Date : 2015/04/25-26
Member : すぐりん、組長
Timeline :25日猿倉1335~1450白馬尻
26日:白馬尻0331~0758白馬岳頂上~0932白馬尻~1049猿倉

雪稜の名クラシック、白馬主稜を登りました。
雪山やってて良かったと思いました。


「雪稜スタンダード」「後立山連峰の名峰白馬の山頂へ突き上げる一本の豪快なスノーリッジ」「純白秀麗なる雪稜」「日本を代表する雪稜ルート」

ここ白馬主稜を評する言葉の数は枚挙に暇がない。
僕も大いに語りたい。。。ここを登るために雪山の力をつけてきたのだ。

白馬主稜をやるにはいくつか方法がある。尾根上で幕営して白馬の夜景と星をみながら一杯やるのもいい。雪のしまった時期を狙って、空身で軽快に駆け抜けるのもいい。
僕らは後者を選んだ。

4月最後のこの週末は、晴天、いやそれどころか4月に入ってから最高のコンディションが予想されていた。日本の多くの山ヤが、残雪の美しい峰々を求めて胸ときめかせていたに違いない。僕らも多分に漏れず、週半ばくらいからワクワクして仕事も心ここにあらずだった・・・笑。

初日は、白馬尻までの短い行程しかない僕らは、土曜日の昼下がりを白馬のガストで過ごしていた。2年前だったか、初めて白馬主稜を計画した時、白馬町まで来たはいいものの、なかなか降り止まない雨の中、ここの同じガストで恨めしく空を眺めていた。
そして今、2年前とは違い、暑いくらいの気温の中、空はどこまでも青かった。
窓から見上げる後立山の峰々は白く高くそびえ立っていた。スキー場のある下部はもうほとんど雪が無い。ここ最近雪が降っていないので、先週から見てもますます雪がなくなってきている。
入山前にも関わらず、ステーキをがっつりと食らう。

のんびりと二股に向かう。
今週末からは猿倉までの林道が開通している。先週歩いた林道を今度は車で楽々アプローチできるというのは実に気持ちが良い。白馬町の皆さん、ありがとうございます。

猿倉の駐車場には既に多くの車が停まっていた。そして、今日の素晴らしいライディングを終えたスキーヤー、ボーダーが続々と下山してきていた。

白馬尻までの途中、人気の金山沢からは、ゲレンデさながらたくさんのスキーヤーが滑走してきていた。楽しそうだ。スキーという選択肢が増えたら、雪山での行動力は飛躍的に高まるだろう。雪の遊びのフィールドは果てしなく奥深い。

午後も遅くなると随分と暑い。雪もベチャベチャで歩きにくい。のろのろと歩んで、白馬尻についた。すでにたくさんのテントが張られている。たぶんほぼ主稜だろう。さすが、主稜。でもまいったな、渋滞にならなければいいけど・・・。

天気もいい、風もない。先週のような素晴らしい城砦は築かなくてもよい笑。
適当に壁を作って、整地して、2人には広々の4テンを張った。
主稜の取付き付近の急斜面を一列に並んでたくさんの人が登ったり降りたりしている。おそらく明日に向けて雪訓をしているのだろう。彼らよりも早くでなければ大渋滞に巻き込まれる・・・。

先週に引き続き、男ふたりのみすぼらしい夕食。女子力の高い会の皆様の美味しいごはんが恋しい・・・。そのうえ、すぐりんは酒も飲まない。まあ・・・いいことだ。
明日は3時頃出発と決め、早々に寝入る。

穏やかな朝を迎えた。といってもまだ夜だ。
風もない。気温もいい感じに低い。星が綺麗だ。これ以上の朝はない。とにかく嬉しく、ワクワクする。
まだほかのパーティーは誰も出発していないようだ。ヘッドライトを点け、白馬尻から本日一番手で主稜に取り付く。予想通り素晴らしい雪の状態。よく締まっていて、アイゼンの全ての爪ががっちりと雪面を捉え、グイグイ高度を稼ぐ。

真っ暗だ。ヘッドライトに浮かぶ雪面を睨みながら、上を目指す。取り付きの広い斜面は、降雪直後は雪崩の危険がある。上部は少し急になり、大きなクラックが口を開いている。昨日の午後、ここを登っていたパーティーを見上げていたが、午後のグズグズで崩れやすい雪でこの段差を這い上がるのは苦労したはずだ。我々は、固くしまった雪にアックスを叩き込んで快適に這い上がる。
白馬尻の方を見るとたくさんのヘッドライトが次々と主稜に向かって動いている。猿倉の方からも光が進んできている。

