Member : マリ、ヤマ、バード、ワタ
Timeline :
1日目 5:50朝日岳登山口駐車場~8:00魚止滝の上の河原(入渓)~9:00ウナギ淵~9:46十字峡~11:20七ツ小屋沢出合~15:23二俣
2日目 6:00二俣~8:40朝日岳~11:20白毛門~13:52朝日岳登山口駐車場
Author :ワタ
湯檜曽川本谷の名所・ウナギ淵 |
沢登りは初めのころに苦い経験をして、しばらく疎遠になっていたのだ。水量のある小滝を自分だけ登ることができず、そこで何度も弾き飛ばされた。見る見るうちに身体が冷え、力が出せなくなり、圧倒的な自然の力に恐怖を覚えた。それから何年か沢登りに行っていなかった。怖さも引き受けたうえで沢を続ける覚悟と、情熱が足りていなかったのだ。
やがて、また沢をやってみたいという気持ちがふつふつと育ち、「頂山の会」に入会した。沢を愛する人に恵まれて、再び始めることができた。
入渓点までの長い道のり。右手には湯檜曽川 |
恒例となりつつある、アートを意識した謎のポーズ |
前日に雨が降ったため、撤退も覚悟でやってきていた。判断する際の想定パターンをいくつか用意してきていて、少し神経質になって入渓点まで向かっていたが、今のところ大丈夫そうだ。
やがて、とろけるような水面が伸びる廊下に出会う。ウナギ淵である。過去の記録で見ていたものより水量が多い模様。でも、ゆったりとした流れを見て、行けなくはないと感じた。
左岸から巻けるが、ここはせっかくだから泳いでみよう!と思い切って水の中に入ってみる。が、出だしから「あ、なにこれ、深っ、こわっ、」と、うまく進めず、漂うだけのバード、ヤマ、ワタ。それを横目にマリがせっせと巻いている。そう、マリは巻いている。彼女はこの日微かな声しか出せないほどの風邪気味だった。奮起してやってきたが、泳ぐのは御免なのである。へっぽこ泳ぎ隊もすぐに左岸に上がる。まあ、一応泳いだってことで。
沢の泳ぎは我らのこれからの課題です |
左岸から右岸と歩きやすそうな側を行ったり来たり。穏やかな流れは次第に激しくなり、うなるような轟音が岩壁に反射して、耳の中で震えた。ぐっと、流れに負けないように渡渉する。少し鳥肌がたった。あの、小滝に何度も弾き飛ばされたときの記憶が蘇る。沢では、踏ん張りを効かせることが大事な場面がたくさん出てくる。いよいよ始まるのだ。
ウナギ淵は段々と激しい流れに変わる |
抱返り沢の大ナメ滝が登場! |
晴れてきました! |
見事に直角な角を曲がり、今度は抱返り沢の大ナメ滝が現れる。ここが十字峡だ。100mぐらいありそうなその滝を眺めていると、待っていましたと言わんばかりに雲が晴れ、強い陽が射し、滝が輝いた。岩の黒と水流の白のコントラストが際立った。その眩い光景を惜しむように進むと、今度はアナゴ淵に迎えられる。釜のある小滝がいくつか続き、攀じり、へつりしていく。
攀じりへつりのアナゴ淵 |
登れる気がしない20mの抱き返り滝 |
ふう、ひと仕事終えた気分。滝の上は、穏やかなナメ滝が続いていて、癒しの沢へと姿を変える。本当に、あんたはよくできた沢だよ。
七つ小屋沢との出合いから本流へ。しばらく行くと、広い釜を持つ、10mの滝が現れる。その姿はひねらず、まっすぐで、妙に爽快感がある。どうでもいい話なのだが、このあたりから頭の中でTUBEの「あー夏休み」が流れだした。組長が以前、湯檜曽川本谷を遡行した際に、アリシア・キーズの「No One」が流れていたとブログに書いてあった。組長、私の場合は90年代ポップスでありました。
さて、ここをどう登るか作戦会議が始まる。右壁はなかなか手強いらしい。右側から取り付いて滝の裏側に入るようにして水流をトラバースして、左壁に移って登る方が簡単だと言われている。これは気温や水量によっては厳しいが今日は行けそう。ここはまず、バードに行ってもらうことに。「フリーで登ってみて、厳しいと判断したら上からロープ出しますね」と言って、滝に入っていき、お辞儀スタイルでトラバースしていく……。
水流を抜け、青空に迎え入れられて左壁を登るときの清々しさたるや! 登り上げると、みんなついほころんでしまう。風邪気味のマリもずぶ濡れだけど、足取りはしっかりしていた。強いなあと思った。
赤茶色の2段12m。こちらが下段 |
赤茶色の2段12m。こちらが上段 |
かっこいい2段40mの大滝。しかし、、 |
本日のハイライトとなる2段40mの大滝は私が先に行かせてもらう。しかし、下段を抜け、上段に移ると、薄被りしたぬめりのある気持ちの悪い方向へ進んでしまった。こうなると登ることも降りることもままならなくなり、私はここでセミとなった。
もっと左側をトラバースしたほうがいいのでは?という意見があり、そこに一番近かったマリが立ち木までリードした。私ったら決まらないなぁ、と心の中でぶつぶつつぶやきながら、フォローで続き、草付きをトラバースした。
もっと左側をトラバースしたほうがいいのでは?という意見があり、そこに一番近かったマリが立ち木までリードした。私ったら決まらないなぁ、と心の中でぶつぶつつぶやきながら、フォローで続き、草付きをトラバースした。
2段40mの大滝を巻いて登り上げる。高度感がすごい!
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今夜の寝床 |
カオマンガイ |
コッヘルも空っぽになって、お酒もそれなりに進んでいるはずなのだが、なんだか今晩はちょっと違う。いつもとは違うマリのか細い声に、3人の酒飲みは戸惑っていたのかもしれない。大人しいのだ。湿った木を乾かしながらの焚き火も力なく、そんな火に小さく寄り添って過ごす。こちらもつられてひそひそ声になる。焚き火の弾ける音と緩やかな沢の音だけが響く。森の大きな闇に包まれながら時は流れる。
小雨が降り始めても、なぜかみんな粘って火を囲もうとした。乾いた落ち葉や枝を探しては焚き火に放りこんだ。見上げると、おぼろな月が山の端から顔を覗かせていた。ぼやけた夜。ここまで来れたという安堵の気持ちと嬉しさを密かに噛み締めて、眠りについた。
2日目、スタート |
こんにちは |
いざ、笹薮漕ぎの世界へ |
もう少しで稜線! |
言葉は何もいらない |
朝日岳山頂にて |
ぐっと集中して大きな滝を越えるたびに、美しい光景を目の当たりにして心動くたびに、なぜか自分が新しく生まれるような気がした。新鮮だったからなのか。越えていかないと見られない世界が続いている。だから沢にまた焦がれる。そして、今生れ落ちる、というときに必ず見守ってくれている仲間がいることの素晴らしさ。自分も見守れる存在でありたい。
初めての沢、チャレンジの沢を共にできたメンバーにありがとう。そして、昔、自分を沢登りに連れ出してくれた先輩方に沢を楽しんでいますと報告したい。
笠ヶ岳への激烈な登り。しかし心は軽い |