葛根田川北ノ又沢~明通沢

2015-09-21

06_沢登り b_東北

Date : 2015/09/21-22
Member : ガッキー、つーく、よしみ、組長
Timeline :21日 滝ノ上温泉駐車場0811~葛根田川入渓点0905~1040お函~1212葛根田大滝~1320滝ノ又沢出合BP
22日 BP0707~0831北ノ又沢左俣大滝~0953(1168)ピーク南東コル登山道~1006関東森~1050(1283)湿地帯~1415明通沢支沢大滝1450明通沢本流出合~1609明通沢林道~1728滝上温泉駐車場

初秋の東北遠征。
裏岩手連峰の源流を巡る旅。
煌く水流、癒しの森とイワナの世界を辿る。


 晴天のシルバーウィーク。
沢行くしかありません。沢行けなければ死んでもいいと思いました。
こと山に関しては、インテルの最新CPU並みの処理速度で次々と計画が浮かぶ僕の頭。
沢をやっていれば、一度は行っておきたい名渓というところがいくつかあります。ここ葛根田川もそのような名渓のひとつ。東北の渓といったら、葛根田川。少なくとも僕の頭の中では、そういう位置づけ。
そんなこんなで、
行くぜ、東北!

分かりきってはいますが、流石に盛岡は遠いです。夕方くらいに都内を出て、途中で皆に不評の佐野ラーメンを食し、南八幡平の葛根田渓谷の秘湯、滝上温泉に到着したのが深夜。無料Pには立派な休憩所があり、覗くとつい今しがたまで飲めや歌えやの大宴会を繰り広げたと思しき山ヤたちのイビキの大合唱。前夜泊には最適の休憩所です。ふと空を見上げると、プラネタリウムにいるような一面の星屑。
来たぜ、東北!

朝起きると、あたりの斜面から地熱による水蒸気が噴出する異様な場所に自分たちがいることに気づきます。地球は生きているんだなあということに妙に納得したところで、葛根田地熱発電所の妙に男心をくすぐる無機質な発電施設を横目に舗装道を入渓点に向かって歩きます。ナナカマドが真っ赤な赤い実をたくさんつけていました。

地熱発電所
 舗装された林道の終点をすぐ左に降りると、葛根田川に簡単に降りられます。すぐに膝上の渡渉でご入渓。丹沢とかのしょぼい小沢しか経験のないガッキーさんは、まずその体を持って行かれそうな豊富な水量に驚いたそうです。

小堰堤をマントリングしてから、ブナの原生林に囲まれた穏やかに煌く葛根田の流れを爽やかな秋の風を感じながら逍遥します。葛根田川では「お函」といわれるゴルジュが有名ですが、僕は、それ以外の何でもないけれども穏やかで癒しに満ちた河原歩きにこそ東北の渓のユニークさ、というものを深く感じました。

優しい東北の渓には似合わないブラジリアン柔術で鍛えた屈強なガッキーさんと薩摩の国からやってきた西郷隆盛の末裔のつーくが力強くグングン先をを進みます。よしみさんも子供のような表情で煌く水流を蹴散らしています。

葛根田下流部は、いくつもの美しい滝が左右から入ってきます。とりわけ、入渓してまもなく右岸に現れる70mはあろうかというくらいの大きさのナメ滝やドクロ滝と言われる黒いコケの生えた丸いナメ滝は秀逸でした。
きれいだなぁ、いやされるなぁ

右岸のナメ滝

ドクロ滝
 透明度の高い水のせいで流れの深さがよくわかりません。ブナの原生林を静かにたゆたう悠久の流れをたどっていくと、やがて「お函」と言われるU字状のゴルジュ帯に入ります。
ゴルジュといっても空は広く明るいので、全く圧迫感はないばかりか、水流も滔々と穏やかで、側壁の岩を難なくへつっていくことができます。
ずっと穏やか

開放的な渓

水が綺麗すぎる

お函

増水したらやばそう

お函の最後の見せ場

岩はフリクションがよく効く

全て飲み干したらもう少し心の綺麗な人間になれるんじゃないだろうか、そんな気がした秋の東北。

大人になって久しぶりにしたジャンプは、子供の時のようには高く遠くに飛べなかったと語る三十路の女子。


人生いろいろあるけども、沢にいるときは余計なことは考えず、美しい流れにただ感動していればよいのです
 大石沢の出合の暖かな岩の上で日向ぼっこしてから、沼ノ沢、中ノ又沢を過ぎ、左岸の見事な30m滝を仰ぐと葛根田大滝が現れます。深い釜を持つ2段の大滝は、これまでのたくさんの滝に比べれば、少し小ぶりな印象を受けます。ここは定石通り左岸の明瞭な巻道をたどります。
葛根田大滝

