Member : 組長、あーさ、かとー
Timeline :14日室堂~剱沢~真砂沢
15日真砂沢0330~0430二俣吊り橋~0725チンネ左稜線取り付き0810~T5テラス1215~1428チンネの頭~1545池ノ谷ガリー~1743三の窓「ノド」~二俣~2030真砂沢
16日真砂沢~剱沢~室堂
Author :組長
お腹いっぱい
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予想はしていた・・・
ピーカンが保証された海の日3連休は何年ぶりのことだろう。
前夜。扇沢の市営無料駐車場に着くと、早くも満車。夢の定時退社で、東京のサラリーマンの中では、トップ集団で着いたと思ったが甘かった。第2駐車場まで下るのはかったるいので、一番下の有料に駐車する。
2時間前なら余裕だと思っていた・・・。
この時期扇沢の始発は7時30分。少し頑張って6時に並ぼうかー、いや油断大敵!2時間前の5時30分だ!
降り注ぐ満点の星空の中、天の川の悠久の流れを見上げながら、僕らは明日は一番乗りだ!くらいの気持ちで眠りについたのだった。
しかし、すでに切符売り場前にてオープンビバークしている人がいたとは・・・。
2時間前の扇沢駅の切符売り場前には、すでに5,60人ほどが列をなしていた。
恐るべし海の日3連休。
先頭は、シュラフに入って転がっている。
始発の改札が始まる頃には、長蛇の列となり、扇沢のロータリーをぐるりと囲っていた。
それでもなんとか始発に乗り込み、財布的には核心の室堂までのアプローチ。黒部ダムの観光放水見物で先頭集団を離脱する観光客を追い抜いていくが、タッチの差でケーブルカーのところで2位集団に甘んじることとなった。
それにしても、こう毎年のように利用していると、日本屈指の観光スポットである立山黒部アルペンルートもただの長くてめんどい交通手段になり下がり、弁当売りの駅のおじさんの軽快な口上はマニュアル通りのルーチンに聞こえてくる(実際、何年も同じトークで観光客の笑いを取っているけどね・・・)。まあ、慣れというのは嫌なことだ。
晴れすぎていた。
いつかの沢にとっておいてよ、と言いたくなるほどに晴れまくっている。
遭難者を担いで室堂まで向かう富山県警に挨拶をし、雪の白と緑と青空とみくりが池のエメラルドグリーンに囲まれながら、初日の第一の核心となる剣御前までの登り。汗まみれになって越えた先に見えた岩と雪の殿堂は、毎年見ていても、思わずハッと息を呑むする威厳と美しさを放っていた。
毎年思う。この石畳歩きづらくね?? |
氷のせいかいつもより蒼い |
山に吸い込まれてしまうような圧倒的な空間 |
まだ雪の残る雷鳥沢キャンプ場 |
剣御前までの登山道も少しだけ雪道 |
剣御前から室堂 |
そして、この山 |
すると、本峰越え??
昨年の本峰越えアプローチでのアクシデント敗退が脳裏をよぎり、今年の計画にも黄信号が点ったのを感じてしまう。
他のアプローチはないものか。県警にお兄さんは、第3のアプローチである三の窓雪渓は、ヘリから見た限り、今年はまだノドの部分も上部も雪渓がつながっているみたいだったと言っており、その上、二股の吊り橋ももうかかっている、という。かなり思慮したが、少々時間がかかっても、より確実性の高い三の窓雪渓経由を決断する。
そうと決まれば、今日は後は下るだけ。3日目もハシゴ谷乗越経由で内蔵助平から黒部湖に出れば、登り返しは少ない。しまった!!室堂までの往復のチケット買っちまった、払い戻しってできるの??大金はたいて稼いだ高度、ほとんど下ってんじゃん・・・なんていう瑣末な心配をあーだこーだ言いつつも、初見の三の窓雪渓のアプローチに対する不安感も少なからずのしかかってきた。剱はいつも一筋縄ではいかん。
源次郎尾根と八峰。剣沢を下降する |
金で稼いだ高度をぐんぐん下げる |
シャーベット状でアイゼンあったほうが歩きやすい |
雪のルートはどれもまだ食べごろ |
長次郎谷出合から右俣上部をのぞむ。ここからでも大きな横クラックの影がはっきりと見える。 もう少しで熊の岩というあたりに3名のクライマーが登っていた。 |
