錫杖岳前衛フェース左方カンテ

2018-06-14

01_無雪期 08_アルパインクライミング l_北アルプス

Date : 2018/6/14
Member :組長、あーさ
Timeline :中尾高原口0710~0915左方カンテ取付0950~1155大テラス~1355終了点~大テラス~北沢側フランケ下降~1555注文の多い料理店取付き~中尾高原口
Author :組長

錫杖、貸切!



 ここも何度計画したことか・・・。行こうとしては雨が降り、時には雪が積もり・・・。
ようやく行けたと思ったら、アホみたいに空は青く、眺望抜群で、そして貸切!というギャップ萌え(使い方があっているかどうかはわかりません)。

早朝。
奥飛騨の山懐は、まだまだ肌寒い。
先週までいた南国石垣島との気候のギャップが激しい。
静かな平日の温泉街を抜け、中尾高原口に駐車し、蒲田川を越えて、登山道に入る。登山口で登山届が提出できる。
少し湿っぽい登山道をクリヤ谷に向かって歩いてく。顔に引っかかる蜘蛛の巣が今日の入山者がいない事を告げる。
クリヤ谷の渡渉は、平水なので少し岩を動かして飛び石で越える。陽も出てくると、次第に汗が噴き出してきた。
クリヤ谷左岸をしばらく進むと、左手に目指す錫杖の前衛フェースが見えてくる。「ビルディング状の大岩壁」というなんとなく昭和風に形容されるその壁は、たしかに緑の中に突如として垂直にせり上がっていて、ビルディングっぽいというか、漫画で出てくれば背景に「ど~ん!」とか「で~ん!」とか「ぱこーん」とかいう文字が出てくるような見事な壁である(ぱこーんはないか)。

登山道から錫杖沢方向に伸びる明瞭な踏み跡を辿って沢に降りていくと、クリヤ谷の左岸にテン場適地と焚き火跡。そんなに広くなく張れても2張りくらいだろか。

再び難なくクリヤ谷を渡渉し、錫杖沢の左岸の踏み跡を辿る。次第に踏み跡は沢を離れ、樹林なの中の急登をぐんぐん登ってく。ワンデイクライミングのヤワな気分で行くと、このハイクアップがなかなかしんどい。最近、遠いアプローチといったら屋根岩5峰くらいだったので、長く感じた・・・。といっても、スタートから2時間で左方カンテ取り付きに着く。
6月も中旬になると、さすがにこの高度ではだいぶ暑い。その上、虫も多くなってきており、初夏のシーズンはそろそろ終わりかもしれない。

見上げる壁は、いかにも硬そうで快適そうだ。そして誰もいない!
のんびり荷物を詰め替えて、いざGo Up!!

1P目(Ⅲ、RCCグレードは最近ますますよくわからなくなってきたので、ひとまずガイドブックのグレードです)は、いかにも簡単そうなルンゼ。
体を伸ばしてほぐしながら、岩の間を登ってく。終了点間際の側壁に「黄道光5.11c」の1p目の11aのボルトが見えた。チョークもついていてトライされているようだった。最初の11aはともかく上部は11台のクラックが連続する中級者向きのルートだが、広大な北沢フェイスに走る見事なサンシャインクラックをオールフリーで辿るルートは、今後の目標とするに相応しい素晴らしいラインだ。

高度を上げるにつれ、背後には西穂の稜線と焼岳のどっしりとした山容が望め、いやいや素晴らしいところでクライミングしてるなと思っているうちに、しっかりとしたボルトの打ってあるアンカーに到着。気づけば、プロテクションとってへんかった。ま、気にならない。
1P目のルンゼ。45mくらい
 のんびり写真を撮りながら、2P目(Ⅳ)。
少し傾斜が増してくるルンゼを引き続き登る。ところどころにカムを決めながら硬い快適な岩を伸び伸びと攀じる。
終了点はルンゼの終わり、開放的なピナクルテラスだ。左方カンテといっても、カンテっぽいピッチは少なく、カンテを絡めて、フェースや内面登攀も多いルートでなかなか飽きさせない。
2P目のルンゼ。日差しが強くて首筋がジリジリする。

