湯檜曽川本谷

2019-08-24

01_無雪期 06_沢登り d_上信越

Date : 2019/8/24-25
Member : マリ、ヤマ、バード、ワタ
Timeline :
1日目 550朝日岳登山口駐車場~800魚止滝の上の河原(入渓)~900ウナギ淵~946十字峡~1120七ツ小屋沢出合~1523二俣
2日目 600二俣~840朝日岳~1120白毛門~1352朝日岳登山口駐車場
Author :ワタ

湯檜曽川本谷の名所・ウナギ淵

沢登りは初めのころに苦い経験をして、しばらく疎遠になっていたのだ。水量のある小滝を自分だけ登ることができず、そこで何度も弾き飛ばされた。見る見るうちに身体が冷え、力が出せなくなり、圧倒的な自然の力に恐怖を覚えた。それから何年か沢登りに行っていなかった。怖さも引き受けたうえで沢を続ける覚悟と、情熱が足りていなかったのだ。

やがて、また沢をやってみたいという気持ちがふつふつと育ち、「頂山の会」に入会した。沢を愛する人に恵まれて、再び始めることができた。


入渓点までの長い道のり。右手には湯檜曽川
そして、今シーズンの沢の目標にしたのが湯檜曽川本谷。メンバー全員、訪れるのは初めて。ナメ、トロ、釜、滝など変化に富んだ銘渓で、「沢登りの楽しさが凝縮された沢」とよく言われている。ウナギ淵、十字峡、抱返り滝、ツチノコポットホール…など、面白い名前が随所に付けらており、なにやら楽しそうなのである。この夏は、みんないろんな沢で経験を積ませてもらい、酸いも甘いも知り、ついにここまでやってきたのだ。とにかく楽しんで遡行できたら御の字。あの頃の自分、見ていておくれ。


恒例となりつつある、アートを意識した謎のポーズ
入渓して、いくつか小滝を越えながら、ヤマは「なんかいいね。こういう沢好きかも」と言った。そう、この沢はずっと開放的で明るい。そしてスケールが大きい。こんなに終始開けた沢は初めてのような気がして、心が弾む。

前日に雨が降ったため、撤退も覚悟でやってきていた。判断する際の想定パターンをいくつか用意してきていて、少し神経質になって入渓点まで向かっていたが、今のところ大丈夫そうだ。

やがて、とろけるような水面が伸びる廊下に出会う。ウナギ淵である。過去の記録で見ていたものより水量が多い模様。でも、ゆったりとした流れを見て、行けなくはないと感じた。

左岸から巻けるが、ここはせっかくだから泳いでみよう!と思い切って水の中に入ってみる。が、出だしから「あ、なにこれ、深っ、こわっ、」と、うまく進めず、漂うだけのバード、ヤマ、ワタ。それを横目にマリがせっせと巻いている。そう、マリは巻いている。彼女はこの日微かな声しか出せないほどの風邪気味だった。奮起してやってきたが、泳ぐのは御免なのである。へっぽこ泳ぎ隊もすぐに左岸に上がる。まあ、一応泳いだってことで。

沢の泳ぎは我らのこれからの課題です

左岸から右岸と歩きやすそうな側を行ったり来たり。穏やかな流れは次第に激しくなり、うなるような轟音が岩壁に反射して、耳の中で震えた。ぐっと、流れに負けないように渡渉する。少し鳥肌がたった。あの、小滝に何度も弾き飛ばされたときの記憶が蘇る。沢では、踏ん張りを効かせることが大事な場面がたくさん出てくる。いよいよ始まるのだ。

ウナギ淵は段々と激しい流れに変わる

抱返り沢の大ナメ滝が登場!

晴れてきました!
見事に直角な角を曲がり、今度は抱返り沢の大ナメ滝が現れる。ここが十字峡だ。100mぐらいありそうなその滝を眺めていると、待っていましたと言わんばかりに雲が晴れ、強い陽が射し、滝が輝いた。岩の黒と水流の白のコントラストが際立った。その眩い光景を惜しむように進むと、今度はアナゴ淵に迎えられる。釜のある小滝がいくつか続き、攀じり、へつりしていく。

攀じりへつりのアナゴ淵
こんな風に、沢は次から次へとリズムよく変化していく。私たちはその自然の造形美のなかで、子どもになって思いっきり遊ばせてもらう。もう、やることいっぱい!全身運動!身体が喜ぶ!楽しい!


登れる気がしない20mの抱き返り滝
220mの抱き返り滝では、ひょんぐりを確認。この言葉を覚えたばかりなものだから、みんなで「こりゃ、ひょんぐりだ」「大きくひょんぐってるね」とやたらに使ってみる。滝の左側を登るようだが、水量が多く、とても登れる気がしなかった。左側のブッシュを掻き分け、巻いて滝の上を目指した。

ふう、ひと仕事終えた気分。滝の上は、穏やかなナメ滝が続いていて、癒しの沢へと姿を変える。本当に、あんたはよくできた沢だよ。


七つ小屋沢を左に分け、本流に進むと現れる甌穴。「ツチノコポットホール」
七つ小屋沢との出合いから本流へ。しばらく行くと、広い釜を持つ、10mの滝が現れる。その姿はひねらず、まっすぐで、妙に爽快感がある。どうでもいい話なのだが、このあたりから頭の中でTUBEの「あー夏休み」が流れだした。組長が以前、湯檜曽川本谷を遡行した際に、アリシア・キーズの「No One」が流れていたとブログに書いてあった。組長、私の場合は90年代ポップスでありました。
10mの滝。なんだか堂々とした佇まい