さっそく小屋の旦那にルートの状態を聞くが、三の窓の情報は警備隊以上のものはなかったが、内蔵助平から黒部湖までの登山道は、雪渓がズタズタで丸東あたりの崩落もひどく通行禁止という恐ろしい情報を得ることになる。え?剱沢また登んなきゃあかんの??アプローチに加えデプローチにも核心が。。。
最後に、最近はここらもクマが多いから気をつけてくださいと熊みたいな小屋の旦那のアドバイスを受ける。
真砂沢は相変わらず快適だ。その上、「越冬モノ」」というビール、ジュース類が、なんとオール200円!!山で200円ということは、ほぼ飲み放題に近い。さっそくビールとジュースを体に染みこませ、三の窓のアプローチのイメージを頭の中で鮮明にしていく。明日は、3時発だ。
剱沢の雪渓の末端にテント |
まだ他のパーティーは動き出していない。相変わらず、頭上は降ってきそうなほどの満点の星空。ヘッデンをつけて仙人池に向かう登山道を進むも早速4の沢付近で巨大な雪渓の上を行くことになり、真っ暗な中、もちろん踏み跡もないので、降り口を見つけるのに少々難儀した。そのあとは、激流の剱沢を足元にしての鎖トラバースといったアトラクションを越えて、1時間弱で二股の吊り橋に到着。吊り橋付近には、ソロのお姉さんがツェルトビバークをしていた。今日は三の窓から稜線に上がるらしい。
見上げる三の窓は、青空まで見事に雪がつながっている。
三の窓雪渓は、単なる雪渓ではなく氷河であるらしい。なんかちょっとずつ動くみたいな氷河の定義があって(テキトー)、国内、とりわけ立山・剱周辺におけるいくつかの万年雪が氷河認定をされている。その中でも三の窓は長大で最も厚い部分で60mにも及ぶらしい。
まあ、なにはともあれ、長い・・・。そのうえ、周囲にはこれ落ちてきたの?とにわかに信じがたい軽自動車クラスの落石が散乱している。
上部までは傾斜的にはそれほどではないが、見た目以上に延々と続く。なにしろ、二股の1585m付近から2655mくらいの三の窓までおよそ1000mくらいを朝一で一気に登らんとあかんわけである。アプローチでそこそこしんどい標高差1000mの日帰り沢登りを一発かましてから本番である・・・。
事前の下調べでも、三の窓雪渓からチンネに取り付いたという記録は、見当たらなかった。まあ普通は熊の岩からだ。ただ、このアプローチの最も素晴らしいところは、まさに下から、見上げるチンネの先端まで、一気に登りつめるところにある。一歩一歩高みを目指すのが登山の本質であるならば、まさにこのラインはその本質を体現している。
通常の熊の岩起点だと、下降して取り付くことになるので、チンネに向けて一歩一歩登りつめるということはできない。
なんてことで、苦しい延々と続く氷河登高を自分の中で必死に正当化しようとしていた・・・。
三の窓氷河を見上げる。三の窓の左に見えるトンガリがチンネだ。 |
後立山から陽が昇る |
右岸が八峰、左岸が三の窓尾根。すごいところだ。 |
八峰北面、滝ノ谷大滝。 この大滝には見覚えがあった。家にある2014年7月の岳人の「大滝巡攀」という連載で「日本で最も有名な沢ヤ(『外道クライマー』)」成瀬氏と「伝説の沢ヤ(同上)」狂犬・青島氏が超絶ランナウトに耐えながら、水流右側の爬虫類しか登れないようなスラブをワンプッシュでトップアウトし、稜上で着の身着のままビバーク下という記録を読んでいたからだ。高差200m。完全にぶっ飛んでいる。 |
中上部は次第に傾斜が出てくる。 |
なかなか近づかない・・・。 |
だいぶ近づいた。真下から見上げるチンネ。 |
三の窓氷河のノドの通過。左右には大きなシュルンドが口を開けている。 |
ようやくチンネ基部 |
取り付きには、熊の岩からアプローチしたパーティーがすでに2パーティーいて、1パーティーは1P目から2P目に取り付いている。さすが人気のチンネ左稜線。彼らに長次郎谷右俣の状態を聞いたが、なんとか通過できたものの、下降が不安と言っていた。まあ予想通りだ。結局、なんとかなる、でもなんとかならない場合もある、ということだ。