とにかく楽しくて気持ちがいい。山登りってなんて楽しいんだろう!
次第に空が白みはじめ、一日で最も美しく清々しい時を迎えた。
雲一つない。
尾根上に出る

太陽が出る
8峰付近の稜上に出るとすぐ先のリッジは雪が切れていて、少しの木登りとなる。
少し広い稜上に上がると、テントが1張り。まだ、テント内でガサゴソと白馬主稜での優雅な朝のひとときを過ごしているようだ。でも、初日ここまでなら、このあと泊まり装備背負って登るくらいなら最初から空身ワンデイの方がいい気がしないでもない・・・。
稜上に上がるとナイフリッジと雪壁が交互に現れる。トレースはあるし、雪の状態もいいので、難しさは全く感じない。
再び稜上にテント1張り。主稜は白馬尻から一挙に高度を上げる急峻なリッジだが、幕営適地は頂上直下まで随所にある。
斜面や、

ナイフリッジを繰り返す
一般的に主稜は頂上から順に8峰まで数えられるようだが、実際はいくつものピークを登っては降り、ということの繰り返しであって、どこが何峰だとかはよくわからない。数が多めなら、とりあえず「八」としているのかな。そう考えると日本っぽい。まあ、ここが何峰か、なんて考えながら登るのはそもそもナンセンスだ。
たぶん7峰、笑
今年は4月に入ってあまり降雪がない。たいてい毎年、4月に入って春の嵐とかいって、北アルプスあたりではドカっと雪が降ることが多いのだが、今年はそれがない。ここ白馬も全体的に随分と黒々としている。主稜の前半部も、ところどころブッシュが出ている。GWにも多くのパーティーが入るだろうが、この感じだと8峰下部や主稜の下半分は、だいぶ雪が落ちてしまって状態が悪くなっているだろう。今週末が快適な雪稜登攀ができるラストチャンスのような気がした。

ところどころ巨大なクラックが走っている。底の見えないほどの深いクラックだ。恐ろしい。
シュルントに入り込んだり、雪面に乗りあげたり、ブッシュを掴んだりと、バラエティーに富んだ登攀を続ける。
少し傾斜のきつい雪壁からピークに登り詰めると(6峰??、力量によってはロープ出したほうがいい)、頂上までの主稜の全景が目の前に広がった。率直に思ったのは、意外と近いな・・・笑。

空がとてつもなく青い。空とはこんなに青いものなのか。原色に近い青だ。

頂上まで見渡せた
左手には先週登った杓子岳の双子尾根が伸びている。快適なテントサイトを築いた樺平もみえる。僕らの城はまだ残っているだろうか・・・。
杓子岳
天高く駆け上がり、躍動する白馬の隆々とした背中をノミのようにちっぽけな僕らが登ってく。
時々振り返ると、憧れてた景色が眼下に広がっていた。

「そこは頂上から一気に千メートルの奈落の底へ逆落としにかかった、メイン・リッジと呼ばれる、しかし、稜というよりはむしろ、壁ともいうべき氷の斜面である。こいつはもっとのびやかに育つべき運命を自然の酷烈な取り扱いによって、千メートルの垂直距離の間に、その長大な肉体を無理やりに押し込められ、歪められ、右、あるいは左にたたまれて、憤怒の極点に達したという不敵な面魂をもっている」(上田哲農)
白馬にしがみつく


雪山でやりたかったのはこれだ!!
人生において、これだけ確信を持てる瞬間は、そうは多くない。
2峰付近だろうか、先行パーティーが5人ほど登っているのが見える。おそらく昨日は主稜上で宴会でもしていたんだろう。4峰か5峰あたりだろうか、テントサイトの段々畑が出来ていた。

