Member : フジ、組長
Timeline :10日 矢木沢ダム0654~0747水長沢出合~0940魚止沢~1023魚止連瀑1110~1224文珠沢出合~1400白沢出合から100m下流BP
11日 BP0603~0623白沢の先のゴルジュ~0709銅ノ沢出合~0800二俣~1039稜線~1055平ガ岳頂上1142~1517平ガ岳登山口
奥利根の源流で冒険してきました。
坂東太郎の異名を持ち、国内最大級の河川である利根川。その最奥にある奥利根源流域は、沢を志す者にとっては特別な場所だ。様々な経験を積んで、沢の総合力を身に付けたものだけが立ち入ることのできる秘境。
僕にとっては、飯豊とともに沢ヤとして憧れの地であり、ここを自由に闊歩できるようになれば、本物の沢ヤだと胸を張って言えるような気がしていた。
奥利根源流域の遡行の困難さは、その行程の長さ、遅くまで残る雪渓の処理、水量の多さなど多々挙げられるが、奥利根湖によって人里と完全に隔絶された「秘境」感は、入渓者の心理的グレードを否応無しに引き上げる。周囲に登山道はほぼなく、山と高原地図の見慣れた赤線はここの地域だけ空白地帯となっている。
ひとたび渡船で奥利根湖の最奥に辿り着けば、あとは前進あるのみ。渓で敗退しても帰りの船を携帯で呼ぶなんてことはもちろんできない。湖岸を歩いて帰るにもまる1日以上ヤブをかき分けていかなければいけない。
本物の冒険がしたければ、奥利根源流はまさに格好の場所である。そして、山登りに冒険的要素を強く求める僕にとっては、まさに格好の山域であった。
今回は、その奥利根の源流域でも比較的入門と言われている水長沢を遡行することにした。入門といえどもガイドブックに書かれているグレードは3級上であり、雪渓や水量によって困難度は大きく異なってくる。
今年は春先まで残雪が比較的多かったし、先日のナルミズ沢でも結構雪が残っていたので、雪渓の状態がとにかく心配だった。下もくぐれない、上にも乗れない、高巻きもできないヤバイ雪渓が出てきたらどうしよう・・・。連日、猛暑を伝えるニュースが流れているが、街ではうんざりでも「よし、どんどん融けろー」って密かに太陽を応援していた。
期待と不安。今回はむしろ不安感の方が大きかったかもしれない。少し憂鬱でさえあった。
水長沢は、交通手段の選択が難しい。忠実に平ガ岳まで詰めると、奥只見まで抜けるしかない。奥利根湖に車を置けば、越後三山と谷川連峰をぐるりと回り込んで戻ってくるしかない。
今回は2台の車を使って、前夜に1台を下山口の平ガ岳登山口に回し、もう1台で奥利根湖に向かうことにした。
フジ兄と小出IC近くの道の駅ゆのたにで待ち合わせる。2台連なって、深夜の樹海ラインを延々とドライブする。遠すぎてうんざりした頃にようやく平ガ岳登山口にたどり着いた。満天の星空を見上げたあと、1台車を置いて再び長い長い樹海ラインを延々と戻る。ようやくみなかみの道の駅にたどり着き、2時間ほど仮眠を取る。
渡船は6時に予約してある。朝方は雲が出ていて少し気になった。
「あれ、今日だっけ?」という集合時間になっても現れない寝ぼけ眼の船の主人には参ったが、渡船場は混雑してなく、順調にボートを入水させる。
登山で奥利根に入るには、警察とダムの管理所へ登山届を提出しなければならない。
沢登りのパーティーはいないようだが、釣り人が数パーティー、小型のエンジンを搭載した船に乗り込んで奥利根湖の彼方に消えていった。
軽快なエンジン音を奏でながら、静かな湖面を風を切って進んでいく。沢登りといえば、たいていアプローチで汗だくになることが多いが、今回は船上の人となり、朝の爽やかな涼しい風を浴びてのスタート。
矢木沢ダム |
個性の強い宿のオヤジ笑 |
船を出してくれた宿のオヤジには奥利根湖は庭みたいなもんなんだろう。奥利根湖の最奥まで最短距離でぐんぐん進んでいく。
