神沢を利用する。5峰から先の南西稜も下降できるが、雪の状態が良ければ、前明神沢を下りた方が楽だ。南西稜の途中から前明神沢の支沢を下りるルートも簡単で良いそうだ。
4・5のコルからの前明神沢上部は少し傾斜があるが、前向きで下りて行けるレベルだ。雪が少なくなり滝が出るようになると懸垂下降が必要で時間がかかるらしいが、今日はしっかり雪があるのでどんどん下りられる。途中からシリセードで一気に滑り下りる。傾斜がけっこうあるのでかなりスピードが出る。一般にこれはシリセードとは言わず、「滑落」というのだろう。そこをあえて、「エクストリームシリセード」と名付け、ぶっ飛んで雪まみれになって急降下していく。もう少しでパパになるテトラオドンさんは、「怪我が怖い」とか言って、このアホな遊びには付き合わず、傾斜が緩くなった安全な所からゆるりと滑り始めた。
アホみたいに雪団子がつく |
前明神沢上部 |
エクストリーム尻ライダー |
エアをバッチリ決めて止まる。 |
二人してアホみたいにはしゃいで下っていくと、南西稜から下りてきた4人組に遭遇。自分たちよりも1日前に明神に入ったパーティーでひょうたん池で1泊、さらに1・2のコルで1泊したそうだ。なんか疲労困憊という感じで、受け答えも虚ろだった。テンションが高い我々にイラついていたのかもしれない・・・。
途中の左岸に素晴らしい氷瀑が・・・ |
誰か登ってるんだろうか。。 |
岳沢登山口まで来ると、遊歩道を観光客がいっぱい歩いていた。上高地へ下山する時はいつもうるさく思っていた観光客だが、会心の山行を終えた今の自分には、観光客にまぎれて木道をハイキングするのさえ楽しく感じられた。そういえば、上高地に来る時はいつも一直線に山に向かい、一直線に下山しているから、こうやって周辺を散策するのは初めてかもしれない。ま、男二人で歩いていてもさして盛り上がりはしないけども。
河童橋にももちろんたくさんの人だかり。河童橋からもう一度明神岳を見上げてみた。急降下してきたため、つい数時間前まであの尖った先にいたとはにわかに信じられない。テトラオドンさんはもうすぐ第1子誕生だが、上高地に家族旅行でもした時には、「パパ、あそこ登ったんだぞ」って、自慢できるだろう。「きもーい」とか言われなければいいが・・・。
ただ、明神に一瞥くれた後は、すぐにコブ尾根や奥穂南稜に目が移っていた。もはや病気だ・・・。
大きなザックを背負った山ヤは、皆、人ごみを避けるようにバス停の方にそそくさと歩いていくが、すっかり緩みきった我々は、河童橋近くのパラソルの下で、ジェラートを食っていた。河童橋の下で一人でソフトクリームを食べているカワイイ女子を見つけ、ナンパでもしようかと思ったが、どうせ、汗くちゃーい、とか言われるのがオチなのでやめる。
下山後は、上高地ホテルの温泉に入る。「日帰り入浴」の看板を出していないこともあってか、今まで一度も来たことはなかったが、アメニティーも充実していて、何よりとても空いている。湯加減もちょうど良い。これから穂高帰りの定番になりそうだ。
明日も休みだし、ということで、夕飯食べに松本市内まで車を走らせる。そして、行列のできる洋食屋「盛よし」で今日のオススメA、「カニクリームコロッケとハンバーグ定食」を食らう。行列に並んだかいもあって、量も味も大満足だった。オススメ。
帰りは、小仏渋滞30キロ。これにはマイッた。ま、自分助手席でうつらうつらしてただけだけども。。
ということで、とにかく最高の山行だった。憧れの山に行けたという感動もあったが、ルートの内容が素晴らしかったし、テント場も最高だったし、天気も最高だった。上高地というと、涸沢からの長い下山が大抵セットでついてくるが、明神の場合は、行きは明神館までだし、帰りも岳沢から河童橋まではすぐだ。アプローチは申し分ない。
ということで、懲りずに毎週末雪山に通い続けた山バカの自分だが、「しばらくは雪山はいいな」、なんてことを思った。つーか、どっちにしろ今回のが今シーズン最後の雪山なんだけどね。
今シーズンは、鋸や白馬主稜など完全な敗退もあったが、八ヶ岳のバリなどたくさんの成果があり、素晴らしい山行も多かった。付き合って頂いた方には感謝したい。
そして、終わりよければすべてよし、だ。
(組長)