焼岳。もうちょっと上がったら霞沢岳が見えた。

西穂と奥穂
 ピナクルテラスからの3P目(Ⅴ)。
事前に少し調べた感じでは、以前このピッチはボルトが連打されていて、容易に人工で越えられたようだが、歴史の教科書にも載っている(ウソ)、いわゆる「錫杖ルネッサンス」によって不要なボルトは全てクリーニングされ、オールフリー、オールNPの素晴らしいルートになった。
そういえば、1~2P目も終了点以外は何もなかったなぁ。いやあったかもしれないが、探してない。

右手に見える美しい白壁カンテを見ていると、その開拓に情熱を燃やしLa Campanella 5.13bRという、日本に珍しいアルパイン領域での高難度フリーを拓いた今井さんの顔が浮かんだ。自分とは天と地ほど差のあるクライマーだが、純粋にクライミングと山が好きでたまらない、その素晴らしい体験を他の人にも味わってもらいたいという今井さんの人懐っこい目と人柄が思い出された。

錫杖で沸き起こったこのようなムーブメントについては、賛否両論あったようだが、個人的には大いに賛成である。初級者でも登れた貴重なルートだったのに、と書いている人もいたが、最初からA0前提で登って、本当に登ったといえるのかどうかは疑問。僕らは、岩を、山を登りに来ているのだから。

とはいっても、僕も初級者なので、プロテクションに不安があるⅤのラインを目の前にすると、かなり慎重になった。
さっそくピナクルに這い上がり、核心といわれる小垂壁まで進む。左のクラックを進む新しいラインもあるようで場合によってはそちらに行こうと思っていたが、手前に青と黄色のメトリウスがバチ効きで、その上、どう見てもガバが届くところにあり、スタンスもしっかりある。いや、あれはガバと見せかけて実はスローパー的なオチが待っているのかと思ってかなりスタティックに取りに行ったが、残念ながらアホみたいにガバであった。
3P目。下に伸びているのが錫杖沢。

簡単だが、高度感は抜群でとても気持ちがいい。
 4P目(Ⅳ+)。
少しの歩きの後、チムニー。さすがに梅雨時だからか、チムニー内は濡れているが、ホールドが比較的大きく、あまり気にならない。フォローするときにザックが邪魔になりそうだったので股下に吊るす準備をしていたが、それほど狭くなかったので背負ったままで上がれる。
右側がサンシャインクラック11cのある北沢フェース。さらに右には北沢デラックス5.12cのボルトも見えた。

挟まってます

CSをのっこして終了

下から見るとこんな感じ。右壁はびしょびしょ

となりのヘアラインクラックにはラープ連打のアメリカンエイドルート。好きもんだなぁ~。
続いて5P目(Ⅳ+)。
ここもかつてはボルトがいっぱいあったようだ。右側の凹角クラックか左側のフェースか。フェースにもしっかりとカムが決められる場所が見えたので、快適そうなフェースへ。確かに最初の5mくらいはノープロとなるが、ホールドが豊富で全く気にならない。そのあとは、カムを入れながら快適にレッジまで攀じる。最後は階段状のフェースを上がって、大テラスまで。
これでランナウトといったら、小川山あたりのルートクライマーに笑われる。

上の方はいくらでもプロテクションを取れる


大テラス。テント張れる。
大テラスからの6P目(Ⅴ+)。
ツルベの順番的にこの美味しいピッチはあーさが出撃。最初のCSまでは、純粋にフェースだけで登ろうとすると結構難しい。10aくらいだろうか。その上、ちっこいからか、あーさはCS手前のホールドに届かない・・・。
フォロー時は、少しデット気味にCSを取りに行ったらすんなり上がれた。CSは抜けない前提で・・・笑。
そのあとは、チムニー登りから左のダブルクラックの走るフェースに移り、左のカンテを跨いで、最後は少し傾斜のあるフェイスをカンテを使いながら登る。とても楽しいピッチだった。
6P目の最初のCSを上がったところ。