今の時期は、湖はほぼ満水に近く、小穂口沢の流れ込みを越え、水長沢の流れ込み近くまでボートで入ることができた。湖面を大きな魚が跳ねたが、バスのようだ。
宿の飯を出さないと、と、オヤジはそそくさと船を操って帰っていった。
誰もいない奥利根湖の最奥に僕らはぽつんと残された。もう行くしかない。何とも言えない緊張感というかプレッシャーというか・・・。ついに来てしまった。
秘境に取り残された僕ら |
3,4分で水長沢の出合にたどり着く。一見、これが平ガ岳まで続く坂東太郎の一大支流なのか疑問に思うほど、小沢に見える。
期待と不安が入り混じった、何とも言えない気持ちで渓に入った。
水長沢出合 |
とにかくいろいろなことを考える。宿のオヤジによると、昨日、5人パーティーが入渓したらしい。おそらく彼らが沢登りで水長沢に入渓した今年の最初のパーティーだと思われる。逃げ帰った様子はないから、なんとか行けたのかな。
しばらくは、明るく穏やかな川原が延々と続く。しかし、早速現われた小さな雪ののブロックに不安が募る。
今回は奥利根のイワナに出会うこともひとつの目的である。滔々と流れる青い流れにイワナの影を探すが、なかなか姿を現してくれなかった。見かけなくてもとりあえず竿を出してみるほど僕らに余裕はなく、見かけたら竿を出そうくらいの気持ちで、遡行に専念する。
執拗に僕らを追い回していたアブは、いつの間にかいなくなっていた。
ハヤ止め |
最初に現れるハヤ止めの滝は難なく右から通過。
赤い崩壊地を左手に見ながらどんどんと河原を進んでいくと、深い淵に行きあたった。巻きは難しそうで、流れも早くないので泳ぐことにする。
ザックが大きいせいで泳ぎづらいが、右壁にはホールドが多く、容易に突破できる。
フジ兄は、いつものみなかみセブンで買ったゴーグルをつけての遊泳。だんだん、あのピンクのゴーグルが羨ましく、無性に欲しくなってきたのは気のせいか。
水温はそれほど低くなく気持ちいい |
奥利根の怪 |
ここはヒールフックを決めないと突破できない(ウソです) |
ホールドはしっかりしている |
体幹の強さを見せつける埼玉出身のフジ兄選手 |
最後は魚止め沢の滝に打たれてフィニッシュ |
雪渓は大きく、結構安定しているように見えた。出口も見えている。なるべく音を立てず、素早く一人づつ通過する。ひんやりとした空気の中、息が詰まりそうな瞬間だ。崩れたら、ひとたまりもないだろう。
静かにダッシュで |
魚止めの連瀑帯 |
すぐ先には威圧的なゴルジュが広がっていた。魚止めの連瀑帯だ。ここは素直に左岸の大高巻きに入る。踏み跡はない。目印となる木の位置、岩の位置、通過できそうなルート、地形全体を頭に入れてから、急傾斜の土ルンゼをバイルを使ってよじ登る。小尾根の上に乗り上げ、潅木帯をトラバースする。崩れやすく急傾斜の土の斜面もあり、気を抜けない。途中、沢筋をみると豪快な8m滝がしぶきを上げていた。なるべく高度を上げないように潅木を伝っていくと、ガレた小沢が見えてきた。手前の潅木には、朽ち果てた懸垂下降用のスリングがぶら下がっていたが、その小沢から容易にクライムダウンできた。
8m滝 |
ところによりヌメる |
フリーを楽しむ |
地味に泳ぐ |
豪快に泳ぐ |
やっぱ、アレほしい |
すると直ぐに右岸から大上沢が入り、本谷は7mの滝をかける。ここは大上沢の滝を少し登り、潅木を伝って本谷の滝上にトラバースする。
7m滝 |
傾斜はそれほどなくホールドも豊富なので登るのは簡単だ。
2段2条12m |
小滝をいくつか越え、再びゴルジュ。2mCSの滝は、左岸をへつって最後は豪快に水流を突っ張った。
深碧 |
2mCS |
寝床を探しながら遡行を続けると、すぐ先にアートのようなSB。
美しいがおっかない。
