Date : 2015/1/10-11
Member : A子、フジ、組長
Timeline :10日 戸台駐車場0749~1005角兵衛沢出合~1230大岩小屋下
11日 大岩小屋下0515~0651角兵衛のコル~0722第一高点~0741小ギャップ~1045第二高点~1114中ノ川乗越~1345熊ノ穴沢出合~1545戸台駐車場


甲斐駒北西尾根、鋸岳を縦走してきました。


 鋸は正直いい思い出がありません。二年前にも挑戦しましたが、アクシデントでまさかの角兵衛沢敗退・・・。長い戸台の河原を何もせずに往復して帰ってきたときは、もうここはいいや、っと思ったものです。
でも2年も経ってみると、不思議とまた行ってみたいという気持ちが強くなり、今年初の雪山のアルパインルートというテンションも相まって、ワクワクして臨みました。
しかし、今回は事前の天気予報があまりよくありません。寒気の流入こそ弱いものの強い冬型で山は荒れそうです。予報では、稜線の風速は両日ともに20mということでした。

事前に計画を中止にするかどうかの判断はとても難しいです。しかし、自分の中の一つのメルクマールとして、20という数字を基準にしています。それは風速20mであって、-20度です。
自分という生命体が、明らかに適応できなくなると感じるのが、ここからの領域です。赤岳主稜でそれを強く感じました。ですから、二つの20が揃ったときは問答無用で計画を変更するようにしています。
今回も風速予想が20mを超えており、かなりビビっていました。
迷いに迷った挙句、とりあえず行ってみよう、稜線に出てやばそうだったら、そのまま引き返すか、あわよくば第一高点だけ踏んで帰ろうということで、決まりました。



頑張って前夜発した甲斐もあって、高速スイスイで美和湖近くの道の駅に到着。車はある一定の間隔を保って、何台か停まっています。みんな山ヤです。テントも何張りか張ってあります。我々は、暖かい車内でぐっすり眠りました。星の綺麗な夜でした。

翌日。
戸台の河原まで車を走らせます。少し道は悪目です。早くもたくさんの登山者が準備を始めていました。多くは北沢峠から甲斐駒や仙丈を目指すのでしょう。厳冬期の3000mを経験するにはとてもよいルートだと思います。

南アルプスといえば、長いアプローチ。最初は雄大な戸台の景色にワクワクして歩いていきますが、堰堤を一つか二つ越えたあたりから早くも飽きてきます・・・。渡渉で少しミスりながらも、順調に角兵衛沢出合いに到着。随分と多くのパーティーがそこに集まっていて、この人たちみんな鋸??と思ったら、テント場確保のために早く行かなきゃという気持ちでさっさと渡渉して角兵衛沢に取り付きました。でも結局みんな北沢峠方面に向かったようでした。
甲斐駒は早くも風が強そうです。

角兵衛沢渡渉。はしごがありました。
角兵衛沢は単調な登りが続きます。 樹林帯が多く展望もあまりありません。上空では、風が不気味な音を立ててます。順調に歩を進めていくと、右手の樹林が切れた上に大岩壁が迫ってきました。大岩下の岩小屋です。垂直の脆い壁が遥か高く聳えています。
先行Pが見えました。上に2P、大岩下に1P。やはりこの時期、鋸のルートは多くの山ヤに選択されるようです。
翌日の行動を考えれば、角兵衛沢のコルまで上がっているのが理想的ですが、他のPが全てコルに上がっていったこと、コルは強風が予想されること、今晩は降雪がなさそうで朝方はよく雪もしまっているだろうから登りやすいはず、と思い、快適な岩小屋に泊まることとしました。
目の前には中央アルプスの景色、雪のブロックなしで風も防げるし、氷のオブジェが楽しめるしで、最高のテント場でした。

夜はもちろんA子氏の超うまいご飯でした。鳥団子鍋。お供は、大岩下のつららで作ったウイスキーオンザロック。完璧でしょ??
岩小屋

中央アルプス
天気予報は相変わらず芳しくありません。午後からは雪も降り荒れ模様の天気となるようです。風速も21m。
戦略としては、日の出前にコルまで上がり、本格的に天気が崩れる12時前までに中ノ川乗越まで到達して、熊ノ穴沢の樹林帯まで逃げる、しかありません。稜線に出た時点で行動不能の風が吹けば、おとなしく下山するつもりでした。

