Member : 組長、あーさ
Timeline :11日:鈴鹿スカイライン冬季ゲート0841~0915日向小屋~0957藤内小屋1011~1030藤内壁入口~藤内沢~11433ルンゼ取付き~1225稜線~1350藤内小屋
12日:藤内小屋~0815αルンゼ取付き~08562P目~09283P目~1008前尾根稜線~1058御在所岳頂上~裏道登山道~藤内小屋~冬季ゲート
Author :組長
山旅・・・
日本の公害の歴史をたどる山旅第2弾として(後付け)、四日市市の御在所岳へ。
・・・の前に、いっぺんに三重県まで運転するのはしんどいんで、途中、豊田でボルダー。・・・の前に岡崎SAで最近の定番のパンのトラで美味しいパン補給。カレーパンとクリームパンうまい。
豊田は相変わらず、ついでにしてはあまりにもビッグすぎるエリアだ。たまには、2日間くらいでじっくり登ってみたい。まあ実際、ここの粗い岩質では2日が限度?!1日だけで熱い湯呑が持てなくなり、トイレでは気づかぬうちにトイレットペーパーが指にくっついてくる。
豊田は毎年課題がどんどん追加され、まだまだ発見されていない岩もあるんだからすごい。近くに住みたい・・・。
雨が降ってきたところで、四日市市に移動し、なんとも地方都市らしい??夜の四日市の街を散策しながら、B級グルメの四日市トンテキを食す。
人気課題のハーフドーム岩の「パーマン」。右から左にリップをトラバる |
正面をいきなりリップにデッドする課題もある |
こちらも人気課題の「うなぎの寝床」。左から右にトラバる |
最近どっかぶりをやっていないので、体幹がついていかない |
B級グルメの四日市トンテキ。まあ、うまいっちゃあうまいが、まあ B級かなぁ |
御在所の入口は市内から車ですぐだ。山々にはどんよりとした雲が広がっていた。鈴鹿スカイラインに入り、しばらく行くと突如として現れる車列。シーズンではあるが、思ったよりも車が多い。ただ、あとから分かったが、多くが日帰りのハイカーのようだ。
僕らの前をゆく老夫婦は、てくてくと途中の日向小屋の方に向かっていったが、どうやら小屋の主人のようだった。日向小屋もアットホームで素晴らしい小屋だそう。
冬季ゲート前から歩き出す |
藤内小屋は、2008年の大雨に伴う土石流で壊滅的な被害にあったあと、地元のボランティアの尽力で2011年に復活した三重の岳人の拠り所である。藤内小屋の再建に先立って2009年にモンベルがログハウスを寄贈し、モンベルハウスとして親しまれている。
今夜の宿はこの藤内小屋。なんたって素泊まり3000円だし、初めて来た土地だから、まずは小屋の人と話したりするのも楽しみだし、大事なことだ。ローカルの山は、それを守り大切にしているその土地の人にしっかり挨拶をしてから登りたい。
迎えてくれた小屋の主人は、とても親身に暖かく歓迎して下さり、まあ暖かいコーヒーでも飲んでよ、山はいっぱいあるのにわざわざ東京からこんなとこまでよく来るねぇと、おらが山を謙遜してそう言った。
モンベルハウス |
藤内小屋 |
前方には、クライマー心をくすぐる美しい前尾根を仰ぎ、藤内壁に目を向ければ、綺麗な花崗岩のルンゼに魅惑のブルーアイス。
看板ルートの1ルンゼだ。
ここに来て、これを見て、これを登りたいと思わなかったらクライマーとしてどうかと思う。
しかし今回は、初めてのエリアだったし、自分の実力的に思いつきで登れるような容易なルートではないので、予定通りまずは藤内沢を知る意味で藤内沢から3ルンゼへ。
山全体のイメージとしては、瑞牆を少し小さくしたところに雪氷が付いた感じ。風景を切り取ってみれば、海外の僻地のビッグウォールを思わせなくもない素晴らしい景観だ(と感じるのは自分だけの可能性もある)。
岩でも来たい |
藤内沢入口 |
1ルンゼ中又。右の滑り台が有名な「カリフォルニアドリーミング6P12a」。 |
沢床に戻るとしばらくは湿雪の急登を息を切らして登っていくことになる。前日の雨で周囲の岩はビシャビシャだ。ふと見上げた美しいフェイスには、古いボルトラダーが天まで伸びていた。アルパインのゲレンデとしての御在所の歴史を感じる。
途中、前尾根につき上げる沢筋から下降してきたクライマーから、藤内小屋は素晴らしいよ!楽しんで!と声をかけてもらう。みんなに愛されているんだなぁ。
藤内沢 |
急登 |
急登 |
そのおかげか、人気の3ルンゼには3連休だというのに誰もいない。後から来たソロのおっちゃんが先に登っていった。クライミング的には簡単そうなのと、風雪が強くビレイがきつそうだったので(こういう考え方はやめましょう)、それぞれ弱点をついてフリーソロ。最後は、本筋とは少しそれたようだったが、まあどこを登っても大差はないだろう。雪と氷とヤブを進む登攀は実にアルパインっぽくてテンションが上がった。
3ルンゼ取付き。発達はいい感じだが、さみー |
風雪強く顔が痛いー |
いきなり観光地 |
寒さで震えていた小屋のワンコ |
無理すんなぁー、と、小屋のオヤジ。
後から知ったが、いろんなところでよく会う神奈川の山岳会のパーティーだった。
