Member : フジ、ちえ蔵、組長
Timeline :26日 尾白川林道ゲート0559~0719林道終点下降点~0745尾白川入渓~0905噴水滝~1005黄蓮谷出合~1115千丈滝~1150坊主滝~1244二俣~1704(2400m)付近BP
27日 BP0629~0725奥の二俣~0919甲斐駒頂上~1515駒ケ岳神社
黄蓮谷。
僕の沢登りにとっては、この渓は一つのゴールであり、通過点。
沢を登り、かっこいい山の頂上に立つ。
それが僕の沢登りの理想。
黄蓮谷は、僕の理想の沢登りを実現できる渓。
もっと、上を目指したい。
ヒリヒリするような緊張感のある沢登りをしてみたい。
黄蓮谷は、上級者への登竜門。
そんな強い思いがこの渓にはあった。
そして、天候不良による2度の断念を経て、ついにチャンスが巡ってきた。
前夜。
小雨の道の駅はくしゅうに到着。半分諦めていた天気が、なんとかもちそうだとわかったのは直前。憧れの黄蓮谷だというのに、気持ちの準備は整っていない。
乾杯もぜずに、早々に就寝する。
朝起きて、駒ケ岳神社の駐車場に向かう。予約してあったタクシーは、奥利根の船のオヤジとは違って時間通りに現れ、尾白川林道の日向山登山口の先のゲートまで運んでくれる。
ゲート突破は+1万円だそうだ(ウソです)。
林道は落石が多くとても4輪では通れない。バイクのタイヤ痕が続いており、途中に90ccのカワサキが停まっていた。どうやら地元の人でキノコでも取りに来たのだろう。
林道は、最後は3つのトンネルを経て、途切れる。そこが尾白川への下降点だ。
そこで沢支度をして、フィックスロープを辿って、急な斜面を下降していく。降り立った沢床はガスに包まれていた。昨日までの雨で水量は随分多いようだ。
ある種、独特の緊張感が漂う。
幻想的な雰囲気、悲愴感。心の持ちようでその間を行ったり来たりする。
しばらくゴーロを行く。
黄蓮谷の流れは、エメラルドグリーン、というより、「緑茶」である。濃い抹茶のような緑が、ドボドボと白い花崗岩の間を流れている。
やがて、最初の滝が現れる。緑茶の釜を覗き込むと、なかなか型の良い渓魚が見える。ヤマメかアマゴのようだ。
登攀的要素の強い黄蓮谷にあっては、「釣り」ということは頭になかった。だから竿はない。しかし、フジ兄はしっかりと竿を持ってきていた。ぼくはまだ釣り師としての心構えが足りない・・・。だからいつまでもへたっぴなのだ。
最初の滝 |
中央にワイヤーの下がる滝が出てくる。ワイヤーの下を登る。
中間バンドを伝いながら滝の落ち口付近まで進んで最後に乗っ越す滝がある。
その深い釜には、釣り人生の全てを注ぎ込んでもいいと思えるような大物が、黄蓮谷の歴史を全て知っているかのようにどっしりと悠然と遊泳していた。
中間バンドを辿り、最後は少し遠いガバを掴んで乗っ越す。 |
大イワナの滝壺 |
いちいちすべてがデカイ |
花岩 |
噴水滝 |
青空が見え始める。
遥か頭上高くに獅子岩と言われる岩壁を仰ぐ。異次元の渓谷美に圧倒される。
黄蓮谷出合で竿を出す。黄蓮谷に入ったところの釜はかなり魚影が濃く、食い気満々の渓魚が何匹も流れに揺られていた。
なかなかの良型 |
釣竿必携 |
トラベタ張り |
ガスで空と落ち口の境界がよくわからない。空から吐き出されたかのような優雅な白い水流は、スケールの大きさに遠近感が鈍麻した僕の目にはやたらとゆっくりと流下しているように感じられた。
割れたヘルメットが転がっていた。そこにどんなドラマがあったのだろうか。
千丈滝 |
右岸巻きの途中の石碑 |
キノコの王様 |
五丈沢対岸 |
圧倒的なボリューム感をもった岩がこちら側の押し出してくるように重なっている。登攀ラインを探ってみるが、弱点は非常に乏しく、無理を押してチャレンジすれば本物の坊主にお世話になることになる。残置はあったので、登る猛者はいるのだろう。
坊主滝 |
坊主滝の巻きは苦戦するパーティーも多いようだが、基本に忠実に滝の落ち口を目指せば、比較的容易に懸垂下降もせずに降り立つことができる。
右のガレ沢を数10m登り、木の根っこを掴んで小尾根に乗り上げ、 落ち口目指して潅木帯をトラバースすると難なく落ち口にぴたりと出る。 |
坊主滝上 |
坊主滝の上の10mスラブ滝は直登しようとすると結構悪い。右の草の詰まったルンゼを登る。
登った先に黄蓮左俣との出合があった。
坊主滝上10m |
二俣 |
右俣、最初の滝 |
最後は足元をすくわれないように・・・ |
人生には無駄なことも必要である |
奥千丈下部 |
右岸巻きに入る |
スラブの終わったところを見極め、懸垂下降で再び沢床に復帰する。
右岸潅木から懸垂 |
なかなか微妙なバランスを要するスラブ滝も多く、クラックなど弱点を探しながら攀じていく。
2400付近はインゼルとなり、右岸になかなかの物件があるのでそこで幕とする。薪は少なく濡れているので結構焚き火は諦める。周囲の潅木は薪用なのかところどころ伐採されている。そのような人たちとは一緒に登りたくないと思った。
2400付近 |
周囲はだいぶ色づいている。
翌朝もなかなか痺れるスラブ登攀から始まる。
沢登りは、どこを登るか、どこを巻くか、その決断を繰り返すゲームだ。
奥の滝 3段60m |
最後は、少し奮闘的なハイマツこぎを経て頂上より少し左手の登山道に飛び出す。
黄蓮谷。
僕の沢登りの理想のルート。
さすがに簡単ではなかった。沢のグレードはよくわからないが、4級とか3級上とか言われる。感覚的には、4級の世界を垣間見た気がする。
決して易しい渓ではない。
でもまだまだいけると思った。技術的にも体力的にも余裕があった。
まだまだ上にはヤバイ世界がいくらでも待っている。どこかで限界が訪れるのだろう。
でもまだ上を目指したい。チャレンジしたい。圧倒的な自然と対峙したい。もう少しでも強くなりたい。ああ、こんなものかと諦めるのはやっぱりもっとじじいになってからでいい。
(組長)