真っ暗の中、ヘッドランプをつけて、急な雪面を登り始めます。予想通り、雪は固くしまっていて、さらに昨日の先行Pのトレースで階段状になっているので、非常に歩きやすい。おかげさまで、かなりエネルギーを節約しつつ、コースタイムよりもだいぶ早い時間でコルに到達できました。コルに3P、コルより100メートル程下に1P。すでに稜線に取り付いているのが1P。
雲は多いものの、風は思ったよりも強くありません。気温も高めです。これは行ける、速攻で行けば、縦走できる、そう確信しました。
しかし、もたもたしていると懸垂ポイントで渋滞に巻き込まれる可能性があるし、悪天に捕まる可能性もあります。
テキパキと準備し、縦走を開始します。
角兵衛のコル
ちょうど、日の出となりました。
向かって左手の山梨県側が朱に染まります。雲は多めですが、それがかえって幻想的な雰囲気を醸しています。心が洗われるような、本当に綺麗な日の出でした。厳しい雪山でも、こういう瞬間があるからこそ、また来たくなるのかもしれません。
第一高点までは、傾斜はあるものの特に難しいところはありません。息を切らしてぐんぐん登っていくと、開放感のある第一高点に到着。周囲の高い山は、雲に覆われ、最高の展望とまでは言えませんが、まずは鋸のピークを踏めたことに満足しました。
それほどゆっくりすることもなく、縦走を再開します。
第一高点
目の前には、白くうねった険しい岩稜が続いています。素晴らしい景色ですが、これは手ごわそうだと思いました。
鋸主稜線。右の雲の中が仙丈、左が甲斐駒、真ん中が北沢峠。

第一高点を下る
第一高点を下ると前方に先行Pが見えました。小ギャップからの登り返しで苦戦しているようです。
小ギャップへの下降は、鎖もあります。後ろから追い上げてきた手馴れたおふたりは、鎖で降りて行きましたが、我々は予定通り鎖にロープをセットしてラッペルします。5メートルほどですが、ラッペるしたほうが楽だし、全荷登攀なので腕力だよりで鎖で降りるのは少しリスクがあると思います。
小ギャップへのラッペル
小ギャップからの登り返しは、太い鎖がついています。先行Pはロープを出して丁寧に登っていますが、我々は鎖をごぼうで先に行かせてもらいました。鎖はしっかりしているので全く問題ありませんが、ひどく冷たく手がしびれました。

登り返しの後、両端が切れた岩のリッジを恐る恐る超え、小さなギャップから小ピークに取り付きます。
しかし、これが間違いでした。一般的には、その小ピークは左から巻くようです。しかし、そこにはトレースはなく、足元の崩れそうな急なトラバースがあってひどく悪そうに見えたので、稜伝いに行くことにしました。取り付いては見たものの、岩がもろく、デリケートな動きが必要で、少し悪く感じました。阿弥陀北陵くらいのイメージですが、プロテクションがありません。
そうこうしているうちに、ルートを知っている後攻Pが小ピークの下をトラバースして先に進んで行きました。スムーズに進んでいたので、ルートを誤ったと気づきました。しかし、クライムダウンは危険だし、本来のルートに戻るにはラッペルするしかありませんが、長いロープは下で待っているフジ兄のザックの中。。。
仕方なく、A子さんだけ本来の容易なルートを進んでもらい、補助ロープでフィックスをセットし、フジ兄にアッセンダー登ってきてもらうことにしました。
そのまま反対側にロープをセットして、ラッペルに入ります。しかし、岩角に引っ掛けたロープが引き抜けなさそうだと感じ、捨て縄に変更しました。その間も常に強めの風にあたっていたのでかなり冷えました。
このミスで大きく時間をロスしました。すみませんでした。A子さんの的確なアドバイスと冷静な判断に救われました。フジ兄のまつげもバリバリに凍ってしまいました・・・すんません。

まあでも、言い訳にはなりますが、このくらいの小さなルーファミスはよくあることです。そのあとにどうやってリカバリーするか、安全に下降できる技術と知識と装備を用意できているか、それが大事だと思います。・・・という言い訳。

気を取り直して縦走を再開します。
第三高点を踏み、大ギャップへと降りていきます。すでに先行Pがラッペルを始めています。2本のロープで生きた太めの木からラッペルしています。そのもう少し下の方に枯れた潅木があり、スリングがいくつも巻かれていました。その枯れた潅木でラッペルすることが多いようですが、上部の生きた木で降りる方がベストでしょう。ただ、我々のように50一本の折り返しだと、もしかしたら下まで届かないかもしれません。軽量化との兼ね合いから、それぞれの判断があると思います。潅木は枯れてはいるものの割としっかりしていて、アルパインクライミングとしては全くの許容範囲だと感じました。すくなくとも錆びてしなるピトンでラッペルするよりはましです。