別でいた関西のパーティーは、八ヶ岳が近くにあるのにわざわざ良くここまで来るねぇと言っていたが、さすがに何度も行っていると飽きるんです。
小屋のオヤジと3年前にこの藤内小屋と藤内壁で開催されたウィンタークライマーズミーティングの話になった。
ホストを務めた今井さんに昔クライミングを教わったんですよと話すと、「あんた、あの仲間かぁ、なんでわざわざあんな危ないことすんのかねぇ、こたつ入ってみかん食っている方がいいよ」といかにも庶民感覚に溢れたほのぼのとした雰囲気で話した。
「あのときのメンバーはもう3人も死んでしまったなぁ」。
今井さん、谷口さん、あと一人は存じ上げないが、アルパインクライミングを志す以上、「死」は常に付きまとう。
「危ないことはしたらあかんよ」とオヤジは言っていた。「そうですよね」。
その通りだ。当たり前だけど、そう思う。でもなぜ行くんだろう。
でもその答えはたぶんオヤジも僕も知っている。
時間はいくらでもあったのと布団を敷いたらすっかり根が張ってしまい、ぬくぬくと熟睡。時間を気にせず寝るってのは幸せだ。
どのくらい寝てただろうか、下の談話室から流れてくる尾崎紀世彦の「また会う日まで」の歌声で目が覚める。談話室ではボランティアの「松山千春」がギター片手にみんなと一緒に懐メロを合唱していた。どうもそういう場の雰囲気に尻込んでしまう僕は、小屋の廊下を抜けて四日市の夜景を一人見ていた。
小屋から流れる出るメロディーは、いつしかキャンディーズの「春一番」に変わっていた。
四日市の夜景 |
歌声と笑い声の漏れる藤内小屋 |
昨日下った裏道登山道を再び登り返し、偵察してあった取付きからαルンゼにあがるガレ場を登る。今日も比較的風が強い。
取り付きにたどり着くと、小屋にいた神奈川パーティーが準備していた。
1P目は、緩傾斜の草付きの間の氷を辿って、左岸の潅木まで25m。
2P目は、どこからでも登れるが、中央のボルダーの右側にロープを伸ばしていき、再び左岸の潅木まで30m。気温はそれほど低くないはずだが、風があるのでかなり寒く感じる。氷は非常に刺さりがよく快適。下を見下ろせば、ハイカーがこちらに向けてフラッシュを焚いていた。相部屋だった大阪のハリモトさんだろうか。
ハリモトさんに神奈川から来たというと、「丹沢とか行くんですか?この前、丹沢で5泊したんですよー」
わざわざ大阪から東京まで出てきて丹沢で5泊って、僕らが週末三重まで来るのよりよっぽどマニアックだ。てか、丹沢で5泊もするとこあんなのかなぁ。
αルンゼ遠景 |
2P目。思ったよりも易しい。 |
刺さりが良い |
終了点からは一投足で前尾根の稜線に着く。そこから少し主稜線に行くともう登山道だ。
3P目。出だしが少し傾斜がある。 |
微妙な傾斜とでっぱりで少し登りづらい |
最後は林間のナメ |
最後までアンカーは潅木を使える |
前尾根稜線までの詰めは少し急な岩場 |
ちなみに3ルンゼは、最近はロープウェイで頂上まで行ってから下降して取り付くパーティーが多いようだ。「ヨーロッパスタイル」というらしいが、なんだかなぁとは思う。
御在所の頂上付近は、小さなスキー場になっていて、チビッコ用のソリの広場もあり、大変な賑わいだった。安全な斜面をキャーキャー楽しそうに滑り降りるチビッコ。少し反対側の斜面を降りれば、危険な氷の山肌をステンレスの筒をねじ込みながら危険な遊びを楽しむ大人たち。どちらが子供っぽいかよくわからない。
日本のどこら辺にいるかがよくわかる |
立派な頂上 |
裏道登山道からは、αルンゼのとなりの前壁ルンゼのベルグラがよく見えた。これのリードはやばそうだなと思っていたら登っているファンキーな人たちがいた。トップロープにしてあったが、リードしたとしたら凄い。稜線から下降しても行けるようだ。
中央のベルグラ。よく見ると・・・ |
クライマー。しばらく見ていたが、なかなか手足が決まらないようだった。一発でピックが丸まりそう。 |
カッコイイ。
美しい花崗岩に張り付くブルーアイス。山の提示した自然な登路にロープを伸ばしていくクライマー。
これが理由だ。
1ルンゼ中又遠景 |
最後の氷柱はなかなか繋がらないと言われるバリエーションの「ランスールⅤ+」だろうか。手ごわそうだ。 |
そう言って迎えてくれた小屋のオヤジ。
また来てね。また来ます。
アットホームといえばそうかもしれない。でも八ヶ岳とかアルプスとかそういう山域のリゾート化された山小屋を見ることが多いから、本当に山小屋っぽいと言えるのは、こういう感じなのかもしれない。
一方で、八ヶ岳の冬のビッグエリアぶりを改めて再認識した。
シーズンも長いし、シーズン中は氷結状態を心配する必要性も低い。駐車場もでかいし、小屋ではオヤジ特製の具たくさん味噌汁は出ないが、ステーキでもしゃぶしゃぶでもなんでも出る。
まあ、どっちもいいとこあるということだ。
オヤジは平日は街で普通に働いているそうだ。週末、登山者がみんな帰ったのを見送ってから、家に戻る。
僕らが帰る頃には、小屋にいたボランティアの人もワンコを連れて帰っていった。
オヤジに聞いた温泉で汗を流し、再び岡崎のパンのトラで焼きたて食パンを並んで買って、東京に帰った。
山は旅。
人、食べもの、景色、歴史。まとめてひっくるめて山。