滝上から覗き込む
 これまであまり魚影をみませんでしたが、ここらあたりから少し渓魚が走るのを目にします。のんびりと歩いていたら、前方に滝ノ又沢が見え、その手前の左岸に素晴らしい一等地がありました。たぶん、葛根田川において最も坪単価が高いその場所で今夜は良い夢見ようということに相成りました。
左から入ってくるのが滝の又沢

滞在したい
 自分以外は沢で泊まるのは初めて。どうにも勝手が分からず、右往左往しているので、ちゃかちゃかを指示を出して、立派な我が家をこしらえ、薪を集めます。火をおこし、ひと段落着いたところで、竿を持って渓に戻ります。
ここからが本番です。今年の釣果は散々でした。まあ、素人がいくら頑張っても所詮はその程度なのかもしれませんが、禁漁間際、何としてでも釣りたい。。。

しかし、正直なところ、それほど期待はしていませんでした。イワナの楽園だと聞いていましたが、遡行中はそれほど魚影はなく、イワナたちの住まいのカレンダーにはシルバーウィークのところに「釣り人注意!!」なんて書いてあるんじゃないかと思うほどでした。
そんな気持ちで先ほど魚影を見た下流のポイントまで下ります。

期待感もなく、なんとなく毛鉤を打ち込んでみると、突如として、どこから現れたのか、黒い大きなものが水面を豪快に割って、バシャ!っと、飛び出してきました。僕は、素人らしく、そのあまりの急激な展開に、ただただ呆然とするばかりでしたが、ピンピンに張ったラインから感じる乱暴なほどに力強い生命の躍動に、はたと我に返り、慌てて竿を立てました。
その雑な動きのせいか、葛根田のイワナは、強烈な力で毛鉤を飲み込んだまま糸を食いちぎって暗い岩の陰に姿を消していきました。

うおぉー、何なんだこの興奮は!!!
気持ちが高ぶり、顔が紅潮するのを感じました。
あのでかいやつをこの目で見てみたい、そう思って何度も同じポイントを攻めましたが、先ほどのやつはもう現れてはくれませんでした。かわりに、そいつの子分みたいなやつが毛鉤にかかりましたが、足元に引き寄せている時にばらしてしまいました。

でも今日はいける。
また少し下流のポイントを攻めてみると一投目から2匹のイワナが水面に浮かぶ毛鉤に気づくや急に体を反転させ、獰猛な動きで毛鉤に突進し、水面から豪快にライズしました。透明感抜群の水流の中ではその一部始終を目の当たりにできるのです。
すげーよ、すげーよ、葛根田。

葛根田のイワナ君。僕に源流釣りの本当の楽しさを教えてくれました
 皆の待つ宿に帰ります。
よしみさんが、豚汁(ですよね?笑)とちらし寿司(でしたよね?笑)をこしらえてくれ、先ほど釣ったイワナは塩焼きにして、乾杯しました。人生で幸せな時を聞かれたら、僕は迷わず、沢でこうしている時と答えるでしょう。
 さすがにこの季節になると夜は少し冷えますが、暖かな焚き火にあたりながら、何も考えずにごろ寝。沢はいい、本当にいい。
二人共、独身。

モノクロにしたい気分。
 翌朝。
つーくが朝食をこしらえてくれます。
食材など意外と手が込んでいてとてもうまいラーメンでしたが、ただ単にまるちゃん生麺がうまかっただけのような気がしないでもありません笑。

さわやかな朝の空気をお腹いっぱい吸い込んで、遡行を始めます。
すぐに右岸から北ノ又沢左俣がくの字滝となって出合ます。右俣が本流っぽい気もしますが、今回は左俣に入ります(トマの風の本では右俣を紹介しているようです)。
出合の滝はシャワーを浴びます。
 出合から小滝が断続的に現れ、ググッと高度を稼ぐと、再び渓は穏やかな顔を取り戻します。両岸の低い河原状を進んだ先は、次第に両岸にスラブが広がります。小さな釜がいくつも現れる静かで綺麗な渓を進んでいくと、前方に30mはあろうかと思われる大滝が現れます。
ここらへんの渓相も素晴らしい

左俣大滝
 大滝は登れないので、左のルンゼから小尾根に乗り上げ、落ちたらやばいトラバースを経て、潅木帯を滝の落ち口まで登ります。
大滝上には、2段15mの滝がかかります。水流際はホールドに乏しいので、右壁の弱点を繋げて、最後は潅木を掴んでよじ登りました。ここはロープを出しました。
2段15mくらい
続いて、10mくらいのナメ滝が現れます。こいつは水流の中を気持ちよく登ります。フリクションがきくので怖くはありません。ここでもロープを出しました。
10mナメ
次第に両岸のヤブが沢を遮るようになり、最後の二俣を右→左と進むと、1168ピークの右下のコルの登山道に出ました。よしみさんから、最後はどのように進んだのかを聞かれ、ここの二俣を右に行って・・・と教えましたが、そもそも地形図上で沢形を捉えることができていないようです。コレは重症だ。頑張ってください笑。

