大雲取谷

2013-04-29

06_沢登り f_奥多摩・高尾

Date : 2013/04/28
Member : テトラオドン、組長
Timeline :八丁橋ゲート1130~1220富田新道・唐松谷入口~1232入渓点吊橋1300~1311小魚留ノ滝1338~1440ゴンエ谷手前の左岸幕営地~遭難ハイカーの救助・長沢谷左岸の小尾根付近から林道に脱出19時頃


予想外の白馬撤退から、奥多摩へ傷心沢登りへ。新緑と暖かい陽光、苔むした谷に、ぽっかりと穴のあいた心を埋めに行ったつもりが・・・。


白馬主稜はまさかの猿倉敗退。大量の降雪で大雪渓下降はやめようとしたまさにその直前に、大雪渓で大きな雪崩が発生し、少なくとも2パーティーが雪崩をくらい、残念ながら女性1名が死亡、男性2名が行方不明で捜索中(29日昼時点)、ということだそうだ。今回の状況では、大雪渓の登山はまさに自殺行為。パーティー内でどのような議論があったか分からないが、入山自粛要請があった中での大雪渓突入は論外の判断ミスだと思う。とはいえ、たくさんの犠牲者が出てしまったことに非常に心が痛い。もしかしたら自分たちも巻きこまれた可能性もあった。雪崩は怖い。非常に怖い。犠牲者の方やその関係者の方に、同じ山を愛する仲間として、心からご冥福を祈りたい。

ということで、なんもせずに帰宅。中央道の渋滞がなかったのが唯一の慰めだったが、このやり場のない気力と体力をどこに向けたらいいのか・・・。座り始めて半日経過したパジェロの助手席で考えた結論は、やっぱり沢!!
もっとも、急な転進でよく調べもしない沢に入るのは危険。ということで、5月2週目以降に予定していて、しっかり調べも済んでいて、かつ、このささくれだった気持ちを癒してくれる沢として白羽の矢が立ったのが、大雲取谷。チロチロ揺れる焚き火の炎を見てまったりしたい気分だったので、日帰りで行ける沢ではあるが、あえてゆっくりのんびり1泊の計画にした。

冬山装備から一転、沢装備をそそくさとザックに詰め込み、暖かい日差しとたくさんの人の中、奥多摩路をドライブ。御岳渓谷辺りには、たくさんの山ガールがいて、最近かわいい山ガールがいるような山に入っていない自分にとっては(会の中にいないとは言っていません・・・)、明日の雲取山山頂は楽しみだなぁ、なんて鼻の下を伸ばす。。御岳ボルダーには今日もたくさんのマットが敷かれ、暖かい陽光の下、たくさんのボルダラーが賑やかにやっている。釣りをやっている人もいっぱいあだし、キャンプ場もたくさんのキャンパーでにぎわっている。いかにもGWって感じだ。とても気持ちがいい。アベノミクス万歳???

コンビニで酒を買い込み、焚き火で焼いて酒のつまみにするため、途中の商店でキノコやめざしやソーセージを買い込み、ゴキゲンで日原林道の入り口の八丁橋に到着。すでに4台ほど駐車していた。日原林道は、2年前の5月に原付の男性が熊に襲われる事件があったので、一応、熊鈴をチリンチリン言わせながら歩き始める。新緑がとても綺麗。ただ、少し暑い。
八丁橋ゲート

春ですねー



1時間もかからずに富田新道・唐松谷の入り口に到着。日原川まで登山道を下り、唐松谷と大雲取谷が出合う吊り橋の下から入渓。唐松F1が豊富な水量で迎えてくれ、テンションが上がる。
大雲取谷は支沢の六間谷までの間にいくつか幕営適地があるし、天気も非常にいいので、のんびりテキトーに泊まりたいところを見つけて泊まればいい。最高の自由を感じながら、遡行開始。
富田新道・唐松谷の入り口