早速、ロープをつけてクライムオン。アイスハンマー、アイゼン、登山靴をいれたザックは、なかなかに重く、最初のⅣの凹角もぎこちなく登る。クラックシステムを辿るのでプロテクションに不安はない。アプローチ用のデカいザックをなんとなくデポしそびれて、縦走ハイカーが間違って取り付いたんじゃないかといった体のかとーくんと最新シロッコがいかにも快適そうなあーさが続く。
後続には、山登魂の強い5人組が続いており、待たせても悪いので、結局、自分がオールリードすることになる。
1P目(本来の2P目)のⅣの凹角 |
朽ちたピトンはいくつかあるが、本気で落ちたら100%折れる。
2P目。テラスからフェースに出る |
3P目。 |
4P目。 |
5P目は簡単なリッジ歩き。
蒼天を劈くチンネの頂と左に見えるクレオパトラニードル。左が八峰の頭だ。 |
長い緩いフェース |
再びリッジ上へ。眼下には延々と登り詰めた三の窓氷河。 |
剱のThe Nose |
背後には後立山の山並み。 |
次々現れるピナクルを登ったりトラバったり。 |
チンネの「鼻」と左手に見えるクレオパトラニードル |
次に出てくる小ハングもしっかりガバをキャッチしてパワフルに越えていく。そのあとは少し傾斜が落ちるが、アンダーのガバフレークに決めたカムをテスティングしていたら、一抱えもある岩ごと動いたので、少しビビリながら慎重に登る。右側の凹角に入り、50mいっぱい伸ばしてトップアウト。核心だというのに、ビレイ点はかなり貧弱で、岩角にかかりが浅くてすっぽ抜けそうなスリングがひとつかかっているだけだ。これじゃ余りにも不安なので、なんとカムを決めて補強した。
チンネ左稜線は、人気ルートなので確かにルート上にピトンはいくつかあるが、どれもかなり古くサビサビでひん曲がっているモノが多い。というか、思っていたよりも残置は少なく感じた。そのうえ、中上部はおあつらえ向きのしっかりしたビレイ点はあまりなく(見つからず)、あたりまえだが自分でしっかりビレイ点を作れないと話にならない。
右側のカンテがしっかり持てる。足は比較的細かい。 |
日本を代表する山岳風景の中で、豪快にレイバックを決めるのは爽快 |
それにしてもこんな不安定なリッジ上で、ヘリの爆音と振動をくらうのはなかなか嫌なもんだ。いやそれよりも、マジかよ?みたいなハイマツの間の外傾テラスにホイストしていく富山県警の隊員の方が嫌なはずだ・・・。後のニュースで知ったが、落石による骨折でガイドともうひとりが重傷とのことだ。
絶対にお世話になりたくない |
そのあと12~14P?は、ピナクルの林立する高度感抜群のリッジ上を細かくピッチを切りながら進んでいく。
そして、チンネの頭。
定番のチンネの頭の写真は、あまのじゃくなんでパス。というか、なんか取れそうで怖い。
後ろの岩がチンネのトップ |
その後、相変わらず落石祭りの池ノ谷ガリーまでラッペル2発で降り立つ。最後のラッペルで一瞬ロープが引き抜けなくなりかけてヒヤっとしたが、引いているうちにどうにか降りてきて一安心。
3Pのラッペルで池ノ谷ガリーへ。 |
眼前に小窓の王 |
あとは、延々長いが歩くだけだ。
気づけば、取り付きでパンをかじった以来何も食べていなかった。かとーくんとあーさはフォローなので食べられていたようだ。自分はずっとリードをしていて休憩できなかった。左稜線の途中で水も尽きていた。
行動時間も16~17時間となり、さすがに二俣から真砂沢への歩きの途中はシャリバテと脱水でなかなか足が進まなかった。
そのときは、頭の中は、桶に浮かぶ「越冬ビール」と「越冬ジュース」をがぶ飲みすることしかなかった。
翌日。
ぶっ倒れてよく寝られたせいか、比較的体は軽い。
剱沢もさくさく登り、剣御前から剱にひとときの別れを告げ、人のごった返す室堂に向かった。周辺の景色は、二日前に比べ明らかに白の比率が少なくなっていた。
源次郎尾根のクライマーに憧れてから、僕の山登りの地平を飛躍的に広げてくれた剱。
やっぱり今回も剱は甘くないなと改めて思った。
雪、岩、長いアプローチ。要素が複雑でその分不確実性も高い。そして、底抜けな明るさとすぐそこに死があるんじゃないかと感じる凄み。
まだまだだなぁと自分の小ささを感じた。