相変わらず、ナイフリッジと雪壁を繰り返し越えていく。まだ雪もよくしまっているし、トレースもあるのでリズムよくぐんぐん登っていく。特に困難なところはない。

ひとしきりアップダウンを繰り返すと、次第に頂上への最後の雪壁が迫って来る。5人パーティーと2人パーティーが取り付いているのが見えた。遠目で見ても、すでに雪庇貫通の土木工事は施工済であり、それほど苦労なく越えられそうだ。
左が2峰で真ん中が頂上
2峰は左の方から回り込むように登る。ロープの必要は感じない。
すぐ前の2人パーティーがロープを出してひどく苦戦しているが、動きを見てもラインを見てもあまり経験があるようには見えない。
頂上への最後の雪壁の取り付きは安定した台地上になっていて、ひどい渋滞ができていても、のんびりお茶でも飲んで待っていられる。もちろん渋滞なんてゴメンだけどね。
自分たちの前には、今取り付いている4人ほどと、今、すぐ隣で必死で頑張っている二人だけだ。取り付いている4人もリードは既にトップアウトしていて、もうすぐ全員抜けそうだ。白馬尻からのパーティーはまだまだ下の方にいる。うーん、ナイスタイミングだ。
最後の雪壁

中間部の残置支点のある岩
最後の雪壁は、スケールにして55mだそうで、通常は2pに分けて登るらしい。
見た感じ、すでに先行者のトレースはついているし、雪庇の切り崩しもない。傾斜は60度強とのことだが、それほど威圧感は感じなかった。ロープいらないな・・・。

一応、前のパーティーのセカンドが登り終えるのを待つ。そのとき、すぐ下の2人組の一人が岩の残置ビレイ点から滑落する。まだどちらもセルフもとっていない状態だった。あ、やっちまったと思った瞬間、もんどりうって、なんとか5、6メートルで止まった。あのまま行っていたら、二人共、白馬沢に数百メートルは落ちていっただろう。人が落ちるのをもう見たくない。身震いがした。

気持ちを入れ替えて登り始める。傾斜は確かにあるが、雪の状態は非常に良く、特に怖さは感じない。最後の雪庇下までテンポよく登って行き、雪庇の上に手をかけ、ひょっこりと頭を出すとそこは頂上だった。落ちたらおしまいの急雪壁から、一転、平らで何の心配もない頂上。その展開はまさに劇的だった。非対称山稜と言われる白馬の姿を身をもって実感できる瞬間だった。
すでに目の前の平和な頂上でのんびりしている先行Pのおじさんと目が合う。みんな笑顔。笑わずにはいられない。
雪庇の切れたところから・・・

よっこらせ、と、マントルを返す。そこは頂上だ。

白馬主稜、みっしょん・こんぷりーと!!
山の西側は随分と雪が少ない。夏道がほぼ出ている。
小屋の背後で光っている劔の姿が目に入った。準備は整った。
白馬山荘と劔
大雪渓を下降する。僕らの後から主稜を登ってきて、驚異的な速さで追いついてきた大学生パーティーが下降で追い抜いていった。さすがに大学生は若くて強い。でも僕だって、まだまだ歩きでは負けないぞー。なんて・・・、いちいち対抗心を燃やす僕は精神的には彼らより幼ない・・・笑。

今日もたくさんスキーヤーやボーダーがえっちらおっちら登ってくる。その脇を僕らはピューっと駆け下りる。
降りる人

登る人
快調にかけ下ってテントに戻る。頂上直下の雪壁を見上げると、数珠繋ぎにひとが登っているのが見える。
テントをたたんで、何度も白馬主稜の美しい雪稜を目に焼き付けてから、白馬尻を去った。
双子尾根と主稜、僕らのような初級者が楽しめるルートを最高の条件で登ってしまったから、しばらく白馬に来ることはなさそうだ。ありがとう白馬。

下山後は、みみずくの湯で露天風呂に浸かりながら登ってきた白馬主稜を眺める。何とも満ち足りた瞬間だ。
飯は、白馬町の有名な洋食屋のグリンデルで自慢の自家製ベーコンステーキ定食を頂く。人気の店なので、すぐに駐車場がいっぱいになる。肉厚ジューシーなベーコンは、これまで食べたベーコンの中で一番うまかった。まあ、スーパーに売っているパックされたベーコンしか食ったこと無いけんどね。白馬に来たらまた来たい店だった。

ようやく白馬主稜が登れた。
雪山を始めてからの目標だった。白くうねる雪稜を見て、雪山の美しさを強烈に感じ、そこを攀じるクライマーのかっこよさに惹かれた。
技術的に見れば、難しくはなかった。前哨戦と捉えていた谷川東尾根の方が難易度は高く感じた。白馬尻から頂上まで4時間半ほど。テンポよく快適な登攀だった。もっとも、トレースの有無や雪の状態にもよるところが大きいけれど。

まあ、グレードとかガイドブックの評価とか、そういう問題じゃない。
心から美しいと感じ、登っていて楽しいと感じた。それがすべてのような気がする。

(組長)

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