入渓点の吊り橋

大雲取谷の入渓点


大雲取谷は、確か日本百名谷にも選ばれている奥多摩きっての名渓で、日原川の本流筋なだけあって、水量豊富で沢自体も大きい。一度は行ってみたい沢の一つだ。
最初から期待通りの水量と明るい渓相で、白馬の事はすっかり忘れる。
簡単なへつりが多い
入渓後すぐに、小魚留ノ滝が登場する。水の勢いがなかなかで見応え充分だ。ここの巻きが悪いため、この滝をパスしてもう少し先から入渓する人もいるらしいが、この美しい滝は一見の価値ありだ。クライマー気取りの性で、一応、直登ルートを探ってみる。左壁はホールドがほとんどなく、クライミングシューズならギリギリで行けそうだが、沢靴では無理。右壁のルンゼ状も行けそうだが、取り付きまで水勢にバシバシと戻されそうなので、辿りつけるかさえ分からない。ということで、予定通り笑、左岸のガレ場から高巻くことにする。
小魚留ノ滝
ガレ場は非常に脆く、傾斜もキツイので気が抜けない。木の根とボロい岩を掴んで20mほど直上し、適当なところで左にトラバースを開始。相変わらず、足場は不安定なボロ壁。高さがあるので落ちたらアウト。最後はこれまたボロボロの苔むした壁を慎重にクライムダウン。酒つまみ、幕営道具などで重いザックということもあったが、なかなか緊張感のある高巻きだった。
沢登りの上手さは高巻き技術の上手さによく現れるという。自分やテトラオドンさんは、ロープなしでも突破できたが、もし初心者をつれてロープを出すとしたら、どのような方法が最も安全か、いろいろと考えた。
巻きのガレ場

不安定なトラバース

落ちたらアウトだ

ボロ壁のクライムダウン
小魚留ノ滝から少し歩くと長沢谷との二俣。ここを左に入り、明るく開けた癒し系の渓相を気分良く歩く。いくつか小滝が現れ、へつりを楽しみながら進む。
奥多摩らしい癒しの渓相

調子乗って木の上を突破しようとしたけど、面白いように滑りまくるので断念・・・

やがて、右岸に大崩壊地が現れ、水流は岩の下に消える。大崩壊地はまさに現在進行形で崩壊が進み、砂埃が立ち、絶えず小石がぽろぽろと落ちてくる。死んだ谷を足早に抜けると、やがて穏やかな流れが再び姿を見せてくれる。左岸を見ると、いかにもここで快適な焚き火をお楽しみください、といわんばかりの台地上の幕営適地があった。まだ14時半。日も高く、先に進んでもよかったが、明日も天気はいいそうだし、ゆっくりたっぷりのんびり焚き火&酒盛りを楽しむため、ここを安住の地することに決定。
さっそく、1年ぶりのタープを広げ、薪を集め、火を点ける。枯れ葉が多いので、着火剤なしでもすぐに火がつく。それどころか、乾燥した薪は非常によく燃え、火勢のコントロールに気を使った。
桃源郷

やっぱり沢はこれ!!

それにしても快適なテン場だ。今日は楽しい夜になりそうだ。そろそろビールかな、と思い始めた頃、右岸の急斜面を落ちるように下りてくるおじさんがいた。最初は、釣り師かなと思った。釣り師と沢ヤは相性が悪い??ので何となく会釈くらいにしていると、おじさんが話しかけてきた。よく見ると、どうやら釣り師ではないらしい。雲取山あたりによくいる画に書いたような??中高年ハイカーだった。そして、手に持つトレッキングポールは曲がり、ズボンはすっかり泥だらけで、疲労の色も濃い。なんでも、雲取山登頂後、小雲取から富田新道を経て下山しようとしたものの、途中で道を失い、そのままズルズルと沢沿いを下降してしまい、必死の思いでここまでたどり着いたらしい。話し方もぼんやりしたおじさんだった(よく考えてみると、疲労がそうさせたのかもしれない)。
おじさんがどのようにしてここにたどり着いたか分からないが、おそらく富田新道の1708から登山道のある尾根より一つ北に伸びる広い尾根上に紛れこんでしまったのではないかと推測される。もしここが登山道のついていないところで、バリエーション登山をしていたなら、間違いなく読図ポイントとして事前にチェックしそうな地形だ。
おじさん曰く、今日中に下山したく、道を教えてくださいとのこと。といってもここは、深いの谷の中であって、中高年ハイカーが一人で容易に脱出できるような場所ではない。地形図を見れば、いくつか林道への脱出ポイントが考えられたが、大ざっぱな登山用地図しか持たないおじさんに、ここならいけそうですよ、頑張ってください、ということだけ教えてあとは知りません、ということにはいかない。そもそも、地図を持っていてもそれを正確に読む技術はないだろうと思われた。