大ギャップへは、信州側から強い風が吹き抜けるので、単純にロープを投げるだけだとすぐに風に流されて岩角に引っかかってしまいます。また、垂直部もあり、ザックも重いことから、最初に降りる人は丁寧にロープを扱って降りる必要があります。そしてなによりデンジャラスなのは、降りた後です。降り口は浮石だらけなので、2番手、3番手が降りるときや別の木から他Pが降りてくるときは、落石地獄になります。自分が最初に降りたあとは、岩にへばりつく感じで待っていましたが、絶え間なく落石が降り注ぎ、かなり危険でした。フジ兄に落石が直撃しましたが、事なきを得ました。

逃げるように大ギャップを信州側に下降し、樹林帯と岩の境目を第二高点目指して登ります。上空の雲は3倍速の速さで通り過ぎて行きます。雲は次第に高度を下げ始め、甲斐駒や仙丈などは厚い雲の中に入っています。
しかし、ここまでくれば技術的な困難なところはすべて通過したので、落ち着いて休憩ができました。

第二高点へ
第二高点に到達しました。時折、雲の隙間からピラミダルな第一高点が臨めます。あとは、下降するだけです。どうやら本格的に天気が崩れる前に安全地帯に到達することができそうです。少し緊張が解けました。稜上を少し進んだあと、中の川乗越の看板のところから右手の沢を下降していきます。雪の状態が悪いと雪崩の危険が非常に高いところです。下から吹き上げる風と地吹雪で顔がかなり痛い・・・。
第二高点。後ろが第一高点。

中の川乗越への下降。強風で顔が痛い。
中ノ川乗越につきました。天気はやはり悪くなってきています。甲斐駒まで行くPが先に進んでいきます。あまり手馴れていない感じのパーティーだったので、午後の悪天の中、ビバーク予定の6合石室まで到達できるのか、少し心配になりました。

我々はここから戸台川に向かって、熊の穴沢を下降します。上部はガレガレでアイゼンだとかなり歩きづらいです。傾斜はそれほどないので怖くはありませんが、岩に乗ったりハマったりで消耗します。でも予想に反して、順調に縦走を成功することができた達成感でご機嫌で下って行きます。熊の穴沢についた時には、次第に吹雪いてきました。甲斐駒に向かったパーティーは本当に大丈夫だったのでしょうか。

北沢峠から降りてきたお二人に聞いたところ、今日は仙丈は天気が悪く、ガスで全く見通しが効かないので敗退したとのことでした。やはりすぐお隣であっても3000mを超えてくると、だいぶ天気は違ってくるようです。
熊の穴沢


3連休であるし、本当は甲斐駒まで行くのが理想的でしょう。鋸岳、という名前こそ付いていますが、そこは大きく見れば甲斐駒ケ岳の北西尾根、鋸リッジであって、甲斐駒を目指して縦走するのが山登りとしては本筋です。長い戸台の河原をトボトボ歩いて、角兵衛沢と熊ノ穴沢の間の僅かなリッジを縦走することに、ルートとしての美しさややりがいは、はっきり言って・・・という感じではあります。
しかし、懸垂下降を交えた変化に富んだ岩稜の縦走はそれだけで十分に魅力的なルートです。天気が良ければ、最高の展望が得られるし、周囲の険しくも美しい岩壁は迫力満点です。積雪期の岩稜縦走のステップアップという意味でもとても良い課題です。次に視野に入ってくるのは、北アの横尾尾根でしょうか、北鎌尾根でしょうか・・・。夢は膨らみます。
全体を通して、技術的に難しいところはありませんが、八ヶ岳の初級のアルパインルートなどよりは総合的に見て難しいと思います。

フジ兄も結構厳しかったようです。でも岩場でもしっかり安定して登れるし、しっかり一日中歩ける体力はやっぱりすごいです。冬のアルパインルートは今回が初めてだったようです。本格的雪山へようこそ。一緒に行きたいルートがいっぱいあります。よろしくお願いします。

A子さんも無事に帰ってこられたことが何より、と言っていました。そうは見えませんでしたが、精神的にも結構消耗したようです。でも僕は、彼女は本当にすごいと思います。いつでも冷静だし、判断が的確です。料理もそうですが、何事も雑にやりません。丁寧です。すごいなぁ本当に。僕にはできません。

個人的には、少しのミスはありましたが、全体的に見れば順調に進み、作戦通りに縦走に成功することができました。今回は、敗退が濃厚に思われていたので、景色の素晴らしさやルートの素晴らしさよりも、縦走を成功したことの達成感の方が強い山行となりました。また、いろいろと勉強になることも多かったです。

下山後のいつものソースカツどん青い塔は相変わらず激ウマだったし、渋滞の全くない中央道も快適でした。

フジ兄、A子さん、ありがとうございました。素晴らしい山行でした。

(組長)

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