CS後はチムニー登り

次第に左のフェースに移る





カンテに出る
 左方カンテルートは全8Pだが、ここで終了とするパーティーも多いようだ。ガイドさんなんかもここまでで終了としている人もいる。理由は、残りの2Pが内容に乏しいということと、これまでと違って岩が脆く、過去にもフレークが剥がれて事故が起きていることがあるようだ。
確かに見た目にも魅力的に映らないが、ここで帰ったらあとで後悔することは目に見えていたし、トップからは景色もいいらしいので、当然登る。
7P目(Ⅳ+)は、スラビーなフェイスから、潅木の間の簡単な岩場を抜ける。最初のフェースは、たたくとポコポコと嫌な音のする薄いフレークを使ったクライミングとなり、ある意味、「本ちゃん」的な楽しさ?はある。

8P目(Ⅲ)は、ほぼ歩きで最後は前衛フェース頂上直下の肩の広場に出る。
とても居心地のいい場所で、振り返れば、乗鞍~槍穂稜線が一望できる大パノラマが広がる。少し汗ばんだカラダに心地よいそよ風を感じながら、少しだけ槍の穂先にかかった雲が取れるのを飽きずに待った。
とても気持ちがいい楽しいクライミングだった。
7P目の出だしは少しだけ細かい。

握り倒すと剥がれそうなフレーク。プロテクションは一応取れる。


終了点の広場からの槍穂稜線

焼岳~乗鞍
大テラスまでは同ルート下降。ロープ抜くときにチムニー内に入るとほぼ100%スタックする・・・。

下降は、大テラスまで同ルートを下降し、大テラスからは北沢側のフランケを「注文の多い料理店」を見ながら2Pのラッペル。6P目のCSのいかにもロープが引っかかりそうなところに、当然のように笑ロープがひっかかり、少しだけボルダリングすることになったが、そのあとの北沢側のフランケは傾斜が強く快適に降りられた。次に狙っている「注文の多い料理店」だが、長いこと5番サイズのクラックが続いていて、知り合いは一つしか持っていない5番をずっとずらしながら登ったそうだ。足元のロープがひらひらと空中を舞っていて、なかなか痺れたといっていたが、そんな恐ろしいことしたくない・・・。
いずれにしても、北沢側のフランケは、ブッシュの少ないすっきりとした大きな素晴らしい壁だ。
大テラスからのラッペル

中央のフェイスから最後は逆階段状の広めの凹角クラックをたどるのが「注文の多い料理店5.9」
素晴らしいクライミングを終え、北沢から左方カンテ取り付きにデポしていた荷物を回収して、下山した。持ってきた水が少し少なすぎて脱水気味になったので、登山口にある槍見館で超久しぶりのラムネを飲む。平日だというのに、槍見館にはそこそこ宿泊客がいて、入った途端に非常に趣がある座敷があり、綺麗で上品な空間が広がっていた。少し高いのだと思うが、このままのんびりここに泊まれたらどんなに贅沢かと思った。

ようやく登れた錫杖だったが、これまでのアルパインクライミングの中でもとても楽しいルートのひとつとなった。ガイドブックのグレードだけ見ると、滝谷ドーム中央稜なんかよりは難しいんだけれど、なんかこっちのほうが簡単に感じた。5.12とかが登れるようになって、フリーの能力が上がったからなのか。まあよくわからんが、左方カンテのような初級者ルートであっても当然フリーの下地やプロテクションスキルが必要不可欠なのは間違いない。
まあ、下地というか、僕はアルパインでのクライミングこそ至上、冬壁こそ至上、みたいな原理主義者ではないので、実際にはその「下地」の遊びのほうが実際は楽しかったりする。
まあ単に滝谷がびしょびしょで条件が悪かっただけの気もするが・・・。

なにはともあれ、岩は硬く、どのピッチも残置がなくてもPDがつくわけでもRがつくわけでもなく無理なくプロテクションが取れ、槍穂稜線を背後にしたロケーションは大変素晴らしく、しかも貸切。
最高であった。

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