井戸沢を分けたあとはしばし平凡な河原が続く。疲れも出てきたところで少しだれる。平らな河原ではあるが、増水のリスクを避けられるよいビバークポイントはあまりない。左岸に一つ、まあまあの物件あり。
白沢手前100mくらいの右岸になかなかの物件有り。一応、ガイドブックにもある白沢出合の対岸のポイントも見てみたが、ほぼ川原で水流に洗われたあともあり、却下。少し戻って、先ほどのなかなかの物件で落ち着く。
なんとか無事に一日を終えた。なかなかいいペースだ。イワナは残念だったが、まずは無事に遡行することが先決だ。
薪は豊富にあり、直ぐに立派な焚き火となった。
薄紅色のハナミズキが綺麗だった。疲れもあってすぐに酔っ払った。何の話をしただろうか。結婚のこととかそんなことを話した気がする。人に愛されるフジ兄が羨ましい。僕の方はてんでダメだ。
あたりには、原始の森が広がっている。揺らめく炎の美しさは太古の昔も変わらない。
翌朝。
天気はまあまあ。もう一度火をおこし、朝食を食べてから出発する。
すぐに渓はゴツゴツとした赤い岩が露出した険しいゴルジュ地形となる。大きな釜の先には、これはやばい、と直感した崩壊した雪渓のかかる小滝。ガイドブックで右岸高巻きと書かれている2段15m滝かどうか迷ったが、規模からして前衛の小滝だろうと考えた。ブロックは明らかに不安定で潜ることも登ることも難しそうだ。周囲の地形と地形図をよく見て、高巻きルートを探る。右岸の急傾斜の潅木帯を這い上がり、平坦地にでてからトラバースを開始し、ゴルジュ先の小沢から本谷に下降するのが良さそうだ。
少し戻り、土のルンゼに取り付く。潅木を鷲掴みにして強引に体を引き上げていくと、予想通り平坦地に出る。平坦であっても密ヤブ。漕いで漕いで先に進む。時折、右下にあるであろう滝を確認しながら、ヤブの薄いところを縫うように進んでいく。踏み跡はない。しばらくひどいヤブを進むと、先に見える木々の様子から窪状の地形が確認できたので、少し下降気味に進んでいくと、狙い通り小さな窪にたどり着き、ほんの10mほど降りると簡単に本谷に復帰できた。ひと仕事終えた開放感に浸る。
崩壊したブロックが沢を埋める。この手前から大高巻きに入る。 |
銅ノ沢 |
その先に15mの幅広のすだれ滝。
傾斜はそれほどないが、岩肌は脆い。一応ロープを出し、岩をよく確かめながら慎重に登る。Ⅲ+。
15mすだれ滝 |
右側を登る |
8mのすだれ滝は、下部を微妙なへつりで越え、最後は右側からよじ登る。
やがて1380の顕著な二俣。
左俣に入ると、だいぶ源頭っぽい雰囲気が出てくる。
1380二俣 |
しかし、すぐ先に広がっていた白い塊を目にしたとき、一気に緊張感が戻ってくる。
さすがにまだまだ楽に通らしてはくれない。
5、6個のSBを潜る。結構ペラペラなものもあって、神経をすり減らす。
雪渓帯を抜け出すと、沢は次第に傾斜を強め、ぐんぐんと高度を上げる。水も次第に涸れ、沢形を忠実に詰めていく。最後は、なるべく本流沿いに進んでいったら、水長沢尾根と稜線の鞍部あたりに詰め上がった。そこから頂上へは優しい草原が広がっていた。
頂上には、ハイカーが何人かいた。どこから来たのかと尋ねられ、奥利根湖からだと答えると、わかったようなわからないような顔をしていた。
頂上は大したところではなかったが、木道のテラスに腰を落ち着かせたとき、深い安堵感に包まれた。
下山の登山道は、小さなアップダウンが多く少々だれる。少し雨もぱらついた。
下山後の温泉は、銀山平のカモシカの湯とかいうところに入ったが、イマイチだった。フジ兄と行く時はいつもこんな感じだ・・・。
飯は、地元の家族で賑わう定食屋「よしや」さんへ。お盆の一家団欒を過ごす家族がいた。孫からおじいちゃんまで、水入らずで和やかに食卓を囲んでいる。家族っていいなぁ。羨ましかった。
憧れの奥利根。
僕らはまだ、その一端に触れたに過ぎない。
(組長)