そうするより他なかったので、おじさんと一緒に林道への脱出ポイントへ沢を下りることにした。
10分ほど歩いたが、おじさんの疲労度は思っていた以上で、よぼよぼのおじいさんのように足元さえおぼつかない。こっちの方が岩が安定していますよ、との忠告も、疲労のせいかよく分からないが、あまり聞こえていないようだった。何度も転びそうになっているおじさんを見て、これは長くなるなと思い、一度、テン場まで戻って全て撤収し、一緒に今日中に下山しようということになった。そうせざるを得なかった。

再び戻ってから、おじさんにハーネスを履かせ、簡単な滝もロープを出しながら下りていく。このまま沢を下ると小魚留ノ滝に行ってしまう。素人に、ましてや疲労困憊のおじさんにあの滝の下降、高巻きは不可能。逆に沢を遡行し、ゴンエ谷の出合いから少し先の、左岸大ダワ林道が最も近づく地点を登り返すことも考えられたが、テン場からゴンエ谷まではゴルジュになっており、相当困難に思われた。そこで、左岸小ピークから尾根上に大ダワ林道に抜けられる小尾根斜面に目を向けるが、木の生える傾斜のきつい、かつ、長い急登を行くのは、今のおじさんの体力的に無理そうだった。そこで、テトラオドンさんと話し合い、このまま長沢谷との二俣まで沢を下降し、長沢谷に入り、林道との距離が最も近く、かつ、傾斜の緩そうな場所を選んで脱出しようということにした。長沢谷出合いに一人でいた野次馬的な釣り師を簡単にあしらい、長沢谷を少し遡って、脱出ポイントを探す。最初に入り込む左岸の小尾根の側面の比較的緩い斜面から登ることに決めた。灌木も生えており、何とか登りきれるだろう。

おじさんにロープ確保のシステムについて簡単に説明し、自分が先に行って、灌木でおじさんをビレイ。すぐ後ろから、テトラオドンさんがおじさんを補助しながら登る。おじさんは、必死の形相で時折落ちながらも何とか頑張って登れているようだった。3ピッチロープを出し小尾根上にたどり着いた頃にはすっかり日も落ちてしまった。シカの警戒の声を聞きながら、最後はヘッドライトをつけて小尾根を登り、ようやく日原林道に脱出できた。
ギリギリ歩けるおじさんと一緒に八丁橋までゆっくり帰り、八丁橋から車で奥多摩駅まで送った。


おじさんが遭難しかけた原因は、①バスの時間を気にして、予定していた鴨沢への下山を急遽変更し、富田新道を下山しようとしたこと、②使える地図を持っていなかったこと(読図技術がなかったこと)、③間違ったと思ったら引き返すという山登りの基本ができず、やってはいけない代表のような沢筋の下降をしてしまったこと、といったことだと思われる。恐縮しきりのおじさんには申し訳ないが、これらに加え、ヘッドライトも持たずに山登りをするというのは、山を舐めすぎだ、と、自分みたいな小僧に思われても仕方がない。
奥多摩駅でおじさんは、命の恩人だと言っていたが、状況的にはあながち大袈裟な言いようとはいえなかったかもしれない。

奥多摩でも昨今の登山ブームで中高年ハイカーを中心に遭難者が多くなってしまっているようだ。今回のおじさんのように、装備面でも技術面でも万が一に備えられていないハイカーも多いように思われる。必要十分な装備と読図技術等の登山者としての必須の技術はしっかりと身につけた上で山に入るという姿勢が必要だと痛感した。なんて偉そうなことを言っている自分も、地図もろくに読めない時期に同じように沢筋を下降して道に迷ったことが何回かある。完全に迷ったと思った時点で引き返したから良かったものの・・・。

今回、図らずも2年前にやはり奥多摩・雲取で行ったナイトハイクや沢でのセルフレスキューを実際にやることになってしまった。今回、要救助者が何とか歩けるレベルだったから良かったが、もし怪我をして自力歩行が難しかったら・・・。
山には危険がいっぱい。あらためて、ハイカーレスキューやセルフレスキュー等の万が一の技術の重要性を再認識させられた。


ということで、GW前半戦は終了・・・。正しいことはしたはずだけども、なんともやりきれない。この気持ちGW後半が晴らしてくれるのか・・・?!

(組長)





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