さて、ここをどう登るか作戦会議が始まる。右壁はなかなか手強いらしい。右側から取り付いて滝の裏側に入るようにして水流をトラバースして、左壁に移って登る方が簡単だと言われている。これは気温や水量によっては厳しいが今日は行けそう。ここはまず、バードに行ってもらうことに。「フリーで登ってみて、厳しいと判断したら上からロープ出しますね」と言って、滝に入っていき、お辞儀スタイルでトラバースしていく……。

こんな感じで、水流をトラバースして左壁に移る。GoGo!バード

滝の上まで登り上げたバード、少し腕組して悩んでから「来てOK!」の合図を出した。ここは1人ずつフリーで行くことに。最初は滝の勢いに圧倒されたけど、えいやと取り付く。滝に打たれながらトラバースしている自分。真剣な顔をしてなんだか可笑しなことしているのだ。

水流を抜け、青空に迎え入れられて左壁を登るときの清々しさたるや! 登り上げると、みんなついほころんでしまう。風邪気味のマリもずぶ濡れだけど、足取りはしっかりしていた。強いなあと思った。


赤茶色の2段12m。こちらが下段
その先の、赤茶色の212mの滝はなんだか記録ではさらりと書かれている気がするが、上段の右側を巻くところは一番クライミング的なところだったように思う。スタンスをしっかり見極める必要がある。しかもちょっと滑りそうなところがある。バードがフリーで行った後、ロープを出してくれた。ひとりひとり登るのをみんなで見守った。
赤茶色の2段12m。こちらが上段

かっこいい2段40mの大滝。しかし、、

本日のハイライトとなる240mの大滝は私が先に行かせてもらう。しかし、下段を抜け、上段に移ると、薄被りしたぬめりのある気持ちの悪い方向へ進んでしまった。こうなると登ることも降りることもままならなくなり、私はここでセミとなった。

もっと左側をトラバースしたほうがいいのでは?という意見があり、そこに一番近かったマリが立ち木までリードした。私ったら決まらないなぁ、と心の中でぶつぶつつぶやきながら、フォローで続き、草付きをトラバースした。


240mの大滝を巻いて登り上げる。高度感がすごい!
その先は、寝っ転がって休憩したりしながら、小滝やナメ歩きを心穏やかに楽しみ、本日の寝場所に到着したのである。

今夜の寝床

カオマンガイ
前日の雨もあり、薪になるような木はしめっしめ。落ち葉や小枝もかき集め、ようやく火を起こせた。火があって、水がある。沢ならば私は生米から炊きたい。はい、今晩のメニューは、カオマンガイです。

コッヘルも空っぽになって、お酒もそれなりに進んでいるはずなのだが、なんだか今晩はちょっと違う。いつもとは違うマリのか細い声に、3人の酒飲みは戸惑っていたのかもしれない。大人しいのだ。湿った木を乾かしながらの焚き火も力なく、そんな火に小さく寄り添って過ごす。こちらもつられてひそひそ声になる。焚き火の弾ける音と緩やかな沢の音だけが響く。森の大きな闇に包まれながら時は流れる。

小雨が降り始めても、なぜかみんな粘って火を囲もうとした。乾いた落ち葉や枝を探しては焚き火に放りこんだ。見上げると、おぼろな月が山の端から顔を覗かせていた。ぼやけた夜。ここまで来れたという安堵の気持ちと嬉しさを密かに噛み締めて、眠りについた。


2日目、スタート
翌朝は、やや霧がかった沢になっていて、曇り気味。この谷が厚い雲で蓋をされたようだ。その蓋の先にある稜線を目指して、小滝をフリーで上り下り繰り返しながら、徐々につめていく。明るい陽光が射さなくても、それはそれでよいのだ。フラットな光の中では、緑の中に咲く花の色が目立ってくる。足元や斜面に咲くクルマユリやシラネアオイやらを見つけて、ちょっと嬉しくなった。


こんにちは
沢も細くなり、ついに、笹の薮漕ぎに入る。藪の入り口で「藪漕ぎガール、トップをどうぞ」と、進めてくれる。そんな肩書き嬉しくないわい、と思いながらもまんざらでもない私。大人しく先頭を行かせてもらった。背丈以上ある笹にすっぽり覆われて、小さな虫になった気分で無心で掻き分ける。
いざ、笹薮漕ぎの世界へ

もう少しで稜線!
大きく息を吸った。いつの間にか霧を抜け、天国のような湿原に出た。草が青々と広がり、太陽が優しくなでて輝かせている。私たちはしばしここで立ち尽くし、登ってきた谷を眺めてから朝日岳の頂へとゆっくりと歩を進めた。

言葉は何もいらない
朝日岳山頂にて

朝日岳から、笠ヶ岳を経て白毛門へ。乾いた身体もまた汗だくになるであろう長い長い下山。でも、心は軽やかである。私は一番後ろを歩きながら、あの谷で遊ばせてもらったことを反芻する。

ぐっと集中して大きな滝を越えるたびに、美しい光景を目の当たりにして心動くたびに、なぜか自分が新しく生まれるような気がした。新鮮だったからなのか。越えていかないと見られない世界が続いている。だから沢にまた焦がれる。そして、今生れ落ちる、というときに必ず見守ってくれている仲間がいることの素晴らしさ。自分も見守れる存在でありたい。


初めての沢、チャレンジの沢を共にできたメンバーにありがとう。そして、昔、自分を沢登りに連れ出してくれた先輩方に沢を楽しんでいますと報告したい。



笠ヶ岳への激烈な登り。しかし心は軽い

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