物静かな登山道を進みます。秋の風は爽やかで気持ちよく、奥深い森の中の登山道にこころ和みますが、道はあまり刈払いされてなく、沢靴で良かったと思えるぬかるんだところも多いので、快適とは言えません。昨日ここを歩いたまり姉さんやさとこさん、みもんさんたちの足あとをたどりながら、森の中を進んでいきます。少し退屈しだしたところで、急に空が開け、湿原地帯が広がります。
でたー

湿原
下降は、明通沢の予定です。下降点は、間違えてしまっている記録も結構多いようです。事前に1283の標高点がかかれた道標が目印になることを調べていたので、まずはそれを目指すことにしますが、それがなかなか現れません。そればかりか、登山道は次第に高度を上げ始め、空の開けた前方に岩手山やその前衛の山が臨める高台についてしまいました。

あれ行き過ぎたかな。
右下には、下降すべき明通沢の支流が続いており、ここから降りても明通沢には入れますが、今日中に下山となると道中長いため、思いがけず時間のかかる悪場が出てきても嫌なので、本来下降しようと思っていたポイントまで戻ることにします。
地形図を見ながら、周りの地形的特徴と高度、方角を確認し、間違いないと確信したポイントで登山道から踏み跡のない密ヤブに突入します。密ヤブはほんの10mほどで、その先には登山道からは見えない秘密の池塘がありました。
秘密の池塘
池塘の淵をたどりながら、南東方向に進んでいくと、少しのヤブ漕ぎで目的とする明通沢の支流の源頭に降り立つことができました。
最初から、ほかの人の記録や不確実な人工物などに頼ろうとはせずに、地形図とコンパスと周りの地形と自分の経験と勘を頼りに進めば良かったのです。

ちなみに、問題の道標は、どうやら湿原にあった道標らしく、下の部分が削り取られたようになっていたので、標高点が書かれたプレートは外されたようです。
僕はひとりでナビゲーションの楽しさに夢中でしたが、ほかのメンバーと一緒に地形図をこねくり回して議論することができなかったのは残念でした。

明通沢は下降に使う人がほとんどのようですが、その美しさは北ノ又沢に勝るとも劣らない素晴らしいものがあります。白い舗装道路のような滑床といくつも現れる美しい滝は、おそらく東京周辺にあったならば、ガイドブックで五つ星の激賞ルートとなること間違いなしです。東北とは沢ヤにとって可能性にあふれた余りにも贅沢なエリアであると改めて感じました。

小滝が多く、懸垂下降連発


木々も色づき始めています


跪いて何を想う
下降でこれほどテンションのあがる沢はそう多くはありません。
最後は、20m大滝を豪快に懸垂下降。すっきりとした側壁をするすると懸垂下降するのはとても気持ちが良いものです。真面目なガッキーさんは、ストマジのハリボテで懸垂下降の練習を繰り返したそうですが、実践に勝るものはありません。
大滝の懸垂下降は、30mの折り返しでは足りません。

最後にもう一発懸垂下降すると、これまた美しい本流との出合にたどり着きます。何度も後ろを振り返って眺めました。

本流との出合


途中、ドボンポイントがありましたが、誰も期待には答えてくれませんでした。
石をぶつけて落としてやろうかと本気で考えていました。
そろそろ下山道となる林道の橋も近そうです。名残惜しいので、西日のあたる穏やかな川原で、最後の休憩を取りました。

仲が悪いわけではありません。たぶん。
夏休みの終わりのような気分で名残を惜しみつつ少し進むと林道の橋が見えました。
なんとも立派なコンクリートの橋が掛かっている割には、その先の道は林道とはいえないヤブの隘路でした。

林道
所々に現れるカーブミラーに林道を作ろうとした気持ちは伝わりますが、林道を作る目的はよくわかりませんでした。

最後はヤブをかき分け、昨日入渓した舗装路に飛び出します。今日も地熱発電所のパイプからは、勢いよく地球の吐息が吹き出していました。

そのまま盛岡市内に向かい、街の温浴施設で体をガシガシ洗ってから東北の味覚を求めて街を彷徨います。ここはひとつ、ガッキーさんとつーくに任せようと車窓からのんびり盛岡の街並みを眺めていましたが、なかなか良さげな食堂が見つからず、あすの目的地である早池峰方面に進むうちに、あれよあれよといううちに山の中に入ってしまい、結局、東北遠征第2夜は、まさかのコンビニ弁当でした。今後、二人には飯屋選びは任せないことを心に誓いました。
早池峰の登山口の駐車場でささやかな宴を催し、夜は更けて行ったのでした。

葛根田川は、思っていた以上に美しい流れでした。難しいところはほとんどありませんが、そんなことはどうでもいいことです。「旅」という言葉がしっくりくる、東北の名渓